全7公演のジャパンツアーを敢行するマックス・ツンドラ
エレクトロニック・ミュージック界の異端児、マックス・ツンドラの来日公演が2010年1月8日より開催される。今回の 全国ツアーでは、rei harakami、相対性理論、カーネーションなど、各地で彼の音楽と共鳴する多彩なアーティストが出演。さらに1月11日の渋谷O-WEST公演は、オープンプライス制で行われる。このツアーを企画し、自らも出演する岸野雄一氏は、かねてからこの投げ銭制度を導入し、インディペンデントなライヴイベン トを行ってきた。大手チケット・システムを導入せずチケット販売を行っているこの野心的なツアーに先立ち、岸野氏にマックス・ツンドラの魅力、そしてオー プンプライス制ライヴに託す思いを聞いた。
岸野雄一率いるWATTS TOWERS(1/11渋谷出演)
「そもそもオープンプライス制にしたというのは、21世気になって音楽の需要や在り方が変わってきたということがあって。プリンスが新譜を無料で新聞の付録として配布したり、その反面CCCDとかコピーテンといった動きもあって、考え直す時期なんじゃないかという気がして始めたんです。あるお客さんに、コンサートが終わってから『すごい良かったですよ、これだったら1万円払いますよ!』ということを言われ、なんだ! と(笑)。人によって音楽の感じ方は違うので、むしろ定額じゃないほうが儲かるんじゃないかと(笑)。それは冗談ですが、学生の時にどうしてもお金が無くて観られなかったコンサートがあった悔しい経験もあるので、その時払える金額を払っていけばいいんじゃないかと思ったんです。ただ現在の認知度としては、去年やった時は若いお客さんが多くて、並んでいる列の横を通りすぎた時に、『今日のフリーコンサートは……』という声を聞いてコノヤロー!と思ったり(笑)。投げ銭=寄付すればいいんだろ、という印象がまだあるんです。そうではなくて、僕の希望としては、他に観たコンサートと比べてどうか、例えば12,000円払ってボブ・ディランのコンサートに行って、それよりも良いと感じたら15,000円くらいを払ってもいいんです。もちろんそれよりも下回ったら、その金額で構わない。要するに、音楽に対してお金を払うことの在り方を考えてもらえればいいということなんですよ」。
イルリメ(1/8水戸、1/9仙台、1/15金沢出演)
「これまでの投げ銭ライヴでも、会場の出口で僕がザルを持って待ってるんですが、そこでいくつか聞いた話では『(アーティストに直接お金を渡すのは)払いにくいな』という声があったんです。だとしたら、その払いにくい理由を考えてもらいたいんです。もし支払う場所がどこかにアップされていて、 アーティストに気づかれないままだったら払わないのか、とかいう話ですから。あとは、若い人はお金がないのと、不景気だということも解ってますから、金額の大小ではなくて、そのことを考えてもらいたいということだけなんです。なぜ作り手が生活できているかというと、お客さんがお金を払ってくれているから。評価と報酬という、そのお金の巡りに想像を働かせてもらいたいんですよね。できたら全ての公演をオープンプライスでやらせてもらいたいんですけれど、もしお客さん全員に見放された時に、自分が責任を取れるのはやっぱり1公演だけなので、今回は1月11日のO-WESTで実施します」。
DE DE MOUSE(1/8水戸、1/9仙台出演)
今回の主役であるマックス・ツンドラは、90年代にエレクトロニック・ミュージックの名門Warp Recordsよりデビュー以降、練り上げられたプログラミングと明快なメロディを武器にそのやんちゃな音楽性を柔軟にスタイルを変えながら活動を継続。2008年にリリースされた最新作『Parallax ErrorBeheads You』では、イノセントなポップスとしての感覚を強め、さらに訴求力を強めている。
「彼は21世紀に現れた天才です。最初はドラムンベースの要素も持っていたんですけれど、エレクトロニカとか、広義でいうテクノや電子音楽の閉塞感 を打ち破る存在だと思うんです。非常にポップであるということと、過去の音楽、プログレとか現代音楽寄りのものに対してもものすごく構造を理解していて、 それを21世紀に活かすにはどうしたらいいということに真剣に取り組んでいる音楽家。結果的にすごくポップなのは、必ずしもいいとこ取り、つまりエディット感覚で作ったというのではなくて、彼の身に染みているもので、21世紀はこういうものであるべきだ、という強い意思があるからなんです。そしてすごくユーモアの持ち主で、人なつっこい性格なので、一言で言うと〈いい奴〉。そこが僕が魅せられているところです。なので彼をうまく日本で紹介するには、少しかぶる部分があるけれど、できるだけ『えっ!?この組み合わせって何なの?』という意外性もある出演者にしたかった。例えばもろに影響を受けている日本のエレクトロニカのアーティストもいるんですけれど、あえてそういう人は外して、ちょっと違うけれど解る!みたいなことのほうが、広がりが出る。それで共演者のラインナップを考えていきました。これは常々考えていることなんですけれど、今は音楽がどんどん趣味のタコツボ化になり、あるジャンルや傾向にすごく集まってくることで、すごく閉じてしまっているんです。だから、とにかくエリアが閉じないようにというのは考えています」。
常磐響(1/8水戸、1/9仙台、1/10柏、1/15金沢出演)
相対性理論(1/10柏出演)
このツアーはマックス・ツンドラという摩訶不思議な才能に再度フォーカスを当てる試みであるばかりでなく、長きにわたりメジャー、アンダーグラウンドを問わず日本のシーンを見つめ、音楽活動や文筆業などでその批評性を発揮してきた岸野氏の、硬直した音楽シーンへ提示する次 世代へ向けた表明とも言えるだろう。
「普段聴いてないエリアの音楽を聴くのって新鮮ですよね。今は、ブックマークしたサイトしか見ないような感じで、同じような音楽が好きそうな人にしか情報が行き渡らなくなってしまっていて、ほんとうに自閉してしまっている。そもそも70年代に自分が高校生の頃にヴァン・ヘイレンのコンサートに武道館に行った時に、前座でP-MODELが出ていたんです。『何だ、このバンドは!?』と思って、チラシを見て渋谷の屋根裏という小さいライヴハウスに行きました。そこで、それまでコンサートというとホールで椅子に座ってとか前売り券を買ってみたいな感じだったのを覆されて、ポップ・カルチャーに染まっていった経験があるんです。イベントで知らないバンドだけれど観てみたら良かったとか、夏フェスだけじゃなくて、そういうことがもっと起こるべきだと思います」。
(取材・文:駒井憲嗣)
MAX TUNDRA JAPAN TOUR 2010
2010年1月8日(金)水戸BUBBLE(水戸市泉町2-2-30 石川ビル3号館B1F/TEL:029-303-1331)
開場/開演18:30
前売2,800円 当日3,000円(共にドリンク代込)
共演:イルリメ、DE DE MOUSE
DJ:常盤響、DJ AGAGA、DJ HINACLE
2010年1月9日(土)仙台CLUB SHAFT
(宮城県仙台市青葉区国分町2-10-11 第3吉岡屋ビル4F/TEL:022-722-5651)
開場/開演21:00
前売2,800円 当日3,000円(共にドリンク代込)
共演:イルリメ、DE DE MOUSE
DJ:常盤響、ARAKI、DJ CASIN、AOYAMA
2010年1月10日(日)千葉柏ドランカーズスタジアム
(千葉県柏市南柏1-13-14オクナンビル6F/TEL 04-7199-2751)
開場/開演18:00
前売2,800円 当日3,000円(共にドリンク代別)
共演:相対性理論、FANTASTIC EXPLOSION、荒木健太
DJ:常盤響
2010年1月11日(月・祝)東京shibuya O-WEST
(東京都渋谷区円山町2-3/TEL:03-5784-7088)
開場/開演18:00
オープンプライス(チャージはお客様の満足度に応じて金額を決め、お帰りの際にザルに入れて頂く投げ銭制です/前売無し/ドリンク代別)
*当日16時より受付にて入場整理券を配布します(ご来場者多数の場合、整理券をお持ちでない方はご入場できない場合があります)。
共演:カーネーション、WATTS TOWERS
DJ:中原昌也
2010年1月15日(金)金沢social
(石川県金沢市片町2-10-42 RENN bldg.B1F/TEL:076-223-0038) 開場/開演18:30 前売2,800円 当日3,000円(共にドリンク代込) 共演:イルリメ、松前公高、ヒゲの未亡人(岸野雄一)(VJ:SphinkS)、asuna、テクノクラート
DJ:常盤響
2010年1月16日(土)大阪梅田Shangri-La
(大阪府大阪市北区大淀南1-1-14/TEL:06-6343-8601)
開場/開演18:30
前売2,800円 当日3,000円(共にドリンク代別)
共演:rei harakami、SPACE PONCH(VJ:SphinkS)
DJ:RUBYORLA
2010年1月17日(日)六本木Super Deluxe
(東京都港区西麻布3-1-25 B1F/TEL:03-5412-0515) 開場/開演18:00
前売2,800円 当日3,000円(共にドリンク代別)
共演:d.v.d、sim、WOODMAN
DJ:岸野雄一、虹釜太郎
マックス・ツンドラ プロフィール
ベン・ジェイコブスによるユニット。UKに生まれ小さい頃から電子音楽の制作にいそしみ、1998年にWarp Recordsよりファースト・シングルを発表。それ以降、多くの時代の、様々なジャンルの、あらゆる楽器編成の音楽を混ぜこぜにし、音楽界が長らく必要していた新風を吹き込んできた。2000年にファースト・アルバム『SOME BEST FRIEND YOU TURNED OUT TO BE』をリリース。またリミキサーとしてもフランツ・フェルディナンドやペット・ショップ・ボーイズ、モグワイといったバンドを手がける。2002年のセカンド・アルバム『Mastered By Guy At The Exchange』で世界的な評価を決定的なものとする。2008年10月にサード・アルバム『Parallax Error Beheads You』をリリース。
公式ページマックス・ツンドラmyspace