骰子の眼

music

東京都 渋谷区

2009-12-18 23:00


「もう明日からの私は違う!」次なる世界へと歩みを進めた鈴木祥子、渋谷AXライヴレポート

90年代の名曲をロックバンドとともに歌う貴重なパフォーマンスと、そこから生まれた新境地。
「もう明日からの私は違う!」次なる世界へと歩みを進めた鈴木祥子、渋谷AXライヴレポート

鈴木祥子がアルバム『SHO-CO-SONGS collection 3』発売記念ツアー『れっつ ROCK THE NIGHT TOGETHER』の東京公演を2009年12月17日(木)、東京・SHIBUYA-AXにて開催した。

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開演の19時を少し過ぎ、客電が落ちバンドのメンバーとともに登場した彼女は、まずはドラムを担当。ツアータイトルの通りこのライヴのテーマがロックであることを表明するように、いきなりレッド・ツェッペリンの「ロック・アンド・ロール」を肩慣らしのようにプレイしたあと、アルバムの1曲目でもある「HAPPINESS?」からライヴはスタートした。続いてドラムを担当する「月とSNAPSHOTS」、そして「きのう夢の中で」と1995年のアルバム『SNAPSHOTS』からのナンバーが続く。アルバム『SNAPSHOTS』は、シンガーソングライターとしての本領のみならず、彼女が全編に渡ってドラムを叩き、ロックのダイナミズムを追求した作品だった。今回のツアーを共にするバンド、ジャック達&かわいしのぶのパワフルなアンサンブルにより、見事に現在進行形のロックナンバーとして甦っている。

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続いて、ドラムの夏秋文尚によるブラシが彼女の繊細な歌声と重なりあう「Sulky Cat Strut」そして「恋のショットガン (懲りないふたり) 」、楽器をローズに替えて「エコロジーバッグ」が披露される。このパートでの『Candy Apple Red』(1997年)からの楽曲は、ライヴで聴くのも難しかった楽曲だっただけに、十数年を経てこうして彼女が気心の知れたバンドとの演奏で聴けるのは嬉しいかぎり。

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次のパートはエレキ・ギターの弾き語り。愛用の赤いフェンダー・ジャガーを携え、当時を懐かしがりながらも、「苦しい恋」を今の自分が歌っても違和感ない曲であると自負する姿からは、エヴァーグリーンな音楽を作り続けることを守り続けてきた鈴木祥子というアーティストの自負が感じられた。「歌って10年後に歌っても新鮮に聞こえる」という言葉の通り、決して懐古趣味でなく、どの曲もリアルタイムのロックとして響いてくる。彼女が信念を持った創作活動を行っていることに心を打たれる。そしてローズを弾きながら、できたばかりの新曲も歌ってくれた。「歌詞をまちがえちゃった」とおどけながらも、生まれたアイディアをすぐ形にしてリスナーに届けることができるのは、彼女の創作意欲が極めて高い次元にあることの証明であるだろう。

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ここで再びメンバーを呼び込み、バンドでやるのはすごい久しぶりだという「夜の中へ」。間奏でキーボードからギターに持ち替え、エモーショナルなメロディを増幅させる。さらにバンドメンバーの紹介とともに、ジャック達の楽曲を彼女を交えて2曲を演奏。いまの時代珍しくなったロックンロールの不良の匂い、危険さを持つジャック達の楽曲も、鈴木祥子が加わることでまた異なる魅力が生まれている。両者のコンビネーションと相性の良さを示した後は、もう1曲新曲を披露。「My Sweet Surrender」は、ギターの一色進の楽曲に鈴木が詞をつけたナンバーで、〈降伏〉と〈幸福〉について歌ったラヴソング。彼女も「曲を書くということはとても孤独な作業だけれど、スタジオでバンドで曲を作っていく醍醐味を感じた」という。「トッド・ラングレンが歌謡曲になってしまったようなイメージ」という紹介で歌われた「黒い夜」は、『SHO-CO-SONGS collection 3』にボーナストラックとして収録された楽曲。当時他のアーティストに提供するために書いた楽曲とのことだが、どうしてこれが今まで陽の目を見なかったのかが不思議なほどの名曲だ。その紹介にあったように、トッド・ラングレンの「I Saw The Light」の出だしをさらりと織り交ぜるところには、70年代ロックやポップスをこよなく愛する彼女のセンスのよさを感じさせることしきり。そしてシックスティーズ・ポップの明るさを持つ「君の赤いシャツが」が続く。

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オープニングで叩いたドラムセットに戻り、夏秋文尚とのツインドラムによる「TRUE ROMANCE」が始まると、ひときわ場内の歓声が高まる。伸びやかな歌声、そして突き抜けるような爽快感を持つ曲の後、本編ラストとなるのは「海辺とラジオ」。ダイナミックなギターソロをメインにしたおおらかなバンドサウンドでフロアの熱は最高潮に達する。最後はスティックを放り投げんばかりのパフォーマンスの後、ステージを後にした。

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アンコールの声に応え再びステージに登場した彼女は、「ストレートに返してくれて嬉しかったです!」とオーディエンスに向けて喜びを露わにする。彼女曰く「極悪でラブリーな」かわいしのぶとジャック達に加え、スペシャルゲストとしてヴァイオリンの武川雅寛(ムーンライダース)とサックスの山本拓夫を迎え入れる。先日彼女が参加した大滝詠一『A LONG VACATION』トリビュートコンサートに続いて、「ちょっと気が早いけれど」と『NIAGARA CALENDAR』のなかから「Rock'n Rollお年玉」をカバー。さらにトランペットの西村浩二を加え、「良かったらみんな一緒に歌って」と「Angel」。鈴木祥子の歴史のなかでも最もポップでゴージャスともいえるこのっ曲で、華やかなホーンセクションとともに、一気に地平の見えるような風景が浮かび上がってくる。

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アンコール最後の曲を演奏する前に、名残り惜しそうに彼女は「これまでライヴでやったことがなかったけれど、ぜったいやりたかった曲」と「GOOD OLD DUSTY ROAD」について語りはじめる。当時は蒼いと思っていたけれど、44歳になって今の自分の気持ちだと思えるようになったという。ゆったりとしたリズムと開放感を持つこの曲は、精神的に苦しい時期だった当事の呪縛から解き放たれたようなすがすがしさを放出していた。新しいバンドとともにプレイされる数々のナンバーを聴いていると、彼女のロックでメロウなコードやメロディが自分のDNAに知らないうちに浸透していることを感じてやまない。

活動以来、常にさっそうとした雰囲気とキュートネスの間を揺れる鈴木祥子の表現が、人間の孤独や内面を見つめる視点と、ロックの肉感的な魅力の両方から生まれていることをあらためて知ることができたとともに、彼女の表現がまた次の段階に進んでいることを感じずにはいられないライヴだった。終演後、「12年感のトラウマは晴れましたか?」(※インタビューを参照)という質問に、彼女は「恨み辛みが晴れました(笑)、発散しました。もう明日からの私は違う!(笑)」と満面の笑顔で答えてくれた。

(取材・文:駒井憲嗣 photo:浅井隆、Koji Aramaki)

【関連記事】
鈴木祥子インタビュー「12年間のトラウマをここで精算する、雪辱戦のようなライヴになります」(2009.11.20)


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『無言歌 ROMANCE SANS PAROLES』
2010年4月8日発売決定

渋谷アップリンクXでこの夏2週間限定公開された『無言歌』と特典ディスクとして“もう一つの映像によるサウンドトラック”とも言えるスタジオでの最新収録風景をドキュメントした2枚組DVDセット。

『無言歌』
2008年初夏、ミュージシャン・鈴木祥子に一台のHDカメラが預けられた。1年にわたるセルフ撮りを中心に、ライブやコンサート、スタジオ風景が綴られていく。そこに写し撮られたのは、怒り、悲しみ、女性、亡き父、絶望、そしてうたと希望。鈴木祥子が鮮烈にカメラに焼き付けられていく70分。

『特典ディスク』
既に『無言歌』のサウンドトラックとしてリリースされているCDとは別の“もう一つの映像によるサウンドトラック”とも言うべき選曲によるDVD。収録予定曲 「5 years / AND THEN」「シュガーダディーベイビー」「BLONDE」「恋人たちの月」「Father Figure」 and 新曲

プロデューサー&プランナー:井上春生
出演:鈴木祥子
特別出演:鈴木慶一(moonriders)・原田真二・武川雅寛(moonriders)
主題歌:「I'LL GET WHAT I WANT~超・強気な女~」鈴木祥子
挿入歌:「DO YOU STILL REMEMBER ME?」鈴木祥子
2009年/70分
(c)2009 syoko movie partners

発売・販売:アップリンク
ULD-532
鈴木祥子公式サイト

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