骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2010-02-13 00:15


「融和の思考、そしてスポーツが諸問題を解決する大きな力であることが伝わってくる」『インビクタス/負けざる者たち』クロスレビュー

マンデラ大統領やビナール主将のみならず、この映画の真の主人公は彼ら南アフリカ共和国の人々だったのだと思う
「融和の思考、そしてスポーツが諸問題を解決する大きな力であることが伝わってくる」『インビクタス/負けざる者たち』クロスレビュー
(C) 2009 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.

前作『グラン・トリノ』において、俳優として文字通り体を張ってイラク戦争以降のアメリカを表現したクリント・イーストウッド。はじめは自らのテリトリーに押し入ってきたと憤慨していたアジア系移民との交流により、変化を余技なくされる『グラン・トリノ』の主人公コワルスキに対して、『インビクタス』ではネルソン・マンデラ大統領が調和を重んじる精神により、黒人と白人との壁を穏やかにしかし積極的に取り払おうとし、世界中の人の心を掴んでいく。 キャプテン、フランソワ・ピナールを中心にした南アフリカ・ラグビー代表チームの肉弾のぶつかり合いを手堅く押さえるのと同時に、スポーツを通した友愛、というえてして説教臭くなってしまいがちなテーマを、イーストウッド監督は今回もその独特の〈肉体〉の描き方で伝えようとする。例えばピナールがマンデラ大統領が27年投獄されていたロベン島の刑務所にある独房に自ら入り、手を広げその部屋の小ささを確かめながら当時のマンデラ大統領の思いを感じ取ろうとする息の詰まるようなシーンには、イーストウッドが繰り返し描いてきた肉体の理不尽さと同質の異様なムードを感じさせる。

インビクタス_sub2
(C) 2009 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.

クライマックスの決勝戦へ向けて、大統領のセキュリティや選手とその家族など様々な人々が高揚感を募らせていく流れはオーソドックスながらも巧みで、随所に顔を覗かせるユーモアも程よいスパイスとなっている。マンデラ大統領役のモーガン・フリーマンはもちろん、近作『インフォーマント!』でのでっぷり太っただらしない姿からは見違えるほどのラグビー体型でピナールを演じたマット・デイモンの演技も素晴らしい。マンデラ大統領とピナール主将というふたりのリーダーが、人々が知らずのうちに持っている常識や偏見を変えていこうと共鳴するストーリーには、あたりまえだと思えることをあたりまえにしていくにはまずアクションが必要だというメッセージがある。だからこそ、タイトルの由来にもなっているウィリアム・アーネスト・ヘンリーの詩〈私が我が運命の支配者、我が魂の指揮官〉という言葉がとてもストレートに伝わってくるのだ。



映画『インビクタス/負けざる者たち』

丸の内ピカデリーほか全国ロードショー公開中
監督・製作:クリント・イーストウッド
脚本:アンソニー・ペッカム
原作:ジョン・カーリン「PLAYING THE ENEMY」
キャスト:モーガン・フリーマン、マット・デイモン
2009年/アメリカ/135分

公式サイト


レビュー(6)


  • コメタさんのレビュー   2010-01-29 22:06

    不屈の魂が世界を変える

    この映画のタイトルは、ただ一言、「インビクタス」。ラテン語で「不屈」という意味である。 映画は二人の不屈の人物を描いている。モーガン・フリーマン演じるネルソン・マンデラは反アパルトヘイトの闘士として激しい弾圧に屈することなく闘い続け、27年間の...  続きを読む

  • itchiさんのレビュー   2010-01-30 02:05

    大絶賛ではないが、及第点

     ラグビーの映画。しかも歴史的な意味合いを持っている南アフリカの自国開催、そして初優勝の秘話を映像化した作品。クリント・イーストウッド監督、マット・デイモン、モーガン・フリーマン主演で期待し過ぎてしまった。そのせいか、大絶賛するほどではなかった。 ...  続きを読む

  • omukaiさんのレビュー   2010-01-30 14:57

    元気が出る映画です。

    国を守るため、苦悩を続けたマンデラ大統領の努力に敬服です。 数十年間も辛い目に遭いながら、その敵を許し、心を開く勇気こそ国を変えられる力なんだと思います。 理屈では無く、ラグビーを通して皆の心を一つにする人間の気持ちの本質を理解出来た映画だと思い...  続きを読む

  • niniさんのレビュー   2010-01-31 11:21

    あっさりした作品。その狙いは?

    今回の作品は、アパルトヘイトとネルソン・マンデラという伝説的な人物にフォーカスをあてた物語ではなく、それらをバックグラウンドとして、南アフリカ共和国初の黒人大統領として新生国家をあるべき国に導くためのマンデラの姿と時を同じくして同国で開催されるラグビ...  続きを読む

  • bigsea1986さんのレビュー   2010-02-04 14:25

    一粒で二度オイシイ、晴れやかな気分になれる映画

    反アパルトヘイト運動に尽力し、南アフリカ共和国大統領となったネルソン・マ ンデラ氏の不屈の想いと、当時のラグビー・ワールドカップでの南アフリカ優勝! という奇跡の物語を、前半/後半のような二部構成的に魅せてくれる、クリント ・イーストウッド氏の...  続きを読む

  • Rokoさんのレビュー   2010-02-13 22:49

    わが運命を決めるのは我なり

     マンデラ氏のポリシーは、他人を“許す”ということでした。27年間も白人政権に投獄され続けたマンデラ氏ですが、大統領になってからも復讐的な行為に走らず、「融和」を主張しつづけたのです。  アパルトヘイト(人種隔離政策)を続けていた南アフリカでは...  続きを読む

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