MMM Radio Psychedericはクラブ活動している感じ
今年で10周年を迎え、10月には日比谷野外音楽堂でのワンマンライヴを大成功に収めたクラムボンはもちろんのこと、木村カエラや、「日々の音色」のミュージックビデオが2009年文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門大賞を受賞したSOURほか、プロデューサーとしても活躍。さらにソロプロジェクトmicromicrophoneやdot i/oと、八面六臂の活動を続けるmito氏。HMVの協力のもと雑誌 MARQUEEの編集長MMMatsumoto氏と連載中のネットラジオ『MMM Radio Psychederic』も次回で10回目を迎える。それを記念して今回は、彼の多岐にわたる音楽制作について、そして2010年への展望について聞いた。
ラジオを自分で編集して作るのは、CDの特典でコメンタリーを作っていたりしたので、そんなに大変じゃなくて。CD棚を整理できる期間として(笑)、自分の生活サイクルの中に入っています。MMMatsumotoさんが入ってくれたり、HMVさんが参加してくれて、お互いボランティアでやっているので、みんなでクラブ活動している感じがして面白いですね。
各回のテーマも「暗い!怖い!!」(vol.3)、「ブリティッシュ・フォーク特集」(vol.9)など実にディープで多種多様。思い思いの音源を持ち寄り、自ら編集までを手がける番組制作は彼にとっても得難い体験であるようだ。
テーマについては、前回で話していた延長で繋がっていったり、決めて考えていないです。早めに録ってアップしているので、リアルタイムの話はできないんですけれど、もともとレコードについて自分たちで語り合う内容なので、ほんとうに自由にゆるくやっています。ポッドキャストでなにができるか、ということよりも、雑誌とラジオを連動できるというところが面白いと思った。音楽雑誌の伝えたいところで、それは耳で直接聴いてもらうことでもっと即効性があるよねという話から始まっているので、音源を聴いてもらったことによって解りやすくなるだろうし。歴史的な背景を掘り下げていく面白さとは別に、そもそも音楽を聴くことって想像力の問題だから、そういうことをシンプルに届けられるのはすごくいいと思っています。
スタートから1年半余り、雑誌に掲載されていない音源についてポッドキャストで話したりといったことにより、プログラムとしても次第にまとまり、濃くなっていったという。日本のミュージシャンのなかでも屈指の音楽知識と愛情を持つことで知られるmito氏だけに、オンエアする楽曲を自宅内で掘っていく作業と、そこからの再発見は相当なものだろうということは容易に想像できる。
むしろそれがメインというか(笑)、レコード棚やitunesやハードディスクのフォルダ整理の延長がラジオでできるから。やみくもに買っていていた時代もあったので、こんなの買ってったんだって。僕が若い頃ってちょうどレコードとCDの過渡期だったので、とにかく興味がある音を探していって、普通に10,000枚とか持っていましたからね。なぜそんなに金あったんだろうって思うくらい。番組を続けることで、買ったのに聴いてなかったレア盤を聴き直したり、と同時に再発している作品をもう一度探しにいったりすることができたり。ビートルズをはじめとしたリマスター盤の流れもそうですが、ちょうどCDが20年経って、いい感じで一周し始めているので、クオリティの監査みたいなことがすごく面白い。CD制作の遍歴を知れるんですよ。自分はエンジニアもやっているから、その部分も仕事にフィードバックされていて、すごい肥やしになっています。昔のレコードやCDを引っ張り出して、今の自分たちのラジオに持っていこうとうすると、時代の音を感じるときがありますね。「この時代はもうちょっと低域はこれくらい余裕があっても聴ける」とか、「これくらいハイエンドがあっても聴ける」とか、「なにげに80年代の音源はクリアでボリュームをちょっと上げるだけで今っぽい感じに聴ける」とか、いろいろな発見があります。それはだから、普通に聴いているだけではなくて、誰かに届けたり、「もの」を作っている過程じゃないと、そういう頭が働かないと思うんですよ。
まるで小さい頃にFMラジオを毎週エアチェックしてレコード屋さんに探しにいくのと同じような、そうした情報を自らの手で追い求めていく宝探し的な楽しさも、この『MMM Radio Psychederic』の魅力であるだろう。
値段とか価値とかそういうものじゃなく、基本的にネット上でボーダレスに見たり聴けたりするというのは同時に、それを自分たちが独自に選んでいかなきゃいけないということ。そういうセンスの問題になってくるっていうのはすごくいいことだなと思うんです。そうやっていくと、結果的にいいものが残っていって、あまり響かないものはすぐに消えていってしまう。それが自分たちにフィードバックされれば、自分たちも迂闊なものは作れないなという気にもなるし。いい循環のような気がするんです。MMM RadioではそれをHMVのサイトですぐに買えるというのもすごくいいと思う。短い時間で「思っていることを満たせる」ことは、他のことに使える時間が生まれるということだから、そこはすごく器用に使ってもらいたいなと思います。
そうしたウェブでの即効性の一方で、彼が行っている良質なクラシックを今までにない観点から楽しむことにできるイベント『Hardcore "Classic" Tunes』やwebDICEがスタートさせた「体感試聴会」のような、どこかに出かけていってじっくり音に向かい合うという行為も、これから必要とされてくるのではないかという問いに彼はこのように答える。
『Hardcore "Classic" Tunes』はBarクムラ で自分たちで作っていますけれど、クラシックを新しい視点で聴いてもらえるといいと思ってやっています。漠然とですけど、試聴したり、オーディオルームを作ったりすることには非常に可能性があるんじゃないかと思ってるんです。今は音源よりライヴのほうが人が魅力を感じているというか、実際レコード的な売り上げよりライヴの動員のほうが大きくなってきている。要するにそれはPCでいろいろな音が聴けるからこそ、生ものをちゃんと見たいと無意識に感じているんだと思うんです。だから「試聴」という概念も、高品位の音楽を聴くという魅力によって変わってくると思います。。
偶然を引き込むのは日々の鍛錬
webDICEではゲストブロガーとしても参加中で、高いアクセス数を更新中の「(仮)Bug」の話題など、制作風景も垣間見ることができる。音楽を作る上はもちろん、クリエイティブなことを行う上でのスピードというのは現在mito氏が大切にしているところなのではないだろうか。
大切に、というかどちらかというと、それができる環境になってきたという方が早いかもしれない。例えば僕はたまたま自分たちで事務所を構えていることもあるので、自分から企画したり自分で営業できてしまうわけですよ。みんなに確認を取ったりということはするけれども、でも進行できてしまう。前にレーベルに預けられていた身ではそういうことも確認を取らなければいけないし、その確認をとってオッケーをとったものにも権利の問題とかいろいろな問題があった。そういうものを全部取っ払われて、その環境が、伝えたいことのインターフェースが自分たちの能力のなかで整っただけなんです。要するにパソコンのなかでぜんぶ解決できるスキルを手に入れられることができた。早すぎるとは思っていないですし、前から思っていたことだから、これでもまだちょっと遅いんですよ。他にも思っていることはいっぱいあるから、そうしたスピードが自分の思っている音楽制作にだんだん近づいてきてくれているなとは思っています。スピードってたぶんみんな慣れてきてしまうと思うから、あとは自分で情報を整理する時間を作っていくことが次のスキルになっていくと思う。人間ってものすごく多感な生物で、いろんなものに干渉していこうとするものだから、それをどんどん突き詰めていけば突き詰めていけるだけもっと音楽の情報量も表現も大きくなっていくと思う。30年前と比べたら3分の音楽の中で伝えられていた内容も違うし、サム・クックの音楽とエイフェックス・ツインの音楽の3分間の濃密さは異常なくらい違うわけで。そのスピード感が、音楽的なものをどんどん深くしていくと思う。
「(仮)Bug」のような奇跡的な瞬間を捕まえることができること、その偶然を引き込む才能、選び取る眼やセンスがミュージシャンやクリエイティブな作業を志す人には必要とされるのではないか。
それはよく(原田)郁子とも言うんですけれど、それもとにかく日々の鍛錬だと思うんですよ。方法はないんですよね。でも単純に、いろんなところにずっと「開いている」ことが必要で、「開いている」ことで見えてくるものがいっぱいある。たいがいの人ってそこでオーバーフロウするんですけれど、オーバーフロウしないで、悪いものをうまくその瞬時で分けていくということを僕らはすごく意識していると思う。郁子も(伊藤)大助もそうだし、ものを作るってそういうことのような気がします。ラジオやYoutubeとかで流れている音楽もあらゆる音をキャッチして、それを昇華できる、読解できる力というか、たくさんの情報をどう組み上げていくかというのが理解度になる。音を作るうえでも、何千万、何億とあるサンプル素材、ドラムのパターンのなかからなにかひとつ選び出すことで面白いことができるんだし。みんなバラバラにいろいろ探していると思うけれど、ポリティックな意味じゃなくて共産的なものになっていると思うんです。「(仮)Bug」についても、あれって曲を作ろうと思わずに曲ができてしまったということだから、もし公的に出したら世界初だと思うんです。ちょっとした画期的な出来事が存在して、自然と、機械というものが介入しておきながら、自然に「もの」が生成できたということですからね。基本的にジッター系のバグなんですけれど、そういう「もの」もそのつもりで作っているわけでもないだろうし、いろんなものが重なった。実は「誰も作らないで生まれた曲」ということで、ギネスに申請したいなと思うくらい。だから自分たちの曲としてなかに入れていいのかさえ考えてしまうようなものですよね。でもそういう発見があったのがちょっとうれしかったです。音楽を信じていてよかった、音楽を面白いと思っていて良かったというような。あとはもしかしたら普通の人が聴いたら「えっ?」と思うかもしれないけれど、自分がそれを引くことができたというのがすごくありがたいというか。でも「(仮)Bug」はみんな聴いて「すごい!」と言ってくれるので、まだまだ音楽って可能性があるなと思って。
自分たち自身にハードルを見ている
mito氏のソロプロジェクトmicromicrophone、dot i/o、FOSA MAGNAのアルバムが発売されたのが2006年。その後も、dot i/oが先日electraglide presents Warp20に参加し、今月には渋谷WOMBでのイベントCOLORに出演と、断続的にライヴ・パフォーマンスを続けてくるなか、彼のなかでそれぞれの棲み分けというのは変わってきたところはあるのであろうか。
基本はどの名前でもみんな同じ気持ちです。micromicrophoneだったら歌ってギターを弾く、dot i/oだったらPCとTENORI-ONを使ってやるという楽器の違いで3つに分けただけで、実際はもっと分散しなければならなきゃいけないくらいだったんです。クラムボン自体の活動もそうだけれど、もともとなにも決めていないんですね。音楽をどこかで区切ったりしないので。だからなのか、どこでやっても同じ気持ちでやってるんです。あとはその場所の空気とかお客さんと一緒にコミュニケーションを取れるようになると、自然とたまに僕がキャッチーなフレーズになったり、自然に変化していくものだから、ポップなものかハードコアなものなのかは後からついてくる。
FOSSA MAGNAのアルバム『Declaration of the Independence of
the imagination and the Rights of Man to His Own MadnessⅠ』(PJL ORIGINAL RECORDINGS)
10月にはLOFTで開催された『DRIVE TO 2010』で行われた主催イベント『Erosionize vol.1』を行い、気鋭のアーティストametsubと共にコラボレーションを行った。
基本的に僕は生楽器を演奏する人だけれど、今回はデジタル楽器のみを使ったセッションだったので、基本慣れないことはいっぱいあると思っていたんです。ところが僕のやりたいこと、ametsubくんに失礼かもしれないけれど、こういうのを聴きたい、こういう流れにしたいと思うところや表現したい内容が彼の出す音と似ていたんです。だから、バンドで人数を集めて生楽器でセッションをするより、ぜんぜん楽にできました。ふたりとも最初のリハーサルでちょっと異常というくらいハマった。音を出してお互いが誰の音を出しているのか解らなくなるくらい音が混ざって、俺らが解らないくらいだから聴いてくれる人にはさらに解らないだろうなって感じでしたね。
dot i/oの2006年作『Declaration of the Independence of the imagination and the Rights of Man to His Own Madness II』(P-VINE RECORDS)
今回映像の筒井真佐人くんとametsubくんと僕と、『Hardcore "Classic" Tunes』の選曲をやっている平野(芳博)さんがサウンド・デザインをしながら、4人で作ったんです。普通のチルっぽいスペースにしたくないので、音楽とインスタレーション的なものをもっと密接にして、インスタレーションで流れているインストというよりも、音楽の比重を同じくらいにできると面白いなと。ちなみに今回のLOFTのイベントでもうセットはできあがったから、あとは借りるプロジェクターのお金さえ伴えばどこでだってできる。そもそも『Erosionize vol.1』とした理由はそこだったりして。それこそワールドツアーができますよ(笑)。野外でだってできるし、FUJI ROCKの夜の木道亭でミラーボールがめっちゃめちゃ綺麗なところでできたら相当アガルよね。日高(正博/スマッシュ)さんに言ってみようかな(笑)。そういう発見ができてるからラッキーです。
micromicrophoneのファースト・アルバム『Declaration of the Independence of
the imagination and the Rights of Man to His Own Madness III』(BUZZTONE RECORDS)
またクラムボンも2009年はアルバム『Re-clammbon 2』、配信限定シングル「NOW!!!」、11月にはタワーレコード限定発売となるclammbon feat. THA BLUE HERB『あかり from HERE ~NO MUSIC, NO LIFE.~』のリリースがあり、さらには野音をはじめとしたライヴやFUJI ROCKなどフェス出演と、ハードワーキングぶりを示した。
今年から来年はちょうどいろんな流れが重なって、クラムボンとして自然と動けています。もともとテーマを縛ってなにかを作っているわけでもなく、3人ともそうですけれど、目標とする人とか流行的なものに向かっているわけではなくて、自分たち自身にハードルを見ていると、毎日課題が当たり前のようにある。別に人にせかされてやっているわけでもなく、自分たちのためにやっていると、「自分の欲望に正直だと、大変だけれど楽しい」ということを感じながらやっています。
11月にタワーレコード限定発売されたclammbon feat. THA BLUE HERB『あかり from HERE ~NO MUSIC, NO LIFE.~』
現在アルバム制作中であるというクラムボン。次の作品では、3人のアイディアの持ち寄り方や制作のプロセスについては変化があるのだろうか。
クラムボンのアルバムを今年中に作り上げたいと思ってますけれど、なんだかんだでみんな忙しくて。基本的に小淵沢のスタジオでぜんぶ作ってしまおうと思っているんですけれど、現在レコード会社とアーティスト契約をしていないので、初めてクラムボンをうちの事務所のレーベルtropicalから出すアルバムになるので、そういう気の向き方が音に含まれるかなと思います。それが具体的ななんなのかはちょっと解らないですけれど。個人的には「(仮)Bug」みたいな曲ができていたり、非常に早く曲ができあがっているので、それをみんなに伝えてどれくらい早くまとめられるかというのがある。逆に時間が制限されているので、もしかしたらあまりゲストも入らないで、3人でセッション的に作って、ぼこぼこな形のままアップするみたいな、昔のハードコアっぽい作りになるのかもしれない。でもそれは〈かもしれない〉ぐらいかな(笑)。
ブログに曲の原型をすぐアップしてリスナーの方に聴いてもらって、その反応を音楽制作にフィードバックさせる。そのスピードが、またクラムボンの新鮮なクリエーションに繋がっていくということもあるかもしれない。作品でそしてネットで、彼の考える〈今の音〉が聴けることを楽しみにしていたい。
音源ってじっくり時間をかけなくていい場合というのがあるので、作り終わってすぐ出すというレスポンスの早い状態というのがこれから肝になってくるんじゃないかな。時代の移り変わりも激しいですし、こと僕ら自体はやっている音楽がひとつのジャンルにとどまっていないので、その全体が持つ空気感で時代を作っていくと思うんです。そうするとタイムラグがないことのほうが伝わりやすい。なおかつアルバム単位での音の伝え方をずっとここ何年でやってきているから、余計にそういう瞬発力は必要だなと思います。そんなことを言っていたら、僕もワクワクしてきますけれどね(笑)。
(取材・文:駒井憲嗣)
・webDICE - 骰子の眼連載 『MMM Radio Psychedelic』隔月好評連載中
過去のラジオも視聴いただけます!
http://www.webdice.jp/dice/series/3/
・mitoホームページ(webDICE内)
http://www.webdice.jp/user/477/
・MARQUEEホームページ
・HMV『MMM Radio Psychedelic』特設ページ
HMVオンラインでしか読めないコメント・解説も掲載!是非、ラジオとあわせてご覧ください。
http://www.hmv.co.jp/pr/mrp/
mito プロフィール
1975年5月6日生まれ、東京都出身。クラムボンではベース、ギター、キーボードを担当。デビュー以来クラムボンのほとんどの楽曲はmitoによるものであり、自身のバンド以外にも数多くのミュージシャンに楽曲提供を行っている。また、木村カエラやtoe、SOURなどのプロデューサー、ミックスエンジニアとしての活動も並行して行う。2006年から「mito solo project」として3つのソロ活動をスタート。フリージャズ・ユニットFOSSA MAGNA、フォーク/プログレッシブ色の強いmicromicrophone、そしてエレクトリック・ミュージックを主体としたdot i/oとして活動を行っている。
ライヴ情報
『WOMBLIVE presents COLOR Vol.2』
2009年12月23日(祝・水)渋谷 WOMB
LIVE:iLL、dot i/o、髭(HiGE) electric live set、DE DE MOUSE
DJ:FUMIYA TANAKA
LOUNGE DJ:YOSHIKI(op.disc)、NAO TOKUI(op.disc/PROGRESSIVE FOrM)、ametsub(PROGRESSIVE FOrM)
開場・開演 17:00(ライヴスタート18:00)
お問い合わせ WOMBLIVE 03-5459-1039
リリース情報
clammbon
『Re-clammbon 2』
COCP-35574
¥2,625(税込)
tropical
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