骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2009-11-13 18:00


伊丹十三の申し子!?2010年代をリードする期待の新人監督・岡太地インタビュー

11/15に岡太地初の35mm監督作品『屋根の上の赤い女』のDVD発売記念イベントが開催される。
伊丹十三の申し子!?2010年代をリードする期待の新人監督・岡太地インタビュー
映画『屋根の上の赤い女』監督の岡太地

1990年代末に熊切和嘉、山下敦弘を輩出して一躍映画界の注目を集めた大阪芸術大学が、ゼロ年代から2010年代に移り変わろうとする今、再び台風の目となりつつある。来年には『川の底からこんにちは』『君と歩こう』と相次いで劇場用作品が公開される石井裕也、石井作品の常連俳優にして監督もこなす前野朋哉、『chain』でPFFアワード2009審査員特別賞を受賞した加治屋彰人、『プライスタグ』の友野祐介など大阪芸大卒の数々のユニークな才能が台頭する中、その一人、2010年代をリードするであろう期待の新人監督・岡太地にインタビュー。

芸術的な空気に対する漠然とした反抗心

そもそも彼が大阪芸術大学へ入学したのはちょっとした成り行きからだそうだ。建築家の父親と、ピアノ教師の母親を持つ岡は、家庭内の芸術的な空気に対する漠然とした反抗心から高校時代は芸術系以外の進路を目指していたという。

「ちゃんと大学受験をしようと思って普通に勉強してたのですが、一番行きたいところに受からなかったんですよ。浪人でもしようかなと思ってボケーっとしてるところに親父がやってきて、大阪芸大のパンフレットをすっと置いて『ここ、どうや?』と。その時にちょっと心が揺れ動いてしまったんですよね。それがきっかけで。その時にたまたま気が向いたのが映画で、向くと決めたら、しょうがねえ、やるしかないと思って。それからは一直線ですね」

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映画『放流人間』より

岡を待っていた学科内のある特殊な空気

大阪芸大の映像学科に入学し、カメラを回し始めた岡を待っていたのは、学科内のある特殊な空気だった。

「画面作りに関して、かっこいいヒキを撮らなきゃダメだという風に何となく押し付けのムードがあるんですよ。『映画はテレビドラマとは違い、でかい画面なわけだから、情報量がいっぱい入るのである』と。人物はちゃんと見えるし、表情も見えるわけだから、なるべくひいた美しい画作りをしなきゃダメだ、みたいな押しつけがあって。何かね、最初はそれがしっくりこなかったんですよ。そうして皆きれいなだけの映像をたくさん撮るようになっているのを周りで見かけたんです。あれは北野武の影響だったんですかね。だから本当にそのヒキの美学を完全に分かっているわけでもないかもしれないのに、ひたすらヒキに心酔している人たちを見て、それに対する反発意識というのはすごいでかかったですね」

とは言うものの、そんな岡の中にも明確に自分のスタイルがあるわけではなかった。

「大学に入ってから自分がどんな映画を撮ったらいいのかっていうのが全然分からなかった時期があって。他の皆はかっこいい映画、例えばモデルガン持ってきて、ジョン・ウーの真似をして撮ったり、おしゃれな感じのポップな映画を作ってみたりとか、あとは北野武の真似をしたような、主人公が全然しゃべらないやつを撮ったりとか。僕はそこら辺の映画をあまり観ていなくて。観ていた映画は、洋画が多かったんです。日本映画はあんまり観ていなくて。洋画の内容を日本人にやらせるとすごく恥ずかしいということが、大学2年生くらいの時に初めて分かったんですよ。それまでにフランス映画などはある程度観ていたので、それっぽいことをやってみたら面白いんじゃないだろうかと思って。脚本を書いて、実際に友達にやらせてみたら、カメラのこっち側にいてもすごく恥ずかしいと。つらいと。で、『やばい。俺はもうダメだ』と」

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映画『屋根の上の赤い女』より

影響を与えることになる作品との出合い

この時、後に岡の作品作りに多大な影響を与えることになる作品との出合いがあった。

「卒業制作を長編で撮ると決めちゃったもんで、やるしか無いんですよね。どんなのを撮ったら恥ずかしくないんだろうと思って、日本映画で何か指針になるような、これはいいぞ、恥ずかしくないぞって思えるような、心の師匠みたいな映画が何か無いかと思って悩んでたんです。そんな時にふと思い出したのが小さい時に見た『あげまん』だったんです。小学校の時かな。『あげまん』のビデオ、なぜか親父が録画していたのがあって、それを何回か観ているとえらく面白くなってくるという。なぜかはよく分からないけど。人間の生々しさが一番よく映ってた感じがする。それから、おっさんを愉快に撮ってる映像っていうのが、あんまり他に無かった。映画を観てても、皆おっさん達がかっこつけてたんですね。でも『あげまん』に出てくるおっさんたちは面白いぞと。愉快だぞと。そこになにか引っ掛かるものがあって、他とは違うなと思ってて。でもそれはずっと強く思ってたわけじゃなくて記憶の中にしまわれていたんですけど」

ふいに記憶の底から蘇ってきた一本の映画を求めて、岡はレンタルビデオ屋へ走った。

「気になってビデオ屋に行って、観てみると面白いんですよね。やり方の一つひとつがかっこいいなと思えてきて。人の顔面をバーンと撮るやり方にしても、それ以外のやり方が全部かっこつけたやり方に見えちゃう。伊丹十三を見ると、他のテレビドラマや、映画など、他の人のやり方が全部かっこつけたダサいものに見えてしまうように思えて。で、伊丹十三すごいぞって思えてきて、全作品見返して、発見があった感じなんです」

こうして伊丹十三のスタイルにヒントを得た岡は卒業制作作品として『トロイの欲情』を完成させた。全編ほぼアップと俯瞰(ふかん)ショットのみという特異なスタイルで撮影されたこの作品が、ぴあフィルムフェスティバル2005において準グランプリ&音楽賞&技術賞の3部門を獲得したことにより、岡はインディーズ映画界で俄然注目を集めることとなる。

もっとも、その後の作品は少なくとも映像面においてはそれほど強烈に伊丹十三の影響を感じさせることはなく、岡太地独特の文体を獲得しつつあるように思われるが、鬼才と言われ一作ごとに映画界のみならず広く一般に話題を呼んだ伊丹十三の影響が、今後、岡の作品にどのように反映されていくのかも楽しみである。

(インタビュー・文:上原拓治 構成:世木亜矢子)
屋根の上の赤い女ジャケット
DVD『屋根の上の赤い女』ジャケット

■岡太地 プロフィール

1980年京都府生まれ。大阪芸術大学映像学科へ進学。卒業制作で、初めての16mmフィルム長編映画『トロイの欲情』(04)を監督。ぴあフィルムフェスティバル2005で準グランプリを受賞。クローズアップと俯瞰のみの特異な構成と内容から、賛否両論を呼ぶ。本作の映像世界に惹き込まれた人々からは、高い評価を得ている。その後、大阪市映像文化振興事業CO2からの支援を受け、『放流人間』(06)を製作。同時期に、文化庁支援による「若手映画作家育成プロジェクト」の作家に選ばれ、『屋根の上の赤い女』(07)を監督。初の35mmフィルム作品となる。


DVD『屋根の上の赤い女』発売記念
岡太地監督と主演女優・神農幸のトークショウ

2009年11月15日(日)14:30開場/15:00開演

ゲスト:岡太地監督、神農幸
会場:アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇多川町37-18トツネビル1F)[地図を表示]
料金:¥1,000

アップリンク・ニュー・ディレクターズ・シリーズ公式HP

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