骰子の眼

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2009-11-01 23:00


『マンガ漂流者(ドリフター)』第25回:マンガソムリエ編vol.3

2009年に面白かったマンガ、そこから過去の作品へとリンクすることで、興味の幅を広げます!どのマンガを読もうかな?そんな迷えるマンガファンたちをナビゲートします。
『マンガ漂流者(ドリフター)』第25回:マンガソムリエ編vol.3
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川口まどか『死と彼女とぼく めぐる』(講談社)1巻より

今回は連載第1回に紹介した川口まどかの『死と彼女とぼく』の新シリーズをフィーチャーします。

■まさかの“真章”開幕!! 少女マンガ界の『ジョジョ』!?

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2009年、「Kiss +(プラス)」3月号からは、新章『死と彼女とぼく めぐる』がスタート。主人公は、優作の母・杏子。物語は彼女を死に追いやった黒い死者との戦いがメインになりそうだ。ある意味、少女ホラーマンガ界の『ジョジョの奇妙な冒険』ともいえる作品。

【関連リンク】

http://www.webdice.jp/dice/detail/1526/
http://www.webdice.jp/dice/detail/1532/

川口まどか『死と彼女とぼく めぐる』(講談社)1巻

第1回でこんな風に説明していた『死と彼女とぼく めぐる』だが、9月に1巻が発売された。まさかの「バトルもの」と大幅な路線変更に戸惑いつつも、これまで『死と彼女とぼく』シリーズで明らかにされなかった部分を描き出そうとする意欲をびんびんに感じることができた。

この「明らかにされなかった部分」とは何か?それは「正しく生きている者が何故、事故や病気で死んでしまうのか」という問題である。悲しい運命である。寿命である。不運である。そう思い込もうとしても正しく、誰からも好かれるような人間の命が唐突に奪われることを生きる者が納得できるだろうか?『めぐる』では、その不幸に対して、一つの答えを出そうとしている。

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“伝説の女”が信じる道徳観。川口まどか『死と彼女とぼく めぐる』(講談社)1巻より

■自分や他人を殺した人は天国に行けないの?

自殺者や殺人者は石ころのように固くなってやがてどろどろに溶けていく——。誰かを殺した死者は救いようがない姿で描かれてきた。しかし、前章の『死と彼女とぼく ゆかり』シリーズ最終巻にあたる10巻の「あなたとともに」では、自殺した死者も天国に行けるという事実が明かされる。

自殺してはいけない。当たり前のように説かれる言葉だ。自殺は自業自得。自らを殺す許されざる行為。しかし、そんなふうに簡単に切り捨ててしまえるだろうか?どうせ関わっても救うことができないと分かっている死者と関わるかどうか悩む、ゆかりと優作がいた。今まで一つもいい結果がでなかったのに、ゆかりは「ただ自分が納得したいだけなのかもしれないけど……」と前置きして、もう一度、その死者に関わる。その死者は恋人と無理心中していた。無理心中に付き合わされた彼は、その行き場のない怒りを自分を殺した相手には直接、向けず、生きている者を困らせることで憂さ晴らしをしていた。彼は生きている間、本心を一度も相手に明かさず、良い顔をし続けて、逃げてきた人だった。そのことが彼女を苦しめ、無理心中に至ったのだと、ゆかりと優作は知ってしまう。

ここで、また、自業自得。という言葉が浮かぶ。救いようのない負の連鎖に入った悲しい人。誰も救うことができず見捨てられるだけの存在。生きている間に生きている人間に向かい合わなかったツケ。そんなふうに切り捨ててしまえばそれで済むのだ。ゆかりと優作も一度は関わったものの「あなたにはすごい魔法使いが 現れるのを待ってるのね 残念だけど それはわたしじゃ ないわ」と諦めて去ってしまう。けれど二人はまだ納得できない。そんな救いようのない死者でも一時でも話を聞いてあげるだけで、痛みが紛れることも知っている。悩む二人の前に現れたのは天女のような自殺した死者だった。彼女は“伝説の女”と呼ばれる死者によって救われたのだという。その“伝説の女”とは?どうすれば救われない者を救うことができる?物語は新章へと誘われる。

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人はどこまで相手を救えばいいのだろうか?川口まどか『死と彼女とぼく ゆかり』(講談社)10巻より

■「この事故で亡くなられる方々は みな善人です 必ず天国に逝くのです」

「救われない死者を救う」なんて、神様でもあるまいし、なんだかとってもアヤシイ。『めぐる』の中で“伝説の女”杏子の敵として現れるのが、死者たちに崇拝されている※※様である。※※は信望する人にとって信じられる名前、ウエ様、ヨロコビ様、バンザイ様、ヒトコ様……などと呼ばれている。※※様はすべての死者を救うという。その方法は「天国行きが決まっている善人を死者が殺すことで死者を助ける」というものだ。生きている者にその場所が危険だと知らせるために善人を犠牲にするのである。善人が死ねばそれだけ多くの生きている者が嘆き悲しむ。その場所が危険だということを愚かな人々はやっと気づくだろう、という考えである。少数の犠牲で多くを助けるために。どうせ天国に行くことが決まっている幸せな人間なら犠牲にしても構わない、という考えである。

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弱者の理論を振りかざすとき、大惨事が起こる。川口まどか『死と彼女とぼく めぐる』(講談社)1巻より

排除された弱者の戦い方。それを強く美しい“伝説の女”が阻止することはできるのか?それは傲慢ではないのか。所詮、あなたは目の前の少数、周りの人間だけが幸せになればいいとしか思っていないのではないのか?さまざまな、さまざまな想いが交錯する。いろいろな立場の、相反する意見。誰もが誰かを想っているだけなのに、ここまでこじれ、答えなんて見つけ出せないのではないか、という深遠なる問い。『めぐる』が問おうとしているのはそんな難しい問題だ。

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強くて美しいから理解できない?弱くて醜いから理解できない?想像力、相手の声を聞く努力こそが必要なのではないのか?川口まどか『死と彼女とぼく めぐる』(講談社)1巻より

しかし、私たちは知っている。これまでの『死と彼女とぼく』で。ささやかながらにも幸せに天国へ行った救われた死者たちを。それでも、どうやってこの強大な「敵」ーーーいや、この「問い」に作者がどんな答えを出すのか、また、出さないならどう結末が語られるのだろうか。私たちはただ、祈るしかないのである。あまりにもその問いは大きすぎる。

これから先はまるで予想がつかない。作者が何を考え、何を語ろうとしているのか。これまでの『死と彼女とぼく』では、物語自体はマンネリズムともいえる構造であった。だからこそ、さまざまな「救い」のかたちをドラマチックに描けた。だが、『めぐる』ではその物語そのものが胎動しはじめているのが分かる。こんなにもスリリングな展開はあるのだろうか。88年から続くシリーズでまさかの新展開。だからこそ、この読者への心地よい裏切り、期待せずにはいられない。

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こんなに傷つき、すべてを賭してまで「恵まれた者」は、愚かな人を善良な人を救わなくてはならないのだろうか。 川口まどか『死と彼女とぼく めぐる』(講談社)1巻より

■このマンガが面白かった人にはこんなマンガもおすすめ!

今回とりあげたマンガを読んだ人に何処か似た印象を持つマンガをおすすめ!また、おすすめマンガをすでに読んでいる人は今回とりあげたマンガを読むきっかけに。最後の背を押します。相互にリンクして、無限のマンガ世界へ飛び出していこう!手にとってもらわなければ意味がないので、ここではなるべく手に入りやすい本をおすすめしています。なお、第2回のリンク編でもとりあげているのでそちらも参照してください。


すべての人間にーーー!!!不幸をーーー!!!

川口まどか『死と彼女とぼく ゆかり』

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まったくまだ『死と彼女とぼく』シリーズを読んだことがなければ『めぐる』→『ゆかり』→『無印』と元祖帰りしていくといい。大きな流れはあるのだが基本的に1話完結型なので何処から読んでも読めることは読める。何せ88年から続いているだけあって、最新刊あわせて21巻も出ているのだ!これを全部読もうと思うとお金と時間がかかるかもしれない。でも、読み始めるとあっという間だ。それに何かにつけて人との距離のとり方や人生に迷ったりしたときに読むと気持ちが楽になるだろう。そして、「あー人には優しくしとかないと地獄に落ちるねー自殺とかしたらダメだよねー」と思って、忘れて、また読む!というコストパフォーマンスの良さ。人間の煩悩の数だけ読み返せるのだ。ある意味お得である。

川口まどか『死と彼女とぼく ゆかり』(講談社)全10巻

才能は個人の所有物じゃないわ 適所で的確に使われるべき宇宙の宝なの

水上悟志『サイコスタッフ』

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主人公・柊光一はどこにでもいる平凡な受験生。しかし、彼は50億人に一人という超能力を持っていたのだ!そんな彼の能力を知った宇宙人・桜木梅子は、宇宙戦争の特別防衛行員(サイコスタッフ)として、勧誘しようとするのだが……。

水上悟志『サイコスタッフ』(芳文社)全1巻

能力を持っている人間の話である。能力を持っているならすべての人間はその能力を使わなくてはならない。ならば能力(才能と置き換えても良い)を持っている人は何も考えずにその力を利用するしか道はないのだろうか? 柊光一は普通を尊び、努力の末に手に入れた能力こそが大切だと両親から学んできた「正しい少年」であった。持たざる者からすれば能力を発揮しない能力者など豚に真珠。自分が努力しても得られない力を持っているのに力を行使しないなんて「もったいない」と思ってしまう。さて、願って得たわけではない能力、どう行使するのが「正しい」のかだろうか。『死と彼女とぼく』では、「私たちのできる範囲でできるだけ能力を使う」という選択をしていたが、『サイコスタッフ』ではどう描かれているのか。その点に注目して読み比べてみるのも面白い。同じ作者の『惑星のさみだれ』が好きな人は必読だが、まだ『さみだれ』を読むのに躊躇している人にもおすすめ。

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この結末から『惑星のさみだれ』はどうなるのか予測してみるのも楽しい。水上悟志『サイコスタッフ』より。

おまえ… いったい 何者 なんだ?

高橋留美子『境界のRINNE』

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『犬夜叉』が完結後の高橋留美子の最新作は、霊感少女と死神(?)少年の死と幽霊にまつわるドタバタ・コメディ。2巻では心の狭い悪魔も参戦し、ますます快調。『死と彼女とぼく』シリーズにはない明るさでサクサク読めるが、生死観、幽霊描写など共通する部分も多いかも多くないかも。こんな明るい幽霊ばかりなら異能力も悪くはない。そんな風に楽しめてしまう。現在、「週刊少年サンデー」(小学館)にて連載中。

高橋留美子『境界のRINNE』(小学館)1〜2巻以下続刊

分析された「無意識」は単なる「意識」でしかない

山岸凉子『甕のぞきの色』

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この連載では定期的にとりあげている山岸凉子。彼女の短編は、元素記号のようにシンプルな物語のパターンだからだ。前回、戦災孤児の少女と人の心や未来、遠くの出来事を知ることができる千里眼を持った白眼子との数奇な運命を描いた『白眼子』を紹介したが今回は『甕のぞきの色』をチョイス。癌に侵された主人公が病を治す不思議な水を提供する泉深館に救いを求める話だ。『白眼子』も、信仰とは何か、人が不思議な力を信じてしまうというのは何かを明らかにしている。『めぐる』で、※※様を信じるしかない、切羽詰った状況にある死者と宗教を盲信してしまう人たちの姿は似ている。「信じる」ことと「依存」の違いはとは何だろう? 手がかりはここにあるのかも知れない。

山岸凉子『甕のぞきの色』(秋田文庫)全1巻

★vol.1はコチラから
http://www.webdice.jp/dice/detail/1992/
★vol.2はコチラから
http://www.webdice.jp/dice/detail/2030/


■ここでお知らせ!「マンガ漂流者(ドリフター)」が授業になった!
第4回「描く快楽~このマンガ家のこの描き方~」 11/30(月)20:00~@渋谷ブレインズ

■授業内容

詳細はこちら。

聞こう!学ぼう!「マンガ漂流者(ドリフター)」。
物語、構成、そして、作画。
第4回の講義はマンガに大切な要素である「作画」がテーマです。

これまでの流行を一変させ多くの作家に影響を与えた作画、絵がうまい作家の特徴(描くことでおろそかになるセリフなど)、大島弓子の絵が与えた影響、大友克洋ショックから高野文子までニューウェーブマンガの特徴、講談社系青年誌マンガの絵の特徴、90年代の女性マンガから発達した女性のくちびる表現、特徴的なトーンの貼り方、アニメからの影響、絵を描く快楽に憑かれている森薫、入江亜紀など「コミックビーム」「フェローズ!」で活躍する作家たち、みんな大好き中村珍先生の作画への情熱!など、主にニューウェーブ以降の作画のトレンドを追いつつ、さらにマンガ家が絵を描く快楽とは何なのかを探っていきます!さらに今回はテーマが作画なので資料を多めに用意!マンガに限らず「絵」に興味がある人も集まれ~!

さらに今回はゲストとして、小学館「ヤングサンデー」の編集を務めたのち、河出書房「九龍」、ポプラ社「ピアニッシモ」にて編集長を務めた島田一志さんをお迎えします。担当だった五十嵐大介、西島大介、多田由美、鈴木志保、古屋兎丸の話はもちろん、上條淳士、浅田弘幸、小畑健など巧すぎる絵のマンガ家たちへの熱き想いを聞け!

■おまけ

懇親会ではマンガにまつわる酒がふるまわれます!
気になる人は早めに予約を!読者のみなさんと授業で会えることを楽しみにしています。

■ご予約はこちらから!

webDICEでの連載では、作家をメインにしていますが、授業では「マンガ」とは何か?そのものを問い、全体を俯瞰し、さらに気になる部分を掘り下げ、現状の確認、そしてこれからについて考えていきます。連載では一部の引用しか見ることができませんが、授業には資料をいろいろ持参していきますので、原典を手にとってもらえることもメリットでしょうか。もちろん授業や連載の内容で分からなかったこと気になることがあった人も安心!毎回、懇親会(※ 料金含む)にて、それぞれの個人的な疑問、質問にお答えしています。もちろん差し入れも大歓迎!マンガ好き集まれ~!

(文:吉田アミ)



吉田アミPROFILE

音楽・文筆・前衛家。1990年頃より音楽活動を開始。2003年にセルフプロデュースのよるソロアルバム「虎鶫」をリリース。同年、アルスエレクトロニカデジタル・ミュージック部門「astrotwin+cosmos」で2003年度、グランプリにあたるゴールデンニカを受賞。文筆家としても活躍し、カルチャー誌や文芸誌を中心に小説、レビューや論考を発表している。著書に自身の体験をつづったノンフィクション作品「サマースプリング」(太田出版)がある。2009年4月にアーストワイルより、中村としまると共作したCDアルバム「蕎麦と薔薇」をリリース。6月に講談社BOXより小説「雪ちゃんの言うことは絶対。」が発売される予定。また、「このマンガを読め!」(フリースタイル)、「まんたんウェブ」(毎日新聞)、「ユリイカ」(青土社)、「野性時代」(角川書店)、「週刊ビジスタニュース」(ソフトバンク クリエイティブ)などにマンガ批評、コラムを発表するほか、ロクニシコージ「こぐまレンサ」(講談社BOX)の復刻に携わり、解説も担当している。6月に講談社BOXより小説「雪ちゃんの言うことは絶対。」が発売された。8月24日より、佐々木敦の主宰する私塾「ブレインズ」にて、マンガをテーマに講師を務める。
ブログ「日日ノ日キ」

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