骰子の眼

dance

東京都 渋谷区

2010-01-21 10:15


「違いを見つけることよりも、繋がりを見つけること」─バリ舞踊の範疇を超えて舞踊家・大西由希子がダンスと音楽で探求する空間

1/23渋谷アップリンク・ファクトリー開催の『石の花vol.2』は、豊かな時間を味わえるイベント。
「違いを見つけることよりも、繋がりを見つけること」─バリ舞踊の範疇を超えて舞踊家・大西由希子がダンスと音楽で探求する空間
2009年京都Shin-biの『石の花vol.1』公演より

舞踊家・大西由希子によるダンスと音楽の企画シリーズ『石の花vol.2』が2010年1月23日(土)渋谷アップリンク・ファクトリーにて開催される。バリの伝統舞踊をルーツにしながら、様々な試みにより新しい表現の探求を行う彼女が、ガムラン奏者・川村亘平(TAIKUH JIKANG)氏とバイオリン、シタールを操る新井ごう氏を迎えるシリーズの第2弾。当日はバリの土着的な伝統芸能から花開いた、インプロビゼーションと構築性の間をしなやかに揺れるパフォーマンスにより、芳醇な時間を共有することができるはずだ。

「木が風に揺れるように踊りなさい」という言葉

── 『石の花』は京都shin-biでの公演に続くアップリンクでの開催となりますが、今回はどのような気持ちで臨まれていますか?

大西由希子(以下、大西):今はぼんやりとやりたいと思っていたことの、はじまりのかたちができていると思います。私はバリ舞踊を踊ってきたんですが、最初はバリというジャンルだけの踊りと思っていたのが、続けているうちに、だんだん普遍的なことに気持ちが変わってきました。例えばバリの踊りだけじゃなくて、ジャワの踊りやバレエとか、あるいは武道とかスポーツとかいろんな体の表現があるなかで、マニアックな話になるかもしれないですけれど、重力や重さ、遠心力といったものは体のいろんな法則や骨格、関節の仕組みといったものと密接に関わってくるということは、舞踏のワークショップなどに参加したりもしながら、だんだん気づいていったことだったんです。私のバリ舞踊の先生が「木が風に揺れるように踊りなさい」という言葉を言ってくださって、それをずっと大事にしてきました。よく考えてみれば、重力があるから風に揺れるわけで、それもとても普遍的なこと。バリ舞踊だけじゃなくみんなが共有できることで、他の身体表現をする人や他の民族の人、年齢も性別もいろんな境界を越えることができる。そうした普遍的な繋がりを徐々に見つけていったときに、すごく嬉しくなったんです。

yukiko_ohnishi
バリ舞踊の大西由希子

── 大西さんが表現活動をしていくなかで、そうした思いに至った直接的な契機はあったのですか?

大西:最初は現地でバリ舞踊を見て惹かれて、日本人としてバリ舞踊を踊ろうと思いたち、その後3年間留学したんです。バリで生活しているなかで、私はほんとうにバリ人になりたいくらいに踊っていたんですけれど、どうしても肌の色が違うとか、バリの人は手足がすごく長いんですけれどそうした見た目の体の違いといった境界というか溝を感じながら踊っていて、それがすごく辛かったんです。その後、日本でいろんなワークショップに加わったり、自分でいろいろな経験を重ねていくうちに、もっと普遍的な共有できる体を見つけることができて、それまで辛かったのがもっと気持ちが開いてきたんです。違いを見つけることよりも、繋がりを見つけることに興味があるんです。私のこの踊りも、伝統的なバリ舞踊から見つけていったものだから、自分の体にあるストックとして基本的にバリのものがぜったい自然に出てくるけれど、普遍的なものを見つけたところから作っていきたいなと思っています。何年か前からそうしたいという気持ちはあったんですけれど、なかなかうまく形にならなかったんです。今でもきっと探してる途中だと思うんですけれど、一緒にできる音楽との出会いがあって、変わってきました。

kouhei_kawamura
ガムランの川村亘平

踊りと演奏が対等にあるものにしたい

── 『石の花』で川村亘平さんと新井ごうさんと共演されようと思ったのは?

大西:2009年の2月にsuara sanaというバンドで関西までツアーに行って、京都のライヴの時にほぼ即興みたいな感じで彼らのライヴで踊らせてもらったんです。即興ってすごく難しいんですけれど、それが今までできないことですごく楽しかった。その後に別のコラボレーションとして、映像とコラボレーションして踊るというのがあったんです。音楽とは即興でやったことがあるから大丈夫だと思ったら、ぜんぜんダメで(笑)、すごくへんこんでいたんです。それで私には音楽が必要、音楽と踊りたい、ということにまた気づいて、それで(川村)亘平くんに連絡したんです。その後に(新井)ごうさんも紹介してもらいました。それまで舞踏家の人に振り付けてもらって踊ったり、舞踏の人とジャワ舞踊の人とインド舞踊の人と一緒に踊ったり、関西のバリガムランの人に曲を作ってもらったり、いろんな人とコラボレーションをやっているんですけれど、いつも説明してもうまく伝わらないなぁという気持ちがあったんです。けれど、最初にこの3人で稽古をした時に、ごうさんなんか初対面くらいだったのに、とてもしっくりきたんです。

── それはおふたりとも日本以外の民族音楽をベースにしながら、大西さんと同じ方向で、いかに日本人的に音を作るか、またはベースはあるけれど、それとは違う方向の音作りをしようとしているからなんじゃないかなと思うんです。フォークロアなものだけをずっとやっている人と一緒にやっても難しいと思うし。川村さんと新井さんご自身の普遍的な広がりを感覚的に解っているから。

新井ごう:そうですね、自分の中にあるものと外に出すものをきちんと分けていて、インド古典音楽を自分で習って自分ではやるんですが、それをそのままで見せる意識はあまりなくて、むしろ作っていくものっていう考えのほうが強いです。

arai_gou
バイオリン、シタールの新井ごう

川村亘平(以下、川村):僕も海外で勉強して帰ってきて自分でパフォーマンスするという段階で、既に境界をひとつ超えているわけですよね。その境界からこちらに戻ってくる。そこにはぜったい境界があって、どちらかにみんなは所属しているわけですよね。僕はそこを一回飛び越えてしまったから、どちらに行っても両方のいいところが見えるけれど、結局どこにいるのっていったら、その境界に常にいるんですよね。そうするとその境界の上にある違うベクトルの広がり方、そうした芸術性というのが面白いんじゃないかな。本来は伝統芸能しかやっていない人もすごくいいミュージシャンやダンサーであれば、その瞬間かなりクリエイティブな訳です。そのクリエイティブなベクトルってたぶん、どこかに帰属しているということではないところに常にあるから。

大西:音楽と踊りが対等にあって、それも録音ではなく演奏している人の体があって、踊りと伴奏ではなくて、それぞれがひとりひとり対等にあるものにしたいんです。

川村:京都では「盆栽みたい」って言われたよね(笑)。

── それはビル・エバンスのピアノトリオ論みたいですよね。

川村:民族音楽で僕が面白いと思うのは、アンサンブルしているんだけれど、全員が同時並行的に自分の世界にいるんですね。それが全体でもひとつだし、ひとりでもひとつだし、勝手にやってるんです。だけど行きたい場所が解っているから、道が違うだけで同じ場所に向かうから、かたまりは一緒。そういう感覚はこの3人でいい感じで出ていると思います。バリの舞踊やガムランに限って言うと、もともと人間が人間のために踊っているんじゃないんですよね。そうなってくると、踊っている本人はちょっと違う次元にポンと行って、作品を見るにあたっては、コンテンポラリーダンスの技術的な面を見るというよりも、その先に何がうごめいているのかというのを見てもらったほうがいいんです。それを気づかれないように仕込むということが音楽においてすごい大事なことだし、踊りについても大事なことでもあるんです。自分はあくまで道具で、踊りも道具だし、音楽も道具。だけどそこで流れている時間というものを、自分を通してお客さんに向けてぐるっと持って返してしまうというような循環を作るというのが、他のコンテンポラリーダンスとは違うんです。そういう内的な部分を出すことでしっくりくるんです。

大西:だから踊るのは私ひとりですけれど、ソロダンス公演とは言いたくないんです。全部でひとつのセッションと思ってやっています。それから、すごいダンスを見た!とか音楽を聴いた!という感じよりも──もちろんそう思ってくれていいんですけれど(笑)──お客さんにはいい時間を過ごした、と感じてもらいたい。そうなったらいいなと思う。そう感じてもらえるには最終的にどんなパフォーマンスをしたらいいか、音楽のほうでもいろいろ考えてくれると思うんですけれど、まだ私には答えが出ていなんです。

ishinohanaB
『石の花vol.1』公演より

── 会場の空気を感じながら、そこで流れる時間そのものを堪能してもらうということですね。

大西:お客さんとは物理的な距離感だけじゃなくて心の距離感もあるから、「くる!」「こない!」みたいなことはあるよね(笑)。だからその時どんな人が集まるとか、生で変わります。

川村:お客さんにはポカンとされることも多いんだけれど、あとで「踊りたかったんです!」と言われることもあって。

大西:先ほども言いましたけれど、場所に合っていることと音楽と踊りがひとつになっていることと、全部がひとつになって、いい時間を過ごしたという気持ちになってほしい。自分が観に行って良かったと思う時って、そこにいた時間が良かったという感じ方をするんです。それで帰りにその時間を噛みしめたり、その季節によっても味わい方はいろいろ。今回のアップリンクの公演は夜だし、寒いですよねきっと。帰り道にその時間を思い出して、あぁいい時間だったなと思ってもらえるようなことがしたいです。

(インタビュー・文:鎌田英嗣、駒井憲嗣)

大西由希子 プロフィール

バリ舞踊家。1993年よりバリ渡航を繰り返し、バリ舞踊を学び始める。1996~1999年インドネシア国立芸術大学デンパサール校に留学。滞在中はスマララティ歌舞団他、現地の様々なガムラングループと共演、寺院での奉納も数多く行う。帰国後、古典以外にも、舞踊劇の創作や新作ガムラン作品の振り付け、他分野のアーティストとのコラボレーション、即興など幅広い試みを行っている。バリ舞踊チリデウィ主宰。

川村亘平 プロフィール

ガムラン奏者/イラストレーター。2003年よりインドネシア政府奨学金を得てインドネシア/バリ島に留学。帰国後、自身が主宰する「SUARA SANA」他、ソロユニットTAIKUH JIKANG、OLAibi、ウロツテノヤ子、朝崎郁恵等でガムランを駆使した新たな音楽のカタチを表現し続けている。日欧舞台芸術『マクベス』東京・ルーマニア・インド公演(2007年)、映画『百万円と苦虫女』音楽(2008年)『闘茶』音楽(2008年)、奄美日食音楽祭(2009年・朝崎郁恵)、FUJIROCK FES(2009年・SUARA SANA)等にも参加。

新井ごう プロフィール

シタール/バイオリン奏者。インド音楽、ロック、歌もの、アンビエント、音響系、即興セッション……その演奏スタイルはそれぞれの場によって変化。近年では、Samskara、Jivatman、rAw、Bhanglassi、RajRamayya(The BeautifulLosers)、口琴オーケストラ、福島まゆみ(オリッシー)、鳥2、助川トモユキ(FLATMAN)と文化サロン等に参加している。


『石の花VOL2』:
大西由希子ダンスと音楽の企画シリーズ

2010年1月23日(土)
渋谷アップリンク・ファクトリー
18:30開場/19:00開演

企画・主催:大西由希子 製作協力:Manohara. Co.ltd

【予約方法】
このイベントへの参加予約をご希望の方は(1)氏名(2)人数(3)住所(4)電話番号を明記の上、件名を「予約/石の花VOL2」として、factory@uplink.co.jpまでメールでお申し込みください。

※その他詳細はアップリンクのサイトから


レビュー(0)


コメント(0)