渋谷アップリンク・ファクトリーで体感試聴会を行ったJoseph Nothing。
Joseph Nothingのニューアルバム『Shambhala Number Two&Three』リリースを記念して、渋谷アップリンク・ファクトリーにて体感試聴会が開催された。2枚組の新作からこの日のためにJoseph氏が特別に編集した音源、そしてアルバムのアートワークを手がけたタカノ綾氏の映像を交えた爆音試聴の後、2年半ぶりとなるアルバムについて、Joseph氏本人とタカノ綾氏を迎えトークショーが繰り広げられた。まず待望の新作が異なる世界観を持つ2枚のアルバムから構成されることになった由来についてJoseph氏は次のように語る。
Joseph Nothing(以下、Joseph):『Shambhala Number Two』は、今までやってきた作曲方法の延長上にある曲が中心になっていますが、『Three』に関しては、シンセとか電子音楽、楽器を一切使わず、廃墟のなかでフィールドレコーディングをしました。石を転がしている音を録ってそれをリズムに組み込んだり、公園やいろんなところで枯葉を足で踏んでそのベストテイクを録ったり、ある種修行のような何千とか何万を越える音のなかからこれだ!という音を拾ってリズムを組み立てていったんです。作業に取りかかったのが3年くらい前なんですけれど、素材を集めたり編集したりを続けることで、ものすごく長い制作期間になってしまった。でもそのおかげで、ヘッドフォンで聴いたり、小さな音で聴くとまた違う世界が聴こえると思います。今日は試聴会ということで、音が左右に振れたり、非常に体感的に感じていただけたんではないでしょうか。
この夜は持参した数多くの資料を元にアルバムのコンセプトが紐解かれた。
この日は、その廃墟でのレコーディング風景の動画や写真をスライドで映しながら、その独自の制作方法について、そして現在の創作意欲の源となっているUFOや超常現象についてディープなトークが続いた。
Joseph:最初はテーマは決まらないままがむしゃらに曲を作っていたんです。そんななかタカノ綾ちゃんに京都で偶然出会って、お互い超常現象やUFOが大好きということで、意気投合したんです。いろいろと本の貸し借りをしたなかで、そのなかで彼女がシャンバラ(桃源郷)に関する本を貸してくれて、幽霊やUFOなどいろんな超常現象に興味があったなかで、全てがシャンバラに集約されるんだなと感じて。もちろん狂信的にシャンバラ信者ではなくて(笑)、一歩引いた感じで見ているんですが、あっこれだ!とパズルが繋がるような感じでした。アートワークに関しても彼女がアイディアを出して、僕の脳の中を具体化してくれたので、そこからはできあがりは早かったです。
ここで彼は、幼少時の海外での生活の経験などから、かねてから廃墟に対する居心地の良さを感じていたことを語る。
Joseph:香港の混沌とした街を毎日スクールバスから眺めていたり、ニューヨークに住んでいたときは毎朝ブロンクスも見ていたり、子供の頃から、つげ義春の漫画に出てくる風景のような朽ち果てたものに共感を持つようになっていたんです。汚いところが怖い、というよりも、うわぁ懐かしいなぁという気持ち。
トークショーでも息の合ったところを見せたJoseph氏(左)とタカノ綾氏(右)。
タカノ綾氏が加わってからのクロストークでは、さらにUFOや世界の怪奇現象や事件についての博識ぶり(!)を展開。さらに参加者からの質問コーナーでは、今作の裏テーマとして日本のポテンシャルの高さや日本人の素晴らしさを伝えたい、と世界から注目される存在である彼ならではの日本論も語られた。つるりときれいな造形ではなく、歪みや傷といった現代社会で生きるうえでどうしようもなく生じるいびつさを活かし、極限まで作り込み描き込むという方法論を持つ両者。ふたりがお互いにどのような点に惹かれて共同作業をしているのか、という質問には次のように答えた。
Joseph:お互い共有するものがあって、考えていることもツボもまったく一緒なんです。
タカノ綾:たぶんここに来ている人はそうだと思いますけれど、世界がきれいな花の絵だけではぜったい感動しないという部分、世界はすごく残酷で気持ち悪いものとかやばいものと、すごく美しくて崇高で壮大なものの両方でできていて、それをどちらも知りたい。世界の秘密を知りたい、そういう部分が共通していると思う。きれいに作りこまれたものって興味がない。トータルのカオティックでやばいものを知りたいという部分が同じ。
Joseph:そうだね、きれいなシンセの音がフワーッと鳴っていると自分はすぐ汚したくなるし、ダークな部分も含めて世界を見たいというのがあるんです。
鋭敏なセンスを用い、最良のコラボレーションを続けるJoseph Nothingとタカノ綾。そのケミストリーをたっぷりと感じられる夜となった。
[2010年2月1日、渋谷アップリンク・ファクトリーにて]
(取材・文:駒井憲嗣)
「音のディティールにこそ本質が宿る」体感試聴会とは
ダウンロードで音楽を購入し、iPodのイヤフォンで音楽を聴き、住宅環境の問題からステレオで音楽を聴くという行為が衰退しつつある現在、〈スピーカーで正しく音楽を聴く〉という行為の復権により、もういちど音楽ファンに音楽を聴く楽しさを伝えたいというテーマで2009年9月よりスタート。アップリンク・ファクトリーのサウンドシステムにより、音楽家が本来意図していた音のディティールまでを感じてもらうことを目指す。普段ヘッドフォンやMP3で聴いているときには気づかなかった音のディティール、作品の本質や世界観をより感じてもらえる企画となっている。
会場のアップリンク・ファクトリー
【関連リンク】
「一つ一つの素材がジムの演奏を通して有機的な世界を描き出している」─ジム・オルーク『The Visitor』クロスレビュー(2009.9.16)
「いろいろなジャンルの音楽を組合せた〈遊牧民〉のような音楽」─トベタ・バジュン『African Mode』体感試聴会クロスレビュー(2010.1.6)
Joseph Nothing プロフィール
1974年アメリカ生まれ。98年にオーディオ・アクティブ主催のBeat RecordsよりRom=Pari名義でアルバム『View』発表。その後、Iva Daviesからオファーを受け、ピンク・フロイドのGuy Prattと共にアルバムに参加。2001年2月にμ-ziqのPlanet-μより、Joseph Nothing名義でアルバム『Dummy Variation』、7inch『Just One Fix』を発表。イギリスのメジャー誌NME、WIRE等の雑誌で絶賛を受ける。2002年7月に2ndアルバム『Dreamland Idle Orchestra』発表。 2003年7月に3rdアルバム『Deadland after Dreamland』をROMZより発表。The CureのPerry BamonteはわざわざイギリスからUNITでのライブを観に来るなど、国内外で話題が殺到しつつも、実態がみえないミステリアスなイメージは継続する。2005年突如、音楽活動から離れる。2009年から現代美術(作)家のタカノ綾、ドラマーの吉川弾との出会いを切っ掛けにまた音楽活動を再開する。
Joseph Nothing myspaceタカノ綾 プロフィール
1976年、埼玉県生まれ。多摩美術大学芸術学部卒。現代美術(作)家。超常現象へのあからさまに傾倒するマインドを、揺れ動く女性の欲望やファンタジー、エコロジカルなコンテクストに絡めつつ描き出す画題の方向性は、現代のゴヤと言えるかもしれない。一度そのアディクショナルな世界に感染すると、何度でも浸りたくなってしまうのは、そうした社会批評性と現状絶対肯定する生き方のアンビバレンツさに、今を生きるリアリティを感じてしまうからなのだ。
公式サイトJoseph Nothing『Shambhala Number Two&Three』
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