(C) 2009 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.
前作『グラン・トリノ』において、俳優として文字通り体を張ってイラク戦争以降のアメリカを表現したクリント・イーストウッド。はじめは自らのテリトリーに押し入ってきたと憤慨していたアジア系移民との交流により、変化を余技なくされる『グラン・トリノ』の主人公コワルスキに対して、『インビクタス』ではネルソン・マンデラ大統領が調和を重んじる精神により、黒人と白人との壁を穏やかにしかし積極的に取り払おうとし、世界中の人の心を掴んでいく。 キャプテン、フランソワ・ピナールを中心にした南アフリカ・ラグビー代表チームの肉弾のぶつかり合いを手堅く押さえるのと同時に、スポーツを通した友愛、というえてして説教臭くなってしまいがちなテーマを、イーストウッド監督は今回もその独特の〈肉体〉の描き方で伝えようとする。例えばピナールがマンデラ大統領が27年投獄されていたロベン島の刑務所にある独房に自ら入り、手を広げその部屋の小ささを確かめながら当時のマンデラ大統領の思いを感じ取ろうとする息の詰まるようなシーンには、イーストウッドが繰り返し描いてきた肉体の理不尽さと同質の異様なムードを感じさせる。
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クライマックスの決勝戦へ向けて、大統領のセキュリティや選手とその家族など様々な人々が高揚感を募らせていく流れはオーソドックスながらも巧みで、随所に顔を覗かせるユーモアも程よいスパイスとなっている。マンデラ大統領役のモーガン・フリーマンはもちろん、近作『インフォーマント!』でのでっぷり太っただらしない姿からは見違えるほどのラグビー体型でピナールを演じたマット・デイモンの演技も素晴らしい。マンデラ大統領とピナール主将というふたりのリーダーが、人々が知らずのうちに持っている常識や偏見を変えていこうと共鳴するストーリーには、あたりまえだと思えることをあたりまえにしていくにはまずアクションが必要だというメッセージがある。だからこそ、タイトルの由来にもなっているウィリアム・アーネスト・ヘンリーの詩〈私が我が運命の支配者、我が魂の指揮官〉という言葉がとてもストレートに伝わってくるのだ。
映画『インビクタス/負けざる者たち』
丸の内ピカデリーほか全国ロードショー公開中
監督・製作:クリント・イーストウッド
脚本:アンソニー・ペッカム
原作:ジョン・カーリン「PLAYING THE ENEMY」
キャスト:モーガン・フリーマン、マット・デイモン
2009年/アメリカ/135分