骰子の眼

music

東京都 渋谷区

2010-01-06 18:20


「いろいろなジャンルの音楽を組合せた〈遊牧民〉のような音楽」─トベタ・バジュン『African Mode』体感試聴会クロスレビュー

注目のサウンド・クリエイターがアフリカをキーワードにした新作とクリエイティビティをアピール
「いろいろなジャンルの音楽を組合せた〈遊牧民〉のような音楽」─トベタ・バジュン『African Mode』体感試聴会クロスレビュー
体感試聴会にトークゲストとして登場したトベタ・バジュン氏

2010年1月13日に発表となるトベタ・バジュンのニューアルバム『African Mode』の体感試聴会が渋谷アップリンク・ファクトリーで行われた。この日はトベタ氏本人も登場。アルバム全編の試聴会に続いて、トークゲストとして、今作のコンセプトや制作にまつわるエピソードを披露した。

「父親がラテンやボサノヴァのバンドをずっと組んでいて、その父の影響を受けて、ブラジル音楽というのはとても重要なキーワードなんですけれど、それに加えて、エレクトロやエレクトロニカのテイストというのもすごく好きなので、生の要素とエレクトロの要素をうまく自分流にミックスできないかなというのが常にあって。それを『African Mode』で現在の自分を等身大で表現したかった」。

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会場でスライドショーとして上映された本橋成一氏の写真

坂本龍一や高橋幸宏、大貫妙子など蒼々たるミュージシャンが参加した2008年のデビュー作『青い蝶』に続く今作は、Atom™AOKI takamasaAmetsubといったワールドワイドかつ実験性を強く感じさせるアーティストが参加。

「彼らのサウンドのエッセンスを自分なりに取り込んでいきながら、実験性みたいなものが楽しくて、彼らと一緒に生み出してときの喜びはすごくありました。海外とeメールでやりとりして、国境のない時代、社会で、そこはすごく新鮮でもありました。『青い蝶』は、自分よりすごく大先輩の方々とコラボレーションさせていただいて、もちろん今回の『African Mode』に参加していただいたのも尊敬すべき方々なんですけれど、自分と音のキャッチボールがし易い人というところもあって、今回の方がディレクションする上でもフットワークが軽くリラックスしてできました」。

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この日は、普段映画を上映しているアップリンク・ファクトリーのスクリーンに、トベタ氏が映画音楽を担当した『バオバブの記憶』の監督・本橋成一氏によるアフリカの写真がスライドショーとして展開された。『African Mode』制作のきっかけともなった本橋監督の写真がビジュアル・コンセプトとなる今作。「映像からインスパイアされたり、イメージが先行してあってそこに音をつけていくというような制作方法は多いです。僕自身も今後どんどん映像を作っていきたいと思っています」と、意欲を見せた。

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「今後もブラジルやラテンといった根っこの部分は大事にしていきたいと思いつつ、僕も好奇心旺盛な方なので、ヒップホップのアーティストとなにかやってみたり、自分の軸を大事にしながら、いろんな世界に遊牧民みたいに飛び込んでいきたいという気持ちはすごくあります。アンテナも常に張っていますし、 STUDIO VOICE ONLINEで僕は突撃対談インタビューみたいなこともしているんですけれど、自分に興味のある人には自分で飛び込んでいくみたいな、そういう姿勢というのはすごく大事だと思っていて。だから自分はこの音楽しからやらない、と決めるのじゃなくて、いろんな人と出会って、そこで新しいものが生まれていくという可能性を自分のなかで常に求めているなと思います」。

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また、スピーカーに向き合ってじっくりとアルバムを聴く貴重な場を作ろうというコンセプトの体感試聴会についても、このように語った。 「作り手としては、こういった機会ってすごくいいなと思ったんですよ。というのもモバイルとかPCの音というのはもちろん楽しい部分もあるしこれからもどんどん発展していくでしょうけれど、まだまだ音質のレートが低かったりする部分もあって、本当に作り手がこういう環境で聴いてほしいという状態では聴けないこともあるから、でもいい音で聴いてもらいたい。あとは音楽家としては、作った音楽を直接聴いてもらいながらコミュニケーションを取る機会というのは、それこそ原始的な行為、大事なことだと思うんです。膝をつき合わせるようにして『これ聴いてよ』ってそういう部分は、特にこういう時代からだからこそ大事かなと思うので」。

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リリカルなメロディラインとフロンティア・スピリットを忘れないサウンド・メイキングにより、今後ますます活躍の場を広げていくことは間違いない。 「2010年はソロアルバムも作りたいですし、同時に下世話な表現かもしれないですけれど、『こんな人ともいろいろコラボレーションするのか』っていうくらいもっと積極的に激しくコラボレーションを続けながら、自分のなかでの好奇心の歯車をもっと早くさせて活動していきたい。それはコラボレーションをしたいというのが先にあるのではなくて、自分の中での音の確立を、侍がいろんな人と剣を交えることによって腕が上達していく感覚のように、音を研ぎ澄ませていくという感じに近いのかもしれないです」。(2009年12月1日、渋谷アップリンクファクトリーにて)

(取材・文:駒井憲嗣)



トベタ・バジュン プロフィール

ミュージシャン(作詞作曲含)/プロデューサー/リミキサー/マルチクリエイター、と複数の顔を使い分けているが独自の世界観で包括されている。楽器はピアノとキーボードを得意とする。2006年春より坂本龍一氏らが設立のプロダクション・オフィスのLLP10℃に所属する。2008年11月、葉加瀬太郎氏レーベルHatsUnlimitedから、坂本龍一/高橋幸宏/大貫妙子/堀込泰行(馬の骨/キリンジ)高野寛/平野啓一郎(芥川賞作家)/甲田益也子/サイゲンジ/佐田真由美らをフィーチャーしたアルバム『青い蝶』をメジャー・リリース。サウンドプロデューサー、リミキサー、ミュージシャンとして先述したアーティスト以外にもJaques Morelenbaum、Chen Hao、坂本美雨…etc、数多のアーティストとの共演経験を持つ。一方、2008年映画『西の魔女が死んだ』の全編音楽、2009年本橋成一監督『バオバブの記憶』など、映画音楽も積極的に手掛けている。また映像監督としても活動の幅を広げつつあり、先述のアルバム『青い蝶』のPVを監督制作、短編映画祭に招待出展、また舞台を総合演出するなど活動が多岐にわたるのも特徴であり、日本画家の平山郁夫氏出演の三越美術部の百周年式典の音楽制作・プロデュースなどもおこなっている。

公式サイト
Bajun Tobeta myspace




African Mode H1 sample

トベタ・バジュン『African Mode』

2010年1月13日リリース
XECD-1120-21
2,480円(税込)
Third-Ear JPN Ltd.

★購入はコチラ


レビュー(4)


  • hitonumaさんのレビュー   2009-12-03 00:52

    わたしと、音楽。

    朝の携帯のアラームからはじまり、ニュース、CM、駅のホーム、電車の中、ショッピング、信号機、PC・・・・ 音楽は私の日常に溢れている。 そう、常に音楽と触れている。 けれども音楽と向き合っはいない。 フィルターを通じてとしか音楽と交わ...  続きを読む

  • Tringさんのレビュー   2009-12-03 18:04

    作り手の表現力を十全に聴かせた試聴会

     トベタ・バジュン氏の最新作『African Mode』の体感試聴会。人類のルーツ「アフリカ」を舞台にした、原始的な音楽というか、ゆったりとした音楽の数々に、本当に心から癒された。  生楽器の豊かな音、エレクトロニカやラテン・ボサノバのテイストが融...  続きを読む

  • Ladylike Studio TOKYOさんのレビュー   2009-12-09 13:01

    耳で触れる音楽

    「鑑賞する」 この言葉が、これ程相応しい音楽もそうは無いだろう。 トベタ・バジュン氏の最新作「African Mode」は、確かに目で見て、耳で触れることのできる芸術作品だと僕は思う。氏のバックボーンでもあるボッサ・ラテンミュージックを下地に...  続きを読む

  • yumaさんのレビュー   2009-12-11 18:41

    追っかけレビュー

    タイトルからイメージするような民族音楽的な作品ではなく、むしろ前作「青い蝶」で聴かせてくれた、柔らかなヴォーカルのボッサ~ジャズ+電子音という構成に近い作品に仕上がっている。 映画「バオバブの記憶」で描かれたような、アフリカという大地に暮らす人々の...  続きを読む

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