(C)MONKEY TOWN PRODUCTIONS
小林政広監督の現代社会を捉える鋭利な眼差しは、『バッシング』(2005年)『愛の予感』(2007年)に続く今作において、頂点に達しているようだ。『ワカラナイ』は小林監督の得意とする、ギリギリまで削られた台詞、移動し続けるカメラ、スクリーンから湿度さえ伝わってくるような色彩感により、17歳の少年・亮に訪れた悲劇を淡々と追いかけている。 実際、今作においてカメラは、どこまでも歩き続ける亮の後ろを執拗なまでに追いかけていく。コンビニの袋を下げて、電気の止められた家へ戻る背中。病院から母親を担ぎ出し、湖までの道を歩いていく背中。そして別れた父のもとへようやくたどり着いた際に知る現実に打たれ、坂道をとぼとぼと降りる背中。子供と大人の境目にあたる成長の途中のいびつさを伝える背後からでも悲しみが伝わってくるような亮を演じるのは小林優斗。これが初主演作とは思えない演技を見せている。
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今作の唯一の音楽となる楽曲、いとうたかおによる「BOY」は、今作の世界観を象徴している。シンプルだけれど凛としたアコースティック・ギターの響き、そして五里霧中のその先へ進む少年の背中を後押しするような歌詞。『ワカラナイ』はオープニングそしてエンディングに流れるこの曲以外は、我々の暮らしのなかにある音がバックグラウンドに流れる。うっそうと茂る森に響き渡る鳥の声、コンビニの前の国道を走る車のノイズ、無数に光るネオンサインと行き交う人々が織りなす東京の街の喧噪。そうした生活の音は、まるで主人公・亮の心情と運命を伝えるかのように現れては消えていく。 極めて詩的な美しさを持つ映像と、まるで観客がひとりで取り残されてしまったような感覚を与えるサウンド、そして若者の貧困と周囲との関係の薄さが有むのっぴきならない状況を極めたストーリー。そうしたものが収斂したラストシーンが訪れるとき、観客は小林監督からの切実なメッセージを受け取ることになる。
[文:駒井憲嗣]
【関連リンク】
小林政広監督 webDICEインタビュー「観た人を揺さぶりたい」(2009.9.30)
映画『ワカラナイ』
11月14日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、11月28日(土)より新宿バルト9にてロードショー
監督・脚本:小林政広
プロデューサー:小林政広
製作:モンキータウンプロダクション
出演:小林優斗 柄本時生 田中隆三 渡辺真起子 江口千夏 宮田早苗 角替和枝 清田正浩 小澤征悦 小林政広 横山めぐみ ベンガル
配給:ティジョイ
宣伝:アップリンク
2008年/日本/104分
公式サイト