骰子の眼

dance

神奈川県 その他

2009-11-18 18:00


「公演のために削いで削いで…その中にエッセンスが残るように」KARAS・佐東利穂子インタビュー

KARASメンバーとして主宰の勅使川原三郎氏振付作品の全てに出演している佐東利穂子が、11月20日~29日に川崎市アートセンターで待望となる初のソロ公演を行う。
「公演のために削いで削いで…その中にエッセンスが残るように」KARAS・佐東利穂子インタビュー
撮影:後藤武浩(ゆかい)

初めてのソロ作品「SHE」は私の身体自体

──初めてのソロですね。タイトル「SHE」は佐東さんのことでしょうか?

私、というより私の身体ですね。佐東利穂子がどういう性格で…という「人物」ではなく、その「身体」。私がこれまでずっとやってきたのは、自分の身体と向き合うこと。だったらその身体に徹底してやってみましょう、ということになって。初めてのソロ、という最初の機会なので、色をつけたくないという思いが私にも勅使川原さんにもありました。何かを演じるのではないダンスの創作方法を、集大成として見せることができればと思っています。

──これまで勅使川原作品の中でソロパートを踊るのと違いがあると思いますか?

作品や踊り自体に向かう気持ちはいつも同じです。しかし、ずっと自分ひとりで場面を引っ張っていくことは、ここだけ出て、というのとは違う。直前にヨーロッパでツアーをしてきたのですが、その中の『オブセッション』という勅使川原さんとのデュオ作品を公演してきました。勅使川原さんと私、2人しか出ない異色な作品。初めて舞台から全くはけない、舞台の上に居続けて変容していくということを経験しました。それはソロ作品をやる前のいい勉強だったと思います。ただ、勅使川原さんが用意する舞台というのは、照明、音楽、舞台装置といろいろな要素がある。固定されたものではなく、それら自体が動いているという感じがする創り方をしているので、面白い身体の経験ができる。今回もその場所とともに身体が移り変わっていくことができれば。

SUBSTANCE
「オブセッション」より/撮影:Bengt Wanselius

舞台の上で初めて全てがひとつになっていく

──これまでも演出助手を務められていますが、今回、どのように作品を積み上げていっていますか?

いつも、作品に向けて、とか、いつから始める、ということはそんなにはっきりしていないですね。いつから稽古場入りというのはありますが、それより以前から稽古場で稽古をしているし、日々の身体を通した発見の積み重ねが重要なのです。それが、勅使川原さんの中で蓄積されている。私たちは、ここまで、と限定しないで新鮮であり続けること、そして混乱するくらい、あらゆる要素を並べるということをします。身体の動きも、照明も、音楽も、舞台装置も全部。そして舞台に上がってから創作する時間を長めにもらって、全ての要素を合わせる。舞台の上で初めて全てがひとつになっていくのです。

──稽古場で基本的な部分ができるわけですね。現在、KARASのメンバーは何名ですか?

去年、新国立劇場の教育プログラムをきっかけに参加した10代のダンサーがいます。彼らを合わせて現在メンバーは10人弱ですね。10代のダンサーたちとは、稽古を続けることによって共有できるものが出てきて面白い。身体を通して自ら得てきたことは人とも共有できる。その年代には難しくてわからないと思うかもしれないことも、経験するとわかるようになる。それが感じられます。

──日々の生活の中で、意識的にしていることはありますか?

ダンスのために、というのはないですね。勅使川原さんのダンスメソッドを学んだことによって、いろいろなものの見方、感じ方が変わりました。緩まったというか、あるいは焦点が合ったというか。豊かに感じられることが多くなったんです。どこからどこまでが稽古場で、どこからどこまでがダンスのためか、などと切り離せない。こういうときに自分が影響を受けたというのを言葉で説明できなくても、後で気づくこともある。こういう感覚ってもしかしたらああいうことに共通しているのかな、とか。踊っていて思い返したりとか。頭で考えるよりも身体で考えることが多くなったという感覚がすごく強いです。

0_IMG_5182
「SHE-彼女」稽古場より/撮影:勅使川原三郎

13年一緒にいますが、勅使川原さんの考えていることはいまだ謎です

──勅使川原さんの考えていることはだいたいわかりますか?何年ご一緒に作品を作られているのでしょうか?

13年です。でも未だに謎です(笑)。強い価値観や美意識を持ち、何がきても揺らがないものもあるし、何かによって影響されたりそれがまた違う形になったり、つねに進化し続けている人のように感じます。そんなところから学びたいからこそ「わかったぞ」と思わないようにしています。

──創作の過程でぶつかることは?

しょっちゅうありますよ!そういうことがないと、当たり前のように理解しあっていると思ってしまうと見逃してしまうことが多くある。例えば「こういうことはこう考えるであろう」と思ってしまうと何も新しいものが出てこない。「そんなことはわかっているはずなのに」ということをお互いに突きつけ合うこともあります。そういう風にして壁を壊して作り直していくということの繰り返しです。

──そうやって新しいものが生まれていくのですね。踊りを始められたきっかけ、KARASとの出合いなどを教えていただけますか?

小さい頃イギリスで育ったのですが、そのときに器械体操をやっていました。ずっと続けていたのですが、筋肉がないのでくるくる回ったりという動きができなくて。大会で競い合うというのも苦手で。高校を卒業する頃に、自分は何をしたいんだろうと考えたときに、身体を使うことがしたいんじゃないか、でもスポーツじゃない、ではダンスかなと、頭、自分の思いで考えたんです。大学入学後にダンス部に入ったり、色々なダンス公演を観に行ったりしました。しかし実際に観るダンスと、自分がこういうことがしたいと思い描くダンスは何かが違うと思った。でも身体には興味がある。そんなとき知人から勅使川原さんの舞台を薦められて、初めてダンスを観て感動したんですよ。ちょうどそのときにワークショップ生を募集していてそれに申し込んだのがきっかけです。そこでの発表会を勅使川原さんが見ていて、ある作品創りに誘われました。それ以降ずっとKARASで踊っています。

0_3
撮影:後藤武浩(ゆかい)

先にはもっと楽しいことがある

──そのときに、勅使川原さんの舞台にひかれた理由は何でしょう?

作品としての素晴らしさと、身体の使い方です。映画を観るように、絵を観るように、作品という形でダンスを観ることができたということがひとつ。そして、身体。それまでコンテンポラリーダンスのワークショップなどに行ったときには「身体ができていない。できたらおいで」と言われていたんですよ。多くのところではすでにできている形を振付として教えている。彼らに「では基礎とは何ですか?」ときくと「バレエだ」という回答でした。そして、バレエのレッスンなどにも行ってみたのですが、私の身体で、20代からバレエを始めることが正しいのかという疑問もありました。身体の基礎って何だろう?ってずっと思っていました。そこで勅使川原さんの舞台を観て、ワークショップに参加して感じたのは、作品のためというのとは別に、自分の身体を知ることというのが基礎にある。形を習うのではなく、まず自分の身体を知る。そのためのメソッドがある。自分自身で感じないことには、そこから先へ進んでいけない。私にとってはそれが面白かった。他人の身体を観ても感じられないことを、自分自身の身体から始められるんだ、と思ったのは衝撃的でした。そしてこれはただの出発点で、まだ見ていないものに対して先が楽しみになれる。勅使川原さんからも「先にはもっと楽しいものがあるんだよ」ということを言われていて、それが信じられるなと思って。それが続けている理由でもありますね。

──今でも先は楽しみですか?それとももう熟知してしまいましたか?

いえ、全然まだまだです!毎日発見だらけですよ。

0_2
「SHE-彼女」稽古場より/撮影:勅使川原三郎

──今後、自分がディレクションをしたいという意欲はありますか?自分に、またはその若い人たちに対して。

「振付家」という言葉が私たちのやっているダンスとはちょっと違うな、と感じているので、今回の作品でも「ディレクション」と呼んでいます。勅使川原さんや私がやっているダンスというのは、形を誰かの身体にぽんっと当てはめるということではない。振りを作るにしても、その人の身体からくる動きであったり、あるいはその人がやったらもっとこうできるだろうということで形を作る。その意味で振付という部分はもちろんあるのですが、もともとそのひとの身体から出てくる動きをディレクトしていく、それが出てくるように導いていく、という創り方をされているのです。私もそういう意味で身体の動きとか、踊りがどうやって生まれてくるかということにはすごく興味がある。今一番興味があるは自分自身の身体なんですけど、他人の身体を見ていてもすごく面白い。新たな仲間となった若手のダンサーたち、私も彼らに教えることがあるのですが、どうやってひとつの言葉から彼らの身体が変わっていくかというのを見るのがすごく面白い。「振付作品」ではなく、稽古でしているような感覚の動きが生まれてくるものを創っていく、そしてそれが作品になるというのがいつかできたら良いですね。

Double Silence, Choreography by Saburo Teshigawara
「ダブル・サイレンス-沈黙の分身」より/撮影:Bengt Wanselius

「教える」こと、「伝える」こと

──教える、ということでは、大学でも教えていらっしゃるのですよね?

はい、勅使川原さんが教授を務めている立教大学で。現代心理学部の、映像身体学科でダンスを教えています。ダンサーを育てるためのクラスではないのですが、私たちが稽古でやっているような基礎的な身体の訓練を彼らと一緒にやっています。自分の大学時代を振り返っても、その頃の身体には雑多なもの、悶々とする考えや迷いなど、余計な情報がいっぱいある。ひとつのことだけにどっぷり漬かる、という状態がつくりにくい。ただ、ワークショップの中で時間をかけていくと、余計なものがだんだんなくなっていく姿が見えるんです。人の身体が変わっていくのをみるのはすごく面白い。

──その変化というのは、具体的に言うとどんな感じですか?

メソッドの一番基本的なことは、ジャンプなんですよ。ジャンプって言ってもぴょーんって上に高く飛ぶためのジャンプじゃなくて、身体を落とすジャンプ。飛び上がると必ず身体は落ちますよね。落ちるということによって身体を緩める。それを長い時間続けてみる。そうするとみんな「何でこんなことやってるんだろう?」と思うんですよね。でもそれをずっと続けていると、身体が自然に疲れてくる。最初はそういう「何でこんなにこと……?」とか余計なことを考えて力が入っているけれど、そんな余裕もなくなってきて、疲れに自分の身体を任せるしかない状態になってくる。そうすると余計な力がなくなって、本当に必要最低限の力でやるしかない状態になってくる。そうすると、自分の呼吸が大事になってくる。マラソンなんかでもそうだと思うんですけど、何かを続けていくためには、普段意識していない呼吸というものが大事になってきます。「呼吸を意識しなさい」と言葉で言ってもなかなかできないけれど、それが「酸素が必要だ」と身体で実感すると、呼吸の意味が変わってくるんです。そういうことを発見することによって散漫だった身体あるいは意識というものが、だんだんひとつになってくる、焦点が合ってくる。そうすると身体がより生き生きしたものになる。それが見ていてもわかる。「何年生の何々さんだな」という身体から、その人のある意味裸の身体になってくるように見えるんです。

0_4
撮影:後藤武浩(ゆかい)

──教える、ということでKARASとして培ってきたことを伝えたい気持ちがありますか?

KARASでの経験は、自分ひとりでやってきたことではないし、今の自分にとってずっと勉強していること。最近、教える、教育ということがかけ離れたことではないなと思うようになってきました。今自分がやっていることを伝える、共有するということはこれからもやっていきたいなと思います。実際それで人にちゃんと伝わるんだというのが見ていてわかりますし。そしてそうやって私たちのワークショップから育ってきた10代のダンサーたちが今は仲間になっているので、うれしいことです。今回のようにソロ公演というのは経験したかったことの一つですが、一般的にソロというと有名な振付家に振り付けてもらうこと、または踊り手がある年代になったら振付家として活動することが当たり前のように思われがちですが、そうではなく、ダンサーが踊ることで培ってきた体の感覚、それが作品になり得るんだということが勅使川原さんのメソッドをやっているとよくわかる。そのためには周りの環境もすごく大事なんです。身体ひとつなんてあり得ない。外からのいろいろな影響、音、照明、仲間からの影響を受けて、私自身のあり方が変わってくるので、周りの環境というのは切り離せないもの。その中でダンサーが自由、つまり身体を鍛えてきたことによって生まれる自由を持つことがあり得るんだということをもっと多くの人に知って欲しいと思います。「振付家」になった人にしかできないことではなく、ダンサーとして身体で勝負する、ということ。稽古の中では美しい場面がたくさんある。もっと多くの人の目に触れる機会があればと思います。舞台に乗るのはほんの一部。その過程にも豊かなものがたくさんあるということ。「SHE」もそのように、公演のために削いで削いで…という過程があると思いますが、その中にそのエッセンスが残るようにしていきたいと思います。

(インタビュー・文・構成:世木亜矢子)

■佐東利穂子 PROFILE

1995年からKARASワークショップに参加。96年にKARASメンバーとなり、以降、勅使川原氏振付の全てのグループ作品に出演。近年では、振付助手も務め「KAZAHANA」ではソリストとして高く評価される。05年4月ローマで初演した「Scream and Whisper」では、共演のヴァスラフ・クーニェスとともに仏・伊ダンス雑誌「Ballet 2000」の2005年度年間最優秀ダンサー賞を受賞。「消息」で、2007年度日本ダンスフォーラム賞受賞。「春の祭典」(バイエルン国立歌劇場バレエ団)「Para-Dice」、「VACANT」(ジュネーブ・バレエ)、「Modulation」(NDTⅠ)、「AIR」(パリ・オペラ座バレエ団)ではダンス・ミストレスを務めた。また、勅使川原氏の英国での教育プロジェクトS.T.E.P.(Saburo Teshigawara Education Project)、ニューカッスルでのKARASサマー・セミナー他でワークショップを行うなど青少年のダンス教育にも積極的に取り組んでいる。


she1

佐東利穂子「SHE」
11月20日(金)~29日(日)

ダンス:佐東利穂子
ディレクション:勅使川原三郎
会場:川崎市アートセンター[地図を表示]
料金:前売り4,000円 当日4,500円

※その他詳細は「KARAS」公式サイトから


レビュー(0)


コメント(0)