骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2010-04-30 12:40


[CINEMA] 「石井監督は人間の生々しさやモヤモヤ、パッションを描き続ける」─『川の底からこんにちは』クロスレビュー

「人生もうがんばるしかない」満島ひかり演じる主人公の変化に、脚本そして演技力の巧みさが光る
[CINEMA] 「石井監督は人間の生々しさやモヤモヤ、パッションを描き続ける」─『川の底からこんにちは』クロスレビュー
(C)PFFパートナーズ2010

石井裕也監督の商業映画第一弾『川の底からこんにちは』は、自身の映画に脈打つリズムを決してゆるめることなく、結果的に爽やかな青春譚としての余韻を持たせることに成功している。玩具会社勤務の派遣社員であった主人公・木村佐和子は、都会での生活にぐったりとしながら、なかなか希望を持てないでいる。そして、ひょんなことから病に倒れた父の替わりに田舎のしじみ工場を背負って立つことになる。前半の画面から漂ってくる鬱屈した気分と刺々しい会話のやりとり、そこで空回りし続ける佐和子の憤りは、文字通り笑えないユーモアとしての静かな破壊力を強めている。そこから彼女が、工場のおばさんたちの冷たい視線を受けながら、一緒に帰省したバツイチで子持ちの彼、そして父と叔父とのやりとりのなかで木村家の一人娘としての記憶を呼び覚ましていく過程のダイナムズムはさすがと言うべきだろう。

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(C)PFFパートナーズ2010

石井監督が今作で目指したという「中途半端なひとりの人間が立ち上がっていく姿」、ワーキング・クラス・ヒーローということでいえば、今作の公開と同時期、日本のワーキング・クラス・ヒーローとも言える曽我部恵一率いるサニーデイ・サービスが再結成を果たし、10年ぶりとなるニューアルバムをリリースした。牧歌的なまでのムードのなか、変わらぬ友人や恋人たちとの営みを描きながら、そこには必ず社会と生活への真摯な眼差しがある。その新作『本日は晴天なり』と『川の底からこんにちは』は、表現は異なるが共鳴するものがあるのではないかと感じている。サニーデイの音楽のように、石井裕也監督の映画にあるリズムというのは、生活にある不穏さやけだるさも含めているからこそ、観るものに奇妙なひっかかりを残すのではないだろうか。

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(C)PFFパートナーズ2010


【関連リンク】

石井裕也監督インタビュー
「時代の虚無感や閉塞感を逆手にとって、少しでも前向きに捉えることが今やるべき事」(2010.4.29)

アップリンク・ニューディレクターズ・シリーズ公式HP・石井裕也監督ページ



『川の底からこんにちは』

5月1日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
製作:矢内 廣、氏家夏彦、武内英人、北出継哉、千葉龍平、宇野康秀
監督・脚本:石井裕也
プロデューサー:天野真弓
撮影:沖村志宏
照明:鳥越正夫
録音:加藤大和
整音:越智美香
美術:尾関龍生
音楽:今村左悶 野村知秋
編集:髙橋幸一
スクリプター:西岡容子
助監督:近藤有希
アシスタントプロデューサー:和氣俊之
特別協賛:KODAK
助成:文化芸術振興費補助金
配給:ユーロスペース+ぴあ
出演:満島ひかり、遠藤 雅、相原綺羅、志賀廣太郎、岩松 了
2009年/35ミリ/112分/カラー/1.85ビスタ/モノラル
(C)PFFパートナーズ(ぴあ、TBS、TOKYO FM、IMAGICA、エイベックス・エンタテインメント、USEN)

公式サイト


レビュー(5)


  • aki38さんのレビュー   2010-03-19 11:52

    「川の底からこんにちは」を観て

    「私なんてどうせ中の下の女ですから」「しょうがない」となにか物事にぶつかると諦めてしまう主人公佐和子  上京して5年 夢も希望もなく毎日を送っている父が、病で倒れ一転 父の跡継でシジミ工場の経営者してやっていこうとするが、おばさんばかりの従業員に嫌わ...  続きを読む

  • ブルーベリーさんのレビュー   2010-03-24 12:14

    中の下だから、がんばろう!

     タイトルに惹かれ予告編を観てみたら大爆笑、是非とも観たいと思っていた映画です! 主人公の佐和子は、上京5年目にして5人目の恋人と付き合い、5つ目の会社で働いています。 口癖は「しょうがない」。 これを聞いただけで覇気のなさが伝わってきました。...  続きを読む

  • さるべさんのレビュー   2010-03-25 16:08

    『川の底からこんにちは』、変わらぬ突拍子のなさ

    これまで観た石井裕也監督作品は、その面白さが言葉で説明するのが難しいタイプのものだった。 登場人物の言動やストーリー展開が意表をつきまくったり理屈が通らなかったりで、納得しながら安心して観ていられない。 台詞の量が多い会話部分も、漫才でい...  続きを読む

  • NAOさんのレビュー   2010-03-25 21:59

    満島ひかりの大変身--『川の底からこんにちは』

    社歌と満島ひかりの作業服姿に、興味津々だった作品です。 上京5年目、彼氏も妥協、嫌な仕事も我慢し、ストレスをいっぱいにため込んで生きている主人公。「私なんて中の下ですから」「でもそれって仕方ないですよね」と極端に悲観的な女の子を、満島ひかりが地...  続きを読む

  • Praruriさんのレビュー   2010-03-27 19:05

    レベルの高い開き直り

    社会や自分にもなんの期待を持たず。脱力感と冷めた物腰。 だけど本当は自意識まみれ、まだ外にも内にも少し期待している気持ちが残っていて、 状況を認めきれていないからひねくれている、ありがちな今の若者の主人公。 そんな主人公が全て開き直り、自分と周...  続きを読む

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