骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2010-01-31 11:00


「水に恵まれた島国の僕たちだからこそ心しなきゃいけない」アースガーデン南兵衛@鈴木幸一氏が語る水のこと

映画『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』をきっかけに広がる水への関心
「水に恵まれた島国の僕たちだからこそ心しなきゃいけない」アースガーデン南兵衛@鈴木幸一氏が語る水のこと
映画『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』より

渋谷アップリンクほかでロードショー公開中の『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』と連動して、私たちの生活に密着したところでの水の問題を捉え直してみようという連載『2010年 “水”大作戦』。今回はアースガーデン代表としてオーガニックそしてエコロジーをテーマに掲げイベントを多数手がける南兵衛@鈴木幸一さんに話を聞きながら、私たちの生活をとりまく水や環境の問題について考えていきたいと思う。2010年は1970年アメリカで環境について人々に考えてもらう日として提唱されたアースデイがスタートして40周年、日本でも市民レベルに広がって20年が経ち、代々木公園で開催されているアースデイ東京についても10年目となる節目の年。実は南兵衛さんご自身の生活環境にも変化が訪れたという

ちゃんと希望を見せて〈結〉になるところが素晴らしい

僕はずっと文京区に住んでいたのですが、実は春からあきる野市の武蔵五日市というところに引っ越すんです。東京都心から最短距離の深山で、家の軒先に沢水が引かれていて、そのまま飲めるようなところなんです。やっぱり蕩々と水が流れているそばに住むというのはなんとも深い安心感があるんだよね。もともと20年ぐらい前に百姓をやっていて、そこもかなり大きな農場だったんだけれど、そこの水が田植えしている水を汲んで飲めるようなところだった。なかなかそこまできれいな水のある場所はないんです。そこで一年過ごしたことがあるので、どこかでそういう環境に住みたいとずっと思っていたんでしょうね。

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南兵衛さんの五日市の家の軒先には、沢水が引き込まれている

都会のオアシス・代々木公園という絶好のロケーションで環境について考える取り組み、アースデイ東京を2000年代に育ててきた南兵衛さんは、自ずと水に惹きつけられていることを感じていたのかもしれない。気持ちも新たにした2010年のはじめに観た『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』について〈映画『アバター』のリアル版〉だと形容するほど、多くの刺激を受けたようだ。

すさまじいよね、ドキュメンタリー・エンタテインメントとしては今までで最高の作品じゃないかと思います。機関銃のような言葉のアクションと言える作風だから、日本にはもうちょっとゆったりした流れのなかで伝えるほうが向いているのかもしれないけれど、そうするともっと情緒的になっていって、社会的な情報よりも情感に訴える方向に行ってしまう。だからドキュメンタリーとしてはこれで正解。確かに消化しきれていない人は少なくないと思いますけれど、それはその人個人の勉強の問題もあるし。起承転結がすごくあるから、最初は普通のドキュメンタリーの感覚で観ていて、最後4分の3くらいのタイミングで終わっちゃうんだろうなと思ったんだけれど、ちゃんと希望を見せて〈結〉になるところが素晴らしかったし、エンタテインメントとしても上質だと思った。

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代々木公園で行われて10年を迎えるアースガーデンとアースデイ東京

世界各国を旅し、その土地ごとの風土や人間性と向き合うことを続け、そうした経験や自然と触れ合う楽しさをフェスティバルで、そして飾らない言葉を用いた言葉で私たちに伝えてきた。なかでも作品に登場する南米の風景は、南兵衛さんにとっての旅の原体験ともいえる場所で、皮膚感覚で水の問題を感じることができたという。

僕の南兵衛というニックネームは南米に行っていたからで、今回の舞台になっているボリビアにも行っていたんです。ペルー、ボリビア、チリの北部というのは砂漠地帯で、自転車で延々と走っていると、水の有無で風景がここまで劇的に変わるのかって実感する。今でも鮮烈に覚えているのは、旅の前半に行ったペルーの海岸線で、朝は霧が多かったり湿度のある砂漠みたいな不思議なところで、川のある谷筋になると、いきなり緑が広がるんだ。ほんとうに緑の絨毯をひいたのかと思うくらい。水が川から這い上がってこれる距離感にしか緑が存在できないというのがほんとうによく解る。あれはアフリカのオアシスの姿よりドラスティック。ラパスの町も月面都市みたいなところがあって、高山の高地が続いているところにいきなり谷があって、そこに人が住んでいる。

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アースガーデン代表の南兵衛@鈴木幸一氏 撮影:後藤武浩

命、緑、水という源流へ辿っていくということを大事にしたい

家でも水道水を飲んでいる、という南兵衛氏は、映画で描かれている企業や政府の水の利権の掌握や水道事業の民営化の問題について「日本人にはなかなか実感しづらい面があるかもしれない」としながらも、そうした「日本一水に恵まれた国」日本だからこそ考えなければいけないことがあると語る。

ぜひ地球儀で日本くらいの緯度にあって同じサイズの島を探してみてほしいんだ。ニュージーランドやイギリス、アフリカのマダガスカルとか、大陸に寄り添った大きな島はあるんだけれど、どの島も日本より緯度が高いか低い。日本くらいの島と呼ぶには大きいサイズで、大陸性でもなく、これだけ水や緑に恵まれていて、それなりの降水量のあることによって気温と湿度が適度に保たれている島というのは、地球的にみても日本しかないんだ。ただ、この映画に出てくる水の問題は、この星の上で確実に起こっていることだから、水に恵まれた島国の僕たちだからこそいろんな意味で心しなきゃいけない。そんな恵まれた国に住む僕たちがなぜミネラルウォーターを輸入してるのか、難しいところは確かにある。僕もこの映画を観て、ミネラルウォーターの販売中止ということもあり得るのかなとちょっと考えたけれど、線の引きどころが難しいよね。

豊かな自然そして水の恩恵を受けながら、便利だからという理由でミネラルウォーターを無意識に買ってしまう自分がいる。では私たちはどんな選択をすればいいのだろうか、そしてこの映画からどんな教訓を汲み取ればいいのか。南兵衛さんはアースガーデン設立のきっかけとなった屋久島の詩人・山尾三省さんの言葉を例に挙げてくれた。

三省さんは神田のお生まれで、五日市の僕の移り住む集落に住んで日本で最初の有機農業の八百屋を始められた。彼の詩の朗読会を自分たちでやりたくて、僕たちはアースガーデンというオフィスを始めたんです。三省さんは亡くなる前に、私たちは神田川の水を飲めるようになるような文明を目指すべきなんじゃないかという問いをたてられた。それはひとつの文明観として究極だと思う。神田川は歌のタイトルにもなっているし、一方ではどぶ川の代表みたいな言われ方もするシンボリックな川。その川の水を飲めるようにすることは、三省さんの完全に夢想ではなくて、今の都市文明におけるここ10~20年での上下水道の発達を踏まえれば、僕たちの決意ひとつでありえないことではない。5年くらい前は、大量に鮎が上がってきたことが話題になったし、実際に日本の都市河川は下水道施設や各家庭の浄化槽が普及して、70~80年代に比べると確実にきれいになっている。僕の家の軒先で流れ続ける川が三省さんに繋がっていると思えば、三省さんの問いに対する僕自身の答えをこれからさらに探していかなければいけない、ということはすごく考えます。

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Natural High!の様子。今年も山梨県道志の森キャンプ場で5月22、23日に開催される

『ブルー・ゴールド』で語られる私たちへのセンセーショナルな警告と、アースガーデンの東京の真ん中で環境について考えていこうという理念は、決して遠いものではなく、深いところで繋がっている。アースガーデンの行うイベントでは自由な空気を満喫しながら、環境への意識を自然と高めることができるし、新たなコミュニティや自然体験の場の創造を通して、これからさらに変化していくことだろう。まず率先して体験してみること、そこから次の世代へ受け継ぐ地球が育てられていくはずだ。

命、緑、水の源流へ辿っていくということは大事にしたいと思っています。源流は決して遠いわけではなくて、例えばアップリンクだったら、明治神宮の一番奥に渋谷川の源流があるから、映画を観た後にぜひ行ってみてほしい。映画館の前に「源流まで2キロ」と書いたほうがいいんじゃない?(笑)。神田川の水も、吉祥寺の井の頭公演の池が源流のひとつだという話があるよね。それから僕たちがやっているフェスティバルNatural High!の会場である山梨県の道志の森は、横浜の水源林なんです。キャンプをやっているところより下流から取水されてミネラルウォーターとして売られているようなところ。「これ飲めますか?」っていうお客さんが毎年必ずいるんだよね(笑)。いつも「飲めるも飲めないも最高のミネラルウォーターですよ!」って答えるんだけれど、みんな自分で川の水に口をつけて飲むという実感をもっと持つべきだね。「上流に何人住んでいるんだろう?」とか考えを巡らせて、自分で判断して飲んでみてよ、まずはそこからだと思う。

(インタビュー・文:駒井憲嗣)

南兵衛@鈴木幸一 プロフィール

アースガーデン代表/前アースデイ東京事務局長であり、渋谷の自然派立ち呑みBar/お弁当Cafeキミドリのプロデューサー、“渚”Nagisa Music Festivalプロデューサー、著書『フェスティバル・ライフ』他文筆業、お茶の水GAIAの創業スタッフ/相談役顧問、と〈自然/オーガニック/カルチャー〉をワークコンセプトに多彩な活動を続ける。
20歳前後の4年間に日本全国と南米へ自転車による旅と百姓暮らしで過ごす。南米への1年間の旅以来の通称が「ナンベイ」。95年のアースガーデン設立以来、フェスティバルや各種イベントの企画制作、2001年以来のアースデイ東京実行委員会への参加、環境省関係や国連大学でのエコイベント制作、ap bank fesでのオーガニックフードエリアのコーディネートなど、自然派の仲間たち、お店とのネットワークを背景にして、物語と関係性の豊潤な場を作り続けている。FUJI ROCK FESTIVALを筆頭とした数々の野外音楽フェスティバルにもオーガナイザーとして深く関わり、FUJI ROCKではアバロンフィールド・ディレクター、および会場全体の飲食出店運営に関わる。03年秋からはお台場を舞台としたダンス・ミュージック・フェスティバル“渚”をプロデューサーの一人として支え、他にもメタモルフォーゼ佐渡島アース・セレブレーション朝霧JAM、等のフェスの現場に数多く関わってきた。ライターとしては、BE-PAL、山と溪谷社Outdoor誌、フリーペーパー88、BALANCE他で執筆を続け、06年5月に初の単独著作『フェスティバル・ライフ』(マーブルトロン刊)を上梓。共著書に『良品活力』(山と溪谷社刊)がある。

アースガーデン公式HP
南兵衛@鈴木幸一ブログ


『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』

渋谷アップリンクポレポレ東中野ヒューマントラストシネマ有楽町
ほか、全国順次公開中


撮影・製作・監督・編集:サム・ボッゾ
エグゼクティブ・プロデューサー:マーク・アクバー、サイ・リトビノフ
出演:マルコム・マクダウェル、モード・バーロウ、トニー・クラーク、ウエノア・ホータ、ヴァンダナ・シヴァ、オスカー・オリベラ、ミハル・クラフチーク、ライアン・ヘリルジャク、バージニア・セシェティ、ロバート・グレノン、ヘレン・サラキノス
2008年/アメリカ/90分/ビデオ/カラー/1:1.66/ステレオ/英語、スペイン語、スロバキア語、フランス語
配給:アップリンク
公式サイト

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