骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2010-03-19 14:05


[CINEMA]「消費される為ではなく、ゆったりと何かを残してくれる映画」『チャンドマニ ~モンゴル ホーミーの源流へ~』クロスレビュー

近代化を続けるモンゴルの首都・ウランバートルで仕事にいそしみながら遊牧へ思いをはせるザヤー。そしてウランバートルのトゥメンエフ劇場でホーミー唱者として活躍するダワースレン。ふたりの若者が、乗り合いの長距離バスで偶然出会い、ホーミーの故郷であるチャンドマニ村へ向かう。その行程を通して、モンゴルの自然と人々の暮らしが、伝統的な音楽とともに静かに綴られていく。大自然の壮大さと厳しさを伝えるランドスケープの美しさは格別で、ホーミーだけでなく、様々な楽器が登場する点も興味深い。亀井岳監督のドキュメンタリーと物語のちょうどまんなかに位置する演出は、キャストの自然な表情を引き出すことに成功している。例えばドート村の遊牧民、ザグドがカメラを前にイケル(馬頭琴のルーツとなる楽器)をおもむろに弾き始めるものの、途中で「忘れちゃったよと」を指を止めてしまうシーンには、ドキュメンタリーならではの臨場感とモンゴルに暮らす人のおおらかなキャラクターがスクリーンからにじみ出してくる。

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ひとくちにホーミーといっても、この作品に登場する味のある顔つきの出演者たちと一緒で、発声する方法や音の質感は千差万別だ。鍛錬を続けることで、豊かな味わい深い響きを鳴らすことができる、その振動が広がっていくモンゴルの光景には、いつでも老人と若者、小さい子供が寄り添っている。ホーミーという音楽の懐の深さを確かに伝えるとともに、モンゴルの人々の心優しい性格、たゆまぬ助け合いの心がじんわりと効いてくる。「ホーミーとは風が体の中を通って口から出る音」という台詞に辿りつくとき、長い歴史の中でゆっくりと育まれたホーミーの神髄の、ほんの一端に触れることができるかもしれない。



『チャンドマニ ~モンゴル ホーミーの源流へ~』
3月20日(土)より渋谷アップリンク他、全国順次ロードショー

監督・脚本・編集・制作:亀井 岳
撮影:古木洋平
出演:ダワースレン、ザヤー、ダワージャブ、センゲドルジ、他
後援:駐日モンゴル国大使館/在モンゴル日本国大使館/社団法人日本モンゴル協会
協力:財団法人横浜市芸術文化振興財団
2009年/日本・モンゴル/DV/96分/カラー/モンゴル語
配給:FLYING IMAGE
宣伝:チャンドマニ上映実行委員会

公式サイト



映画『チャンドマニ ~モンゴル ホーミーへの源流へ~』公開記念イベント開催!

2010年3月20日(土)
メイキング写真スライドショー×トーク 『Making of Chandmani』

出演:亀井岳(監督)、古木洋平(撮影)
監督の亀井岳と、撮影の古木洋平のスライドトークショー。旅から冬のモンゴルへ。二人は如何にしてこの映画をつくりあげたのか? 出会いが出会いを呼び完成したこの映画の本質が、写真の数々とともに今明かされる。本編上映版でカットした貴重な未公開演奏シーンの限定上映もあり。
上映/12:30、終了後イベントスタート
料金:映画入場料のみ

2010年3月21日(日)
ホーミー×フーメイユニット「タルバガン」等々力政彦が奏でる
『のどうたLive &Talk』

出演:等々力政彦(タルバガン)
フーメイ/ドシプルール奏者、等々力政彦(民族音楽ユニット「タルバガン」)のトークとミニライブ。
喉歌の世界は西モンゴルだけではない。等々力政彦の音は、映画が辿った源流のさらにその向こうに大きく広がる響きを伝える。
上映/17:30 イベント/19:15
料金:2,500円(1ドリンク付)
★映画の前売券もしくは半券をお持ちの方は、1,000円にてイベントのみの参加も可能
等々力政彦HP

2010年4月3日(土)
オルティンドー、馬頭琴、喉歌の競演 『Live 声、喉、弦』

出演:伊藤麻衣子、三枝彩子、アラーンズ・バトオチル、岡山守治
モンゴル国立文化芸術大学に学んだオルティンドー歌手【伊藤麻衣子】と【三枝彩子】、モンゴル民族舞踏団の馬頭琴ソリストでホーミーも聴かせる【アラーンズ・バトオチル】、ホーメイを主軸に倍音唱法、口琴、ボーカルなどを渾然一体と融合させる倍音楽家【岡山守治】のライブが実現。オルティンドー(長唄)×馬頭琴×ホーメイ(喉歌)の豪華競演!
上映/13:00 イベント/14:40
料金:2,500円(1ドリンク付)
★映画の前売券もしくは半券をお持ちの方は、1,000円にてイベントのみの参加も可能
伊藤麻衣子HP
三枝彩子HP
岡山守治HP

2010年4月4日(日)
歴史・文化・現状から、映画チャンドマニがさらに解る 『クロストーク 西蒙礼賛』

出演:亀井岳(監督)、木本文子(『チャンドマニ』翻訳)
『チャンドマニ ~モンゴル ホーミーへの源流へ~』の翻訳を手がけ、ウランバートルとホブド県、まさにこの映画の舞台にて通算14年間日本語教師を続けた【木本文子】。監督の亀井とともに、写真も交えながら、体験に根ざした目線で彼の地に生きることを語りあう。
上映/12:30 イベント/14:15
料金:1,500円(1ドリンク付)
★映画の前売券もしくは半券をお持ちの方は、500円にてイベントのみの参加も可能

2010年4月15日(木)
UPLINK定例、暗闇×倍音ワークショップとチャンドマニのコラボ特別版
『クラヤミノtones×チャンドマニ』

倍音コンダクター:徳久ウィリアム、他
映画で使われている喉歌のテクニックについて、その原理や手がかりを探った後、室内を完全暗転した暗闇の中、参加者が一斉に発声呼吸するワークショップのお試し版が体験できる。出演は、倍音コンダクターの【徳久ウィリアム】。ホーメイなどの民族音楽的発声から、デス声、独自の「ノイズ声」まで、多様な声を操る。
上映/18:00 イベント/19:50
料金:予約3,000円/当日3,500円(1ドリンク付)
映画の半券持参:予約2,000円/当日2,500円(1ドリンク付)
予約方法・詳細はコチラ
徳久ウィリアムHP

アップリンク・ファクトリー
東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F(渋谷東急本店 右側道200m 右手)[地図を表示]
03-6825-5502
※各イベントは、本編上映後におこないます。
※各日、時間や料金が異なりますので、ご確認のうえご来場ください。

レビュー(10)


  • に~まんさんのレビュー   2010-02-26 10:34

    チャンドマニ試写会(ネタばれかも)

    チャンドマニ試写。渋谷UPLINKにて。 モンゴルの人たちの生活を撮ったドキュメンタリーのようであり、またチャンドマニ村を目指すロードムービーのようでもあり、ホーミーという文化芸能を伝える映像のようでもあり、色々な側面を持つ映画であった。色々な...  続きを読む

  • ぴつ太さんのレビュー   2010-02-26 17:05

    モンゴル?

    朝青龍でしょ。えーとえーとええーとええーーっと、チンギス・ハーンにジンギスカン?くらい。知っているのは。 と思ったら、ジンギスカンは、“日本発祥の料理で、チンギス・ハーンやモンゴル国とは無関係。”とのこと。wikipediaによると。初めて知りまし...  続きを読む

  • kim41さんのレビュー   2010-03-01 15:09

    ゆったりゆったり

    ホーミーの名人ダワージャブ氏の独唱ではじまるオープニングに一気に心ひきつけられる。 学生の頃、友人の家で初めて聞いたホーミーのCD。それ以来、個人的にも好きになり自分で何枚かCDも買いました。 音楽としてのホーミーは今でも好きで時折聞きますが、そ...  続きを読む

  • da_shuさんのレビュー   2010-03-02 23:36

    音楽の源流

     映画の冒頭、スクリーンの向こう側からこちらを穏やかに見つめているようなダワージャブ。ビルの屋上に立ち、草原を赤く染める太陽とその先にある故郷を寂しげに見つめるザヤー。そして、誰もいない劇場で部屋中の空気を全て震えさせるような迫力のダワースレン。ホー...  続きを読む

  • Sightsongさんのレビュー   2010-03-03 07:24

    ノマドロジーという移動性と偏在性

     映画は、チャンドマニに住む名人・ダワージャブのホーミーからいきなり始まる。びりびり震える低音と、鼓膜に刺さるようなキーンという高音とが相応し、インパクトが大きい。  なぜそのような場所なのか。本物のホーミーは都市ウランバートルからは消えてしまい、...  続きを読む

  • kaminoteさんのレビュー   2010-03-05 01:08

    喜怒哀楽とともに、生きていることを証明している

    ホーミーは風が体の中を通り抜ける音。 映画の中に登場するホーミーを幾度となく聴いているうちに、「風」というコトバがしっくりくるようになった。 まるで地響きのような低音と、遅れて共鳴する高音。 それはどこか哀愁が漂い、これからの人生に捧げる魂の音...  続きを読む

  • makotoさんのレビュー   2010-03-05 12:26

    風の国

     モンゴルについての知識はジンギスカンと朝青龍ぐらいで全くの予備知識なしでの鑑賞でしたがそれなりに楽しく拝見した。 初めて耳にした「ホーミー」はお爺さんが朝うがいをしている音に不協和音的な高音が微かに混ざったような実に摩訶不思議な音でした。 魚河...  続きを読む

  • michiさんのレビュー   2010-03-06 08:51

    ホーミーの持つ深い力に感動

     モンゴルというとやはり、少し前に話題になっていた 朝青龍が真っ先に頭に浮かびますね! 他にもモンゴル人力士が沢山、日本の相撲界で活躍しているので 漠然とですが、モンゴルに親近感を持っています。  そんなことから本作に興味がわき、試写に参加い...  続きを読む

  • へけもそさんのレビュー   2010-03-17 01:26

    音楽の力を感じる映画です。

    ホーミーのCDは持っているし、コンサートにも行ったことがある。だから、すばらしい音楽であることは知っているつもりだった。しかし、モンゴルには行ったことがない。この映画を見て、モンゴルはどんな国か、ホーミーはどんな人が歌っているのか、がわかってますます...  続きを読む

  • nishidaさんのレビュー   2010-03-20 06:08

    それぞれのホーミーが、それぞれの場所で鳴っている。

    映画の冒頭、主人公のひとりであるザヤーが、アパートの屋上に立ち、ホーミーを奏でるシーンがある。大都市ウランバートルに職を求めたこの若者が、このとき何を想い、そして歌うのか、観客はまだ知らされていない。東京ほどではないが、鉄筋コンクリートのビルが建ち並...  続きを読む

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