骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2010-01-28 23:58


[CINEMA] 「世界的な不況の今こそ、誰の前にでも現れうるこの〈川〉を見てほしい」『フローズン・リバー』クロスレビュー

バックグラウンドや生きてきた環境を飛び越えて2人の母親が伝える、子供を思う愛の強さ
[CINEMA] 「世界的な不況の今こそ、誰の前にでも現れうるこの〈川〉を見てほしい」『フローズン・リバー』クロスレビュー

監督第一作にして各国の映画祭を総なめにしたコートニー・ハント監督と、今作でアカデミー主演女優賞にノミネートされたメリッサ・レオの息のあったコラボレーションがこの傑作を生んだ。思いがけず国境を渡る不法移民の密入国という犯罪に関与することになる主人公の主婦レイと、彼女と偶然出会う先住民であるモホーク族の若い女性ライラ。カメラは舞台となるアップステート・ニューヨークにある過疎化した街の風景、タイトルの由来となっているカチカチに凍ったセントローレンス川、そしてカナダとの国境に面したモホーク族の保留地を、冷え切った空気がスクリーンから伝わってくるような色調で切り取る。雑多に物が置かれたトレイラーハウス内の描写や、さびれた街の様子など、リアリティを追求した画面がひたひたと押し寄せるサスペンスを高め、ふたりを中心とした登場人物たちへの細やかな眼差しと、ぴりっとした緊張感を終始持続する編集のリズムはよどみがない。

サブ4

タフな母親を演じるメリッサ・レオは子供を、そして自らの家庭を守ることへの執念を抑制された演技で見せる。平然とした表情のまま拳銃をぶっぱなすシーンのかっこよさが脳裏に焼きついてやまない。また保留地で自治権を持つモホーク族を題材に、移民とマイノリティの問題、白人の低所得者層の貧困について正面から描いている点も評価すべき。綱渡りのドラマを組み立てていく脚本も小気味よく、2人の母親が遭遇するのっぴきならない状況を追いかけると同時に、終盤クリスマス・イブの夜に起こったある〈奇跡〉を用意することで、観る者に希望を与えることに成功している。ハリウッド映画がなかなか取り上げない絶望的な市民の生活を描き、しかもその先にきっちりと救いを用意している物語運びに、監督の才腕が冴え渡っている。



『フローズン・リバー』

1月30日(土)より、シネマライズ他順次ロードショー!
監督・脚本:コートニー・ハント
プロデューサー:ヘザー・レイ
プロデューサー・ラインプロデューサー:チップ・ホーリハン
撮影監督:リード・モラノ
美術監督:インバル・ウェインバーグ
編集:ケイト・ウィリアムズ
出演:メリッサ・レオ、ミスティ・アップハム、チャーリー・マクダーモット、マーク・ブーン・ジュニア
2008年/アメリカ/97分
提供:シネマライズ
配給・宣伝:アステア
公式サイト

2月6日(土)より、日本初の劇場映画同時配信サービスもスタート

劇場公開前や公開中の映画予告編を、ビデオ・オン・デマンド(VOD)で、観たい時にいつでもワンクリックで視聴できるアクトビラの最新映画情報番組「myシアター」は、日本初の試みとして、『フローズン・リバー』を「旬作プレミアVOD」として有料での配信を行う。都内単館で上映中の作品を全国津々浦々で同時期にテレビで鑑賞することができる。番組内では、合わせて予告編の別バージョンや監督インタビュー、本編の一部先行試聴などのコンテンツも無料で視聴することが可能だ。


レビュー(5)


  • ウエイトレスさんのレビュー   2009-12-20 23:57

    すごい映画を観ることになるだろうという予感・・・

    本編とは全く関係ないところで、この映画には一つの落ち度がある。予告を観ると、結末までの筋書きがわかってしまうのだぁぁぁ。だからなるべく予備知識を入れずに劇場へgo! ************ 冒頭、アップで映る中年の白人女性。化粧っ気が...  続きを読む

  • 中田 文さんのレビュー   2009-12-22 14:36

    境界線を越える女たち

    ギリギリの生活を送っているワケありのシングルマザー同士が出会い、不法移民を密入国させる危険な裏ビジネスに手を染めるようになる…というこの映画。「タランティーノが絶賛」という評判と共にようやく上陸ということで! …色んな意味で境界線越えを描いた作...  続きを読む

  • Rokoさんのレビュー   2009-12-24 22:50

    国境も、差別も、所詮誰かが作ったもの

     ニューヨーク州最北部とカナダの国境付近にネイティブアメリカン、モホーク族の保留地があります。ヨーロッパから入植してきた人たちがアメリカとカナダという国を作り、国境を作ってしまったために現在のような状態になっているのです。  この保留地という場...  続きを読む

  • まんとひひさんのレビュー   2009-12-29 21:16

    母の強さと愛の深さに静かに感動!

    題名の通り凍った川で起きた出来事 出会うはずも接点もないはずの二人の母親 一人はもう少しで手に入るはずだったマイホームの 支払い金を夫に持って失踪され途方に暮れる白人女性レイ そして愛する夫に先立たれ産んだばかりの子供を夫の親に 連れて行か...  続きを読む

  • emiueyamaさんのレビュー   2010-04-02 11:05

    北米最下層の白人女性の現実を描く「フローズンリバー」

    差別をする心は、自己防衛本能なのか。移民社会の米国、カナダでは、人種間の摩擦は毎日目のあたりする現実であり、軋轢は朝飲むコーヒーの苦味のようなもの。特に原住民居留区に隣接して住んでいるなら、なおさらだ。社会の最下層に沈殿して、身動きが取れない...  続きを読む

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