(c)EUROWIDE FILM PRODUCTION
CMやミュージックビデオでその才能を開花させ『ドーベルマン』(1997年)で鳴り物入りの監督デビューを果たしたヤン・クーネンらしく、前半で展開されるイゴール・ストラヴィンスキー「春の祭典」のスペクタクルな舞台から、徹底した映像美が繰り広げられる。その初演での挫折により意気消沈する天才に、彼をサポートしようと手をさしのべるココ・シャネル、そしてイゴールの妻と家族との愛憎の描かれ方も決して背徳的でなく、実にスタイリッシュなのだ。ひとつひとつがファッション・フォトのような絵になる画面は、シャネルの美意識を継承している。
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ストラヴィンスキー一家とシャネルとの風変わりな共同生活のなか、ふたりの偉大なる才能が突き動かされるように惹かれ合う姿も、いたずらにドラマチックになることを避けているようだ。ノーブルな美しさを持つアナ・ムグラリス演じるシャネルの香水作りへ情熱を傾けるすごみさえ感じさせる姿、マッツ・ミケルセンがその苦み走った表情で表現するストラヴィンスキーという男のある種の軽さのようなものが、効果的なアンサンブルとなり迫ってくる。極めて限定された空間での物語ながら、あえて台詞での説明を避け、映像で感情の陰影を伝えようとする監督の意図は成功しているように思われる。彼の子供が庭で遊ぶ姿、妻の手紙のモノローグといった脳裏に焼き付くシーンたちが、シンプルな恋愛劇にふくらみを与えている。果たしてふたりの愛は本物だったのか?エンドロールの最後まで観たとき、あなたはどんな感想を持つだろうか。
『シャネル&ストラヴィンスキー』 2010年1月16日(土)シネスイッチ銀座、Bunkamuraル・シネマ他全国公開!!
監督:ヤン・クーネン(『ドーベルマン』)
脚本・原作:クリス・グリーンハルジュ(『COCO&IGOR』竹書房文庫刊)
音楽:ガブリエル・ヤレド(『愛人/ラマン』『コールドマウンテン』『イングリッシュ・ペイシェント』『リプリー』『善き人のためのソナタ』『シルヴィア』)
キャスト:アナ・ムグラリス(『そして、デブノーの森へ』『NOVO/ノボ』)、マッツ・ミケルセン(『キング・アーサー』『007カジノ・ロワイヤル』)
1時間59分/仏語・英語・露語/35mm/カラー/ドルビーSRD/仏公開:2009年12月
提供・配給:ヘキサゴン・ピクチャーズ
宣伝:アニープラネット
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