骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2010-03-30 22:40


[CINEMA] 「この映画は気休めのように設置してある倫理観という壁を破壊する」─『おそいひと』クロスレビュー

新作『堀川中立売』公開を控えた柴田剛監督が障害者の殺人というテーマを描いた話題作、遂にDVDリリース
[CINEMA] 「この映画は気休めのように設置してある倫理観という壁を破壊する」─『おそいひと』クロスレビュー
(c)2010 Shima Films All Rights Reserved.

公開時の異例とも言える反響を経て、待望のDVDリリースとなる今作。新作『堀川中立売』の公開も楽しみな柴田剛監督による物語を描ききる力強い筆致、そして主演を務める住田雅清のたくましい存在感が太い柱となっている作品である。介護をする周囲の人物や同じく障害を持つ友人との交流を丁寧に繋げていくことで、主人公の住田が文字通り体を張って狂気の縁へと乗り込んでいく様により、正常と異常の境目はどこにあるのかという命題を問いかけていく。だらしなく酔いつぶれ、ハードコアなミクスチャー・サウンドに戯れる住田の極めて人間臭いキャラクターが、その後の暴走に説得力を加えている。

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(c)2010 Shima Films All Rights Reserved.

だからこそ凄惨な描写よりもまず、住田の生き方にある種の潔さを感じてしまうことに、観る者は驚かざるをえない。人は毎日なにかを選択していく、自ら選び取っていく過程こそが生きることなのだということに真摯に立ち向かった作品であること、そして障害者である住田の逡巡に誠実に向き合うことができることが、今作が共感を持って迎えられた大きな要因に違いない。モノクロの抑制された画面と、World's End Girlfriendによるノイジーなサウンドが掛け合わさり、ふつふつとテンションを高めていく構成は、今作の真骨頂。ロードショー当初のセンセーショナルな評価から時間の過ぎた現在こそ、誰しもが感じる予測不可能な衝動と自由への渇望を捉えたこの作品の真価が問われるのではないだろうか。



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『おそいひと』
2010年4月2日リリース

TMSS-169
3,990円(税込)
トランスフォーマー
2004年/日本/DVD/83分(セル版のみ特典映像約40分)/モノクロ/片面1層/音声1:日本語/16:9/ビスタサイズ

製作:志摩敏樹
監督:柴田剛
原案:仲悟志
音楽:World's End Girlfriend、バミューダ★バガボンド
撮影:高倉雅昭、竹内敦
録音:森野順
音響効果:宇野隆史
編集:市川恵太、鈴木啓介、熊切和嘉、柴田剛
出演:住田雅清、とりいまり(維新派)、堀田直蔵(バミューダ★バガボンド)、白井純子、福永年久、有田アリコ



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レビュー(4)


  • yumejiさんのレビュー   2010-03-18 15:51

    カワイイ障害者を演じるのも疲れる!?

     重度身体障害者の住田雅清は、介護の研修に来た女子短大生に「一発ヤラせて下さい」と書いたFAXを実名で送った。誰もがうすうす気付いていながら、うまく言葉にできなかった違和感がここにすくい取られている。障害者を決して排除しないのだが、中途半端に受け入れ...  続きを読む

  • toppojijoさんのレビュー   2010-03-19 17:07

    障害者が演じる障害者映画

     住田雅清、42歳。重度の脳性麻痺患者で、訪問ヘルパーの助けを借りながら自活している。  主人公の住田雅清を演じるのは、住田雅清本人である。年齢や基本的な設定も実際のものである。しかし、これはドキュメンタリーではなく、映画なのだ。それもクライムやス...  続きを読む

  • bono1972さんのレビュー   2010-03-19 22:23

    身体障害者のリアルな狂気とは?

    映画というフィクションの中の話であっても、主役の住田雅清と友人の福永年久は本当の身体障害者だ。彼らは映画の中で何度か重要なやり取りをするが、そのシーンがリアルで良い。言うこと聞かない肉体に対する、精神的なルールについてのやり取りをしている様に見えた。...  続きを読む

  • hokazonoさんのレビュー   2010-04-28 12:05

    身体性の獲得

    この映画って、障害者をめぐる社会問題とか、そういう話ではないと思う。 また、殺人の動機を障害者の内面の声から探ろうとする試みもきっとうまい見方ではない。何故なら、内面の表現において、とても大きな障害を持っているのが、主人公の設定であり、それと同時に...  続きを読む

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