(C)PFFパートナーズ2010
石井裕也監督の商業映画第一弾『川の底からこんにちは』は、自身の映画に脈打つリズムを決してゆるめることなく、結果的に爽やかな青春譚としての余韻を持たせることに成功している。玩具会社勤務の派遣社員であった主人公・木村佐和子は、都会での生活にぐったりとしながら、なかなか希望を持てないでいる。そして、ひょんなことから病に倒れた父の替わりに田舎のしじみ工場を背負って立つことになる。前半の画面から漂ってくる鬱屈した気分と刺々しい会話のやりとり、そこで空回りし続ける佐和子の憤りは、文字通り笑えないユーモアとしての静かな破壊力を強めている。そこから彼女が、工場のおばさんたちの冷たい視線を受けながら、一緒に帰省したバツイチで子持ちの彼、そして父と叔父とのやりとりのなかで木村家の一人娘としての記憶を呼び覚ましていく過程のダイナムズムはさすがと言うべきだろう。
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石井監督が今作で目指したという「中途半端なひとりの人間が立ち上がっていく姿」、ワーキング・クラス・ヒーローということでいえば、今作の公開と同時期、日本のワーキング・クラス・ヒーローとも言える曽我部恵一率いるサニーデイ・サービスが再結成を果たし、10年ぶりとなるニューアルバムをリリースした。牧歌的なまでのムードのなか、変わらぬ友人や恋人たちとの営みを描きながら、そこには必ず社会と生活への真摯な眼差しがある。その新作『本日は晴天なり』と『川の底からこんにちは』は、表現は異なるが共鳴するものがあるのではないかと感じている。サニーデイの音楽のように、石井裕也監督の映画にあるリズムというのは、生活にある不穏さやけだるさも含めているからこそ、観るものに奇妙なひっかかりを残すのではないだろうか。
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【関連リンク】
石井裕也監督インタビュー
「時代の虚無感や閉塞感を逆手にとって、少しでも前向きに捉えることが今やるべき事」(2010.4.29)
アップリンク・ニューディレクターズ・シリーズ公式HP・石井裕也監督ページ
『川の底からこんにちは』
5月1日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
製作:矢内 廣、氏家夏彦、武内英人、北出継哉、千葉龍平、宇野康秀
監督・脚本:石井裕也
プロデューサー:天野真弓
撮影:沖村志宏
照明:鳥越正夫
録音:加藤大和
整音:越智美香
美術:尾関龍生
音楽:今村左悶 野村知秋
編集:髙橋幸一
スクリプター:西岡容子
助監督:近藤有希
アシスタントプロデューサー:和氣俊之
特別協賛:KODAK
助成:文化芸術振興費補助金
配給:ユーロスペース+ぴあ
出演:満島ひかり、遠藤 雅、相原綺羅、志賀廣太郎、岩松 了
2009年/35ミリ/112分/カラー/1.85ビスタ/モノラル
(C)PFFパートナーズ(ぴあ、TBS、TOKYO FM、IMAGICA、エイベックス・エンタテインメント、USEN)