監督第一作にして各国の映画祭を総なめにしたコートニー・ハント監督と、今作でアカデミー主演女優賞にノミネートされたメリッサ・レオの息のあったコラボレーションがこの傑作を生んだ。思いがけず国境を渡る不法移民の密入国という犯罪に関与することになる主人公の主婦レイと、彼女と偶然出会う先住民であるモホーク族の若い女性ライラ。カメラは舞台となるアップステート・ニューヨークにある過疎化した街の風景、タイトルの由来となっているカチカチに凍ったセントローレンス川、そしてカナダとの国境に面したモホーク族の保留地を、冷え切った空気がスクリーンから伝わってくるような色調で切り取る。雑多に物が置かれたトレイラーハウス内の描写や、さびれた街の様子など、リアリティを追求した画面がひたひたと押し寄せるサスペンスを高め、ふたりを中心とした登場人物たちへの細やかな眼差しと、ぴりっとした緊張感を終始持続する編集のリズムはよどみがない。
タフな母親を演じるメリッサ・レオは子供を、そして自らの家庭を守ることへの執念を抑制された演技で見せる。平然とした表情のまま拳銃をぶっぱなすシーンのかっこよさが脳裏に焼きついてやまない。また保留地で自治権を持つモホーク族を題材に、移民とマイノリティの問題、白人の低所得者層の貧困について正面から描いている点も評価すべき。綱渡りのドラマを組み立てていく脚本も小気味よく、2人の母親が遭遇するのっぴきならない状況を追いかけると同時に、終盤クリスマス・イブの夜に起こったある〈奇跡〉を用意することで、観る者に希望を与えることに成功している。ハリウッド映画がなかなか取り上げない絶望的な市民の生活を描き、しかもその先にきっちりと救いを用意している物語運びに、監督の才腕が冴え渡っている。
『フローズン・リバー』
1月30日(土)より、シネマライズ他順次ロードショー!
監督・脚本:コートニー・ハント
プロデューサー:ヘザー・レイ
プロデューサー・ラインプロデューサー:チップ・ホーリハン
撮影監督:リード・モラノ
美術監督:インバル・ウェインバーグ
編集:ケイト・ウィリアムズ
出演:メリッサ・レオ、ミスティ・アップハム、チャーリー・マクダーモット、マーク・ブーン・ジュニア
2008年/アメリカ/97分
提供:シネマライズ
配給・宣伝:アステア
公式サイト
2月6日(土)より、日本初の劇場映画同時配信サービスもスタート
劇場公開前や公開中の映画予告編を、ビデオ・オン・デマンド(VOD)で、観たい時にいつでもワンクリックで視聴できるアクトビラの最新映画情報番組「myシアター」は、日本初の試みとして、『フローズン・リバー』を「旬作プレミアVOD」として有料での配信を行う。都内単館で上映中の作品を全国津々浦々で同時期にテレビで鑑賞することができる。番組内では、合わせて予告編の別バージョンや監督インタビュー、本編の一部先行試聴などのコンテンツも無料で視聴することが可能だ。