骰子の眼

cinema

2009-12-26 21:00


モーリー・ロバートソンのウイグル旅行記Vol.5:模倣は当たり前!?恐るべしウイグル・中国のファストフード店【動画付き】

『ウイグルからきた少年』DVD発売中!2007年に訪れたウイグルの様子をレポート。今回の舞台は中国とモンゴルに近い町、ハミ。
モーリー・ロバートソンのウイグル旅行記Vol.5:模倣は当たり前!?恐るべしウイグル・中国のファストフード店【動画付き】
ハミの砂漠で動画撮影をするモーリー氏。砂漠の砂はどんなに気をつけていてもカメラレンズとフィルターの間に入り込んでしまう。ハミ、クチャ滞在中は寝る前のレンズ掃除が毎日の日課となった。

▼プレイヤーをクリックで再生


砂漠の中の遺跡、千仏洞へ

前回で、クチャを訪れたモーリーさん一行。クチャに滞在中、車で砂漠の道を砂埃をあげながら片道3時間ほどかけ千仏洞へ。多数の仏像が洞窟内に設置されているものだが、イスラム教が入って来た時期に、仏像の類は破壊されてしまったという。顔を描くことはイスラム教に反するため、手が届く場所に描かれた壁画なども顔の部分は壊されているものがほとんど。もしくは西欧諸国や日本からの探検家による持ち去りで失われた仏像が多い。洞窟も、土がもろいため雨風でぼろぼろになりそうな雰囲気だ。

DSC_0487
クチャの千仏堂。内部は撮影禁止だったが、過去に被った破壊や収奪行為と風化により、ダメージは深刻であった。イスラム文化圏内の仏教遺跡であること、不便な土地柄観光客も多くないなど、顧みられない理由が重なっている。

ゴビ砂漠に隣接する町、ハミへ

一行はクチャから一度ウルムチへ戻り、4~5時間の電車の旅でハミへ到着。日中も寒かったウルムチに比べ、砂漠に隣接するハミは暑い。歩道が途切れると、そこから突然砂漠が始まる。モーリーさんがこれまでに訪れたカシュガルやクチャは、辺境にある特殊な町という印象があったようだが、それに比べハミは中国にある町という雰囲気が漂っているという。郊外へ出るとすぐに広大な砂漠が広がっている。

DSC_0474
ハミの街角で遊ぶ兄弟。少数民族には一人っ子政策は適用されないので、そのことだけで漢族からの妬みをかうこともあるようだ。

この地域に通っている鉄道は1本のみ。本数も少ない。地元の人々は、その鉄道か長距離バスを使って移動する。日本のように複数の路線があるわけではない。方向も、ウルムチ行きかその逆方向かのどちらかなので、人も物も移動が限定的。乗客は圧倒的に漢族が多い。カシュガルではウイグル人の扱いが差別的だが、ウルムチではそこまでひどい様子はなかったそうだ。

DSC_0524
ハミの砂漠を横切る国道。延々と続く壮大な光景も、天候にもよるが実は砂煙のため視界は悪い。

モーリーさんがハミを訪れるのは1998年以来、9年振り。初めてシルクロードを横切る旅行をして以降、2度目だ。そのときウイグルではまだ個人旅行は認められておらず、漢族ガイド同伴でないと立ち入れないなど、非常に社会主義的だった。当時はシルクロードにロマンを求める日本人観光客、主に年配男性の姿しかなく、おじいさん向けの風俗があるなど町のいたるところで日本人向けの観光スポットが充実していたらしい。1度目に訪れたときには、そのような日本人の1人だと思われ、たかられたというモーリーさんだが今回はガイドなしで自由に行動。

DSC_0722
街角に設置されていた「果皮箱」=ゴミ箱。人気者のパンダもウイグル文化圏で見ると複雑な趣がある。

コーヒーショップに見る町の西洋化

ウイグル自治区の中でも古くから中国化が進んでいたハミは、中国のメインストリームとも言える、カシュガルとは正反対の町。そのためウイグル色はあまりない。町中を見渡すと、観光客向けのテーマパークや、イスラム文化を模したショッピングセンター、デパートビルなどがある。いずれも修学旅行的とでもいうような漢族に向けたオブジェで、観光客と入植者向けらしい。この町では、イデオロギーとしても漢族化させるという中国による入植政策の一環で、入植者の受け入れが進んでいる。労働力で西へ西へと開発、都市化を進めている。地下資源が豊富にあるこのエリアの産業は、おそらく石油関連。工場労働がメインのようだ。

「町全体は中国化が進んでいるが、それがいかにぎこちないかがインフラを見ればわかる」とモーリーさん。漢族が内陸に作った繁栄している他の町に比べると、劣化している感じがするという。例えば「上島珈琲」。UCC資本のこのコーヒーショップは、中国では高級店として人気が高いが、ウルムチではそれを模倣した「藍島珈琲」という店があり、さらにハミでは「藍島珈琲」をさらに模倣した「藍鳥珈琲」がある。「藍島珈琲」では、ゲイが多く集まるなど社交場としての場を提供している店もあったが、「藍鳥珈琲」に至っては客の姿がほとんど見られなかったという。

DSC_0708
寝台車の個室備品スリッパ。「NIKE」は「NKIE」に。そしてソール部分は「NBA。」コピーというより、ここまで来るともはやオリジナルかも。

中国でかつて強制収容されていたとも言われるゲイの人々。モーリーさんによると、4年前に訪れたウルムチでは、花屋に勤める男性にゲイが多いと聞いたそうだ。イスラムだとカミングアウトをするのが難しいが、漢族であってもそれは同じ。同性愛者が集まる場としてコーヒーショップが存在する。ウルムチにある「藍島珈琲」は、店内がピンク色であしらわれ、まるでラブホテルのよう。味の保証はないが、器は本物で、カウンターでそられしくコーヒーを入れてくれる。コーヒーを飲むという習慣は、よっぽど西洋化していないと一般化されていないのが現実のようだ。その土地でのコーヒーの定着具合で、西洋化のレベルがわかる。ちなみに「星巴克」とい名のスターバックスの模倣店も上海など各地に存在し、2007年にはスターバックスが訴えてスターバックスが勝訴している。

DSC_0730
「藍鳥珈琲」はコーヒーだけではなくメニューにも「味わい」がある。

一同は、「藍鳥珈琲」のお世辞にも美味しいとはいえないコーヒーに耐えかねてKFCへ。同店にはウイグル語の表記がある。ハミにはマクドナルドを模倣した「百富漢堡」という店も。お馴染みの赤と黄色のマークだ。現地の物価からすると高いが人気がある。モーリーさんはウイグル人によるウイグル料理店にも行ったそうだが、「カシュガルのような辺境の町で本格ウイグル料理を食べた後だと物足りない感じ」。素材が新鮮ではないという理由があるのかもしれないが、この町では漢族主体の社会が出来上がっており、ウイグル文化が徐々に追いやられている雰囲気があるようだ。

そして、旅はトルファンへと続く・・・

(インタビュー・文・構成:世木亜矢子)

モーリー・ロバートソン氏プロフィール

「i-morley」の創始者、ミュージシャン、ラジオDJ、ジャーナリスト、作家。1991年以来、J-WAVE(81.3FM)などでラジオ・パーソナリティーとして活躍し、伝説的な深夜番組「Across The View」を司会。自由気ままに語り継ぐポッドキャスト「i-morley」はかつての深夜ラジオに心酔した人から初めて耳にするティーンエイジャーまで、広くリスナーの心をつかみ、52万人を越えるオーディエンスを獲得するに至る。2007年には、チベット・ラサでの取材を写真や映像でレポートする企画「チベトロニカ」の総指揮を務める。

【関連記事】

■ウイグル旅行記

これまでの連載はこちら
http://www.webdice.jp/dice/series/18/

■チベットを知る

全連載はこちら
http://www.webdice.jp/dice/series/11/


ウィグルから来た少年

『ウイグルからきた少年』
DVD発売中!

監督・脚本・編集:佐野伸寿
出演:ラスール・ウルミリャロフ、カエサル・ドイセハノフ、アナスタシア・ビルツォーバ、ダルジャン・オミルバエフ他
2008年/日本・ロシア・カザフスタン/65分
配給:アップリンク

※作品公式サイトはこちら
※アップリンクwebshopでのご購入はこちら



レビュー(0)


コメント(0)