撮影:滝山聖士
1月15日(金)にアップリンク・ファクトリーで開催される初の“暗闇”ワークショップ「クラヤミノtones」。完全暗転した会場で、呼吸法と発声法を学ぶ。発せられる倍音による干渉波を浴び、深く呼吸することによって、普段忘れてしまっている身体機能を取り戻すことを目的としている。実際に身体を動かす、参加型のワークショップだ。
そのワークショップでコンダクターを努める、「tones」のメンバー・徳久ウィリアムと岡山守治、そして同じく「tones」のメンバーでファシリテーターを努める、たむらひろし氏にインタビュー。ロシア連邦トゥバ共和国に伝わる喉歌=ホーメイとの出会いから「tones」結成に至る経緯、そして今回のワークショップについて聞いた。
音に含まれている音色=カラーの質感がわかるようになる
──「暗闇×呼吸×発声」という今回のワークショップですが、なぜ、暗闇なのでしょうか?
たむらひろし(以下、たむら):暗闇には様々な効果があるのですが、何よりも私みたいな40歳代の男性になると、恥ずかしいから身体系のワークショップに参加したがらないんですよ。ワークショップに参加するときに、一番何がストレスになるかっていうと、人の目です。別に誰も見てないのですが。以前、知人がイスラエルの体操を紹介し体験した際に同年代の友達を誘ってもなかなか来ないということがありました。その経験から、真っ暗にして人から見えなくしたらどうだろうかと思ったのもひとつのきっかけです。
また、非日常的な環境に置く事もストレスの発散につながるケースがあります、それは、人のことを考えなくても良い状況や人の目を気にせずに行動できる環境下であること。それを実現できる空間が、真っ暗闇なのです。ただしほんのちょっとの光もダメで、人の目が気になるのと同じくらい、少しの光も気になるんですよ。すぐに日常的な環境に戻ってしまう。例えばクーラーに点滅するボタンの光とか。そんな小さな光でもすぐに集中力を欠いて素に戻ってしまいます。
──視覚が遮断されることで5感が敏感になるという効果もありますか?
たむら:ありますね。例えば私のスタジオでワークショップをやったとき、トイレの芳香剤をちょっと使った参加者がいました。真っ暗にしてしばらくしたら他の参加者たちからすぐに「すごく匂う」という反応がありました。香りが、立体的に川のように見える感じがする言うんです。敏感な人だと天の川みたいに感じたという参加者もいました。また、触覚では暗闇の中だと助け合いの気持ちが自然に起こります。人間に本来備わっている気持ちとして。電車の中で知らない人の手に触れるのは嫌ですが、ワークショップでは、同じ志で来ているということもあるかとは思いますが、暗闇の中で触れられると逆に人を感じ安心感があるという意見が出ます。当然、音はすごく敏感に感じることができますよ。
徳久ウィリアム(以下、徳久):僕らのワークショップの特徴として、暗闇の中で動きながら声を出すというのがあります。普段意識しないじゃないですか、口の位置って。でも真っ暗闇で動かざるを得なくなると、その口の位置が頼りなんです。どこの高さから、どういう声が出ている、とか。それを参考にしながら動くんです。この人いまこっちへ向かってる、とか。ちょっとよけよう、とか。
岡山守治(以下、岡山):ワークをやっている最中に、ホーメイのテクニックの中で一番難しいカルグラをやると、音量、音圧が突然変化することによって他の参加者が認識していた位置が変わったりする。突然、ワープしたみたいに。
──敏感になるというのは、これからホーメイを学びたい人にとって効果的?
たむら:そうですね。絶対的な条件になると思いますね。
徳久:僕らの「ホーメイ」、たむらさんの「暗闇ワークショップ」というマッチングから生まれた「クラヤミノtones」。最初のキッカケは、単純に面白そうだという事から始めたですが、予想以上のマリアージュが生まれました。
岡山:僕は最初、冗談だと思いました。
色々なバリエーションでtonesをやってみたい
──ホーメイを習得したいという人だけではなく、健康に興味がある人にもおすすめでしょうか?
たむら:そうですね。それぞれのバックグランドにある感受性により、感化されて変に能力が開いてしまう人もいるかもしれない。それはご自由に感じ取っていただいて良いのですが、我々はこのワークを健康に結びつけるという目的で行いたい。そこから先の興味は、それぞれ違って良いとは思いますが。
──初心者でもできますか?
たむら:もちろん。むしろ初心者こそ来て欲しいです。
徳久:マニアックなホーメイを聞かせることはいつでもやっているので。もっと裾野を広げたいと思う。マニアックになり過ぎず、かつ、色々な人にその面白さを体験してもらいたい。僕らとしても非常に楽しみです。
──これまで幅広い年齢層の方が参加しているのですか?
たむら:はい。だいたい18歳から68歳くらいの方が参加しています。今のところ、対象年齢を15歳以上としているのは、有識者から子供のときにこんな衝撃的な体験するとトラウマになるのでは、というアドバイスをもらって制限を設けてみました。それにこのウィリアムくんと岡山くん、このふたりのカルグラは怖いですからね(笑)。それもトラウマになるかも。子供の反応は予測不可能なので、大人で十分確認した上で今後「子供tones」もやりたいですね。その他にも、1日で地下と高層ビルという極端な高低差があるところや銭湯とか、暗闇だけじゃなく色々なバリエーションでtonesをやってみたいですね。また以前から映画館というコミュニティ文化から生まれた昔からある暗闇のハコでやりたいという想いがあったので、今回は特に楽しみです。アップリンクでは、凝縮した完成度の高いものをやりたいと考えています。
我々はバンドではなく、ワークショップ集団として、「tones」を、身体にも良いし、コミュニケーションにも役に立つひとつのソフトとして捉えています。今後、マニュアル化し伝えていくことで、世界中のいつもどこかで誰かが「tones」を行なえるように広めていきたいと思います。
声で対抗するためにリサーチする中で出合ったのが、ホーメイ
──そもそも皆さんは、普段どのような活動をされているのですか?
徳久:ボイスパフォーマンスというジャンルで、世界中の際立った音色、歌唱をリサーチして自分で実践しています。そういった歌唱法を使ってソロやユニットで演奏したり、ワークショップで教えたりという活動をしてます。
──ホーメイとの出会いは?
徳久:私は音楽活動を始めたのが大学卒業後と遅かったんです。同級生を見ると、高校・中学くらいから音楽活動をしている人たちはギターとかめちゃくちゃうまくなっている。そのときに、自分ができるものは何かといったら声しかなかった。声で彼らに対抗するために色々リサーチを始めて、まず出合ったのがホーメイでした。確か1998年に、ホーメイの本場トゥバ共和国のバンドのコンサートがオーチャードホールであったのです。それを聴いて度肝を抜かれて。でも日本人には一生無理だろうなと思ったら、すでに日本でホーメイを実践しているボイスパフォーマーの巻上公一さんの存在を知って、自分でもやるようになりました。
──何年くらいでマスターできましたか?
徳久:ホーメイというのは、トゥバ共和国の特殊な発声法を伴う民謡のことを指します。私は、トゥバ語の歌詞や楽器伴奏が伴うトゥバ民謡としてのホーメイはあまりやらず、その中の特殊な音色を声のテクニックに絞ってやってます。つまり、倍音の強調と、そのコントロールがメインです。そういった意味でのホーメイは、1999~2003年に「倍音S(バイオンズ)」というグループに参加していた時、そこでの活動で鍛えられて出来るようになりました。現在は、あくまで僕は色んなボイスパフォーマンスの一環としてホーメイをやっているというスタンスなのですが、今でも日々成長を感じてます。岡山くんは倍音楽家と名乗っている通り、専門家。彼の細かさはすごいですよ。ホーメイで出せる音階の中に、半音の音程があるのですが、それをきっちり聞かせる事が出来る。昨年、岡山君とはふたりで「8時間ホーメイ」といって8時間ホーメイをやり続けるということをやったことがあります。ひとりだとくじけそうになるから、ふたりで。ご飯食べながらもできるんですよ。ご飯を飲み込むときだけ声が途切れる(笑)。今後、「8時間ホーメイ 出入り自由」なんてパフォーマンスができるかも。「tones合宿」とかもやりたいですね。
たむら:私はあるピアニストを介して彼らと出会い、同時にホーメイを知りました。私は映像制作もやっているのですが、彼らの演奏にVJの様に映像を流すということをやっていました。ピアノがあってホーメイがあって映像がある面白いバンドで、8~9年くらい前に手伝っていました。もともと医療関係の仕事をしていて、高血圧に関する研究検査をしていましたが、一方で世界のマイナーな音楽を聴くのが好きで、ギタリストとしてCM音楽を作るなど音楽活動をしていた時期がありました。今は、コンピューター上でダンスなど舞台音楽を作っています。その後、彼らと何度か会う機会があって、2004年に声のワークショップをやりました。色々な声を紹介して勉強してもらうというもので、そのとき、それが健康にどう影響するかという点で興味がありました。
その後、健康や感覚や感性に関する研究やワークショップを専門にやりたいと思って独立し、自分のスタジオ主催で、再び2009年に声のワークショップを行っている最中に「tones」というアイデアが浮かびました。普段、健康相談・健康管理の仕事もしているのですが、会社員の方、特に女性は呼吸がとても浅く感じます。その理由の一つに、電車の中では息を詰めて息を殺しているため、日常で意識した呼吸をしないということにあります。男性は就寝時に口呼吸する方が多い。現代人の呼吸を変えたいと思っても、健康の観点からだけ話しても仕方がない。そういう情報サイトが世の中にたくさんありますが少しも改善されていない。そこで「tones」というフィルターを通して体験してもらうことで「呼吸ってすごいな」と思ってもらえたらうれしいな、と。ゴスペルをやられている方が「tones」のワークショップを体験されて、音域が変わったというリアクションもありました。
モンゴル人にできて俺にできないことはないだろう、と
──岡山さんがホーメイを始めたのはいつですか?
岡山:13年くらい前です。ホーメイのCDを聴いて。世界の色んな音楽を聴き始めていたときで、その中でもホーメイの音色にすごく惹かれましたね。でも情報が全くなかった。教えてくれる人もいない。でも同じモンゴロイドでモンゴル人にできて俺にできないことはないだろう、と。そのとき、シャウト系とか、デス声を使っていたのですが、探っていくとそれに近いものがあるなと気づいたのです。なんとかダミ声を出し始めて。最初は独学です。
──何年くらいでできるようになりましたか?
岡山:倍音を分離させるテクニックはわりと簡単にできます。その後、声の質をどんどん高めていくのは一生もの。人間の口腔の構造、発音のシステムを理解して分離するポイントを見分けるのは簡単。
──簡単と言っても!ちなみにどれくらいですか?
岡山:人によって違いますね。ヨガをやっているなど身体の使い方のセンスが良い人はわりとすぐできちゃう。1、2回のレッスンでできたりする。身体が硬い人、通りや抜けが悪い人は時間がかかるね。
徳久:ある程度音階をコントロールできるようになったのはいつ頃ですか?
岡山:半年はかかったなぁ。スグット(ホーメイの中で、特に倍音を強調するテクニック)で。
徳久:ホーメイ(前述のトゥバ民謡としてのホーメイと違い、ここでは、基本的なテクニックの名称。上述のスグットほどは倍音を強調しない)だけできっちりコントロールして聞かせるのは難しい。かっこいいけどね。
岡山:倍音を強調された楽器の音色=音響的な倍音と、僕がやってるような倍音列をコントロールして倍音を出すというのは(意味合いが少し)違う。倍音と言っても、人によって想像するものが違うよね。
徳久:倍音というのはすべての自然音に含まれているから。
左から、徳久ウィリアム氏、たむらひろし氏、岡山守治氏
音に含まれている音色=カラーの質感がわかるようになる
──ホーメイをやり始めておふたりは健康になりましたか?
岡山:倍音を聴き始めると2種類の反応があるんです。眠くなる人と、パキーンと覚醒してハイテンションになってしまう人。どちらにせよ僕の実感から言うとエネルギーの通りが良くなる。気の通りと言うか。共鳴しやすい身体になってくる。例えば、神社は科学的にマイナスイオンが出ているんだけどそれがわかったり、そういう素質が元々ある人は、霊感が目覚める可能性も否定できない。
徳久:正直、ホーメイで健康が良くなった感じはしません。僕は「倍音S」を始めてホーメイを習得するのに必死で、また急に忙しくなってって、どんどん体調悪くしていきましたね(笑)。ただ最近は自分の活動も安定していて、歌唱法としての面白さや健康との関連が分かるようになりました。
それよりも、ホーメイをやると、耳が倍音耳になるんですよ。人間が元々もっている聴覚のソフトというか、ファームウェアがアップデートされる感じですね。つまり人間の聴覚のソフトウェアにはリミッター的な機能がついていて、耳に入ってくる音の中で、いるものといらないものを選別して処理していく。それが倍音耳になると、その機能が解除される感じです。色んな音が聞こえるようになるので、最初はびっくりするんですけど、人間の耳はよくできたもので、そのうちに必要なときに聴いて必要じゃないときには聴こえないようになる。倍音耳になると、もともと音に含まれている音色=カラーの質感がわかるようになります。例えば、合唱は音色が大事で、倍音をいかに豊かに出せるかが重要なんですが、これまでいろんなワークをやって全然ダメだった人が「tones」のワークショップに1回参加して、急に音色に敏感になって、豊かな倍音の声を出せるようになった例もあります。
たむら:練習しすぎれば体調が悪くなってしまう事や霊感というか感度が強くなる点はあると思います。まずこの2人はプロなので、声や呼吸との接し方が普通の人とは数も質も違うと考えられます。例えば健康相談をやっていると、プロのヨギーやヨギーニの方が来たりしますが、検査では何も異常は見られないのに、身体に良い事を続けているのに体調が良くないということを相談に来られます。これは鍛えすぎることで身体や感覚が敏感になってしまうことが考えられます。岡山さんも人の気配や街のノイズに敏感すぎるから、ときどき「今日は23区内で打ち合わせするのはやめよう」と不思議なことを言うので、最初は「ふーん」とあまり気にしていなかったのですが、確かに自分に倍音感覚がインストールされていくと音を出したり鼻から息を吸ったりしていることが単に運動的な意味だけではなく、身体的な感度が上がっていくような気がしています。
また、子供を産む能力があることからか、男性より女性の方がその影響を受けやすいかもしれないですね。男性は昔から仕事上、ストレスにさらされる機会が多いので自分にフィルターをかけて、ブロックして過ごせる術を持っていることから、逆にインストールされにくい人もいるかもしれません。しかし、思わぬところで感受性が上がり過ぎてしまうことについては程度の問題なので、それをうまく使いこなせば基本的には身体の循環が良くなる方向へ向かうと考えられます。おすすめなのが、半身浴中に「o-e-i発声呼吸法」(唇は「u」の形のまま口腔内は「o」→「e」→「i」と変化させていく方法)を行なうことで、通常の半身浴より、さらに代謝の効率が良くなります。身体に良いことは、いずれ医学的にみても証明できると思います。
(インタビュー:鎌田英嗣 文・構成:世木亜矢子)
■徳久ウィリアム PROFILE
ホーメイなどの民族音楽的発声から、デス声、独自の「ノイズ声」まで、多様な声を操る。1999年~2003年ホーメイグループ「倍音S」に参加。現在、SuaraSana、モーテン・東洋・ウィリアム、William&NG、CharlieWilliamsなど、前衛からポップスまで、年間100本のライブを
精力的にこなす。ワークショップやイベント企画/ディレクションも行なう。
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■岡山守治 PROFILE
ホーメイを主軸とした倍音唱法、口琴、カルナーティックミュージック(南インド古典音楽)のパーカッションとしての口琴&ボーカル、リアルタイムサンプリングなどを用いたエフェクティブなパフォーマンスなどなど倍音のいろんな要素を渾然一体となって核融合させる倍音楽家。バンド活動として「SUARA SANA」や「カムヒビKING」、口琴の合奏楽団「口琴オーケストラ」、及びソロ演奏、ホーメイ、口琴のワークショップ講師などを通じて倍音普及活動中。
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■たむらひろし PROFILE
大手臨床検査会社(株式会社エスアールエルにて血液ホルモン関連の研究検査に約13年従事後、NTT株式会社(レッドタクトン共同フィールド実験)、株式会社日立メディコ、株式会社日立製作所、東シー株式会社、アロカ株式会社、株式会社イマジカ、株式会社フローベル等数多くの医療系共同プロジェクトにて開発を行った。大学にて保健学を習得した検査技師。2002年にダイアログ・イン・ザ・ダークの企業向けサポート、2005年にはポストシアターの暗闇演劇「Light」のサポートを行った。2009年より視覚を使わない運動を推進するヤミ・タイプロジェクトを中心とした感覚・知覚・認知に特化したワークショップや体験イベントを主催する株式会社BF.RECの代表取締役。
「クラヤミノtones」
1月15日(金)/渋谷・アップリンク
出演・ファシリテーション:tones(徳久ウィリアム、岡山守治、たむらひろし)
会場:渋谷アップリンク[地図を表示]
料金:予約3,000円 当日3,500円
申込方法:(1)氏名(2)人数(3)住所(4)電話番号を明記の上、件名を「予約/クラヤミノtones」として、factory@uplink.co.jpまでメールでお申し込みください。
注意:長時間声を出し続けますので水を持参してください。また、完全暗転のため、途中入場はできません。
※その他詳細はアップリンクのサイトから