骰子の眼

music

東京都 中野区

2009-10-29 11:00


「森全体を大きな楽器にしたかった」―糸電話を楽器にした「ストリングラフィ」考案者・水嶋一江インタビュー

糸と紙コップでオリジナル弦楽器を考案、11月7日(土)に東京公演を行う「ストリングラフィ・アンサンブル」代表の水嶋一江さんに話を聞いた。
「森全体を大きな楽器にしたかった」―糸電話を楽器にした「ストリングラフィ」考案者・水嶋一江インタビュー
撮影:田村 収

山形県の森の中で生まれた楽器「ストリングラフィ」。縦横無尽に張り巡らされた絹糸と、宙に浮いているように見える紙コップで、想像を遥かに超えた音楽が紡ぎだされる。そんな楽器を使って、5名のフルメンバーでパフォーマンスを行う「ストリングラフィ・アンサンブル」が2009年11月になかのZEROで一日限りの公演を行う。考案者で、アンサンブルの代表でもある水嶋一江さんにインタビューをした。

「ストリングス」+「グラフィック」=「ストリングラフィ」

──まずは「ストリングラフィ」という楽器について教えて下さい

糸を無数に張って、その糸に紙コップをつけ、糸を指でこすって音を出す楽器です。名前は、「ストリングス」と「グラフィック」を合わせて付けました。視覚的なインパクトが強い弦楽器なので、インスタレーション的なアイデアを仄めかしたくて「ストリング」の最後に「グラフィ」を付けました。横に張る糸は一本一本ドレミ~の音階に調律してあり、縦に張る糸は小鳥の声など効果音として使います。1992年に山形県の森で行われたフェスティバルに参加したのですが、そのときに木と木の間に糸を張り巡らせてみたんです。森全体を大きな楽器にしたくて。最初はランダムでしたが、それから音階を合わせるようになって。

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撮影:コスガデスガ

──確かに視覚的なインパクトが強いです。糸と紙コップは特別なものですか?

いえ、糸は普通の絹糸です。紙コップも。スタジオではいつも張ってありますが、舞台での設営は、支柱を立てて糸を張って……2~3時間かかりますね。家では練習できないので、メンバーは皆スタジオの近くに住むようにしているんです。それと、この糸と紙が非常に湿度の影響を受けやすい。台風のときなどはたいへんです。それと張ってすぐに弾くと音程が狂うので、空気になじませるために2時間ほどおいています。

──アンサンブルを作ったきっかけは?

少しずつテレビで紹介されるようになり、そのときに曲が弾けた方がいいな、と。それまでメロディを弾くことは考えていなかったのですが。どうせ弾くならアンサンブルみたいに3人とか4人で弾いた方が広がるなと思い、固定のアンサンブルを作ることにしたんです。それが1996年で、メンバーは現在5人です。

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撮影:田村 収

──どのようなところで演奏しているのですか?

当初は演奏というよりインスタレーションとして、国内外の美術館のホワイエなどでパフォーマンスを行っていました。展示してある彫刻とコラボしたり。今では「糸電話」とファミリー向けにも演奏しますし、老人福祉施設で音楽療法の一環として取り入れられることも。北海道から沖縄まで、日本各地から声がかかります。そして11月になかのZEROでの公演を控えています。なかなか東京でもここまで大きな舞台で演奏することがないので楽しみ。モーツァルトなどクラシックの定番や「晩秋」というオリジナル曲を披露します。

ノイズを宇川さんが気に入って

──宇川直宏さんと作品を作られたと聞きました

そうなんです!私達の演奏動画をYouTubeで見て、声をかけてくださって。デリック・メイの「ストリングス・オブ・ライフ」を弾いてほしいという依頼だったんです。もう、私達のためのような曲(笑)。もちろん快諾し、一日掛けて撮影しました。宇川さんは、泉のようにアイデアが湧いてきて、いろいろと試すことが出来、面白い経験でした。被り物をして演奏したり。曲にもちろんあっているし、映像がとにかくかっこいい!

「ストリングラフィ」という楽器は、それだけでこすっても音が出ないんです。松脂を塗るんですよ。そのときに「ギーッ」という耳障りな音がするのですが、なんと宇川さんがその音を気に入って。絶対アレをいれたい!と言ったんです。普通だとノイズなんですが(笑)。スペシャルな感性の持ち主だと思いました。結局その「ギーッ」のところに、糸が燃えるような映像がついています。素晴らしいものに仕上がりました。

※そのときの映像はこちら

ディジュリデュやテルミン、般若心経とコラボレート

Picnik コラージュ
撮影:コスガデスガ

──舞台上で踊りながら演奏するなど、パフォーマンス的な要素が強い楽器ですよね

そうですね。海外のフェスティバルなどでは、パフォーミング・アーツとして捉えられることも多いです。シナリオでいう言葉の部分がドレミ~の音符。動きに関しては、「ト書」きのようにコアになるイメージを楽譜に書き込んでいますが、最終的にどう表現するかは、練習の中でメンバーと一緒に創っていきます。

──他の楽器と共演することもあるのですか?

ありますね。これまで、パーカッションや、ディジュリデゥ、テルミンなどと共演しました。気に入っているのは、声明(しょうみょう)。京都のフェスティバルで、般若心経の言葉のリズムをテーマにしたオリジナル曲を演奏しました。クライマックスにお坊さんが木魚を叩き、お経を読みながら参加するというのをやったんです。低い豊かな声とぴったりで。またやりたいですね。それと、ボイスパフォーマンスや朗読とは相性が良いですね。平常(たいら・じょう)さんというパペッティア(=人形使い)との共演も面白かった。

──これから、どんなことに挑戦してみたいですか?

照明に凝りたいですね。以前フランス公演のときに、奥行きを出すのが上手な照明さんでその方法がとても参考になりました。そのときみたいな細やかな照明とコラボレートしたいですね。ドラマティックになると思う。

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撮影:コスガデスガ
(インタビュー・文・構成:世木亜矢子 撮影:コスガデスガ)

■水嶋一江 プロフィール

1964年東京生まれ。桐朋学園大学作曲科卒業。89年コンピュータ音楽を学ぶために渡米し、カリフォルニア大学作曲科修士課程修了。帰国後、数多くのアコースティックな実験的現代音楽の作品を発表。92年にオリジナル楽器「ストリングラフィ」を考案、八重樫みどりと共に「スタジオ・イヴ」を結成。以来、「ストリングラフィ」を軸とした舞台作品を制作していたが、96年から「ストリングラフィ・アンサンブル」を結成、複数の奏者による演奏活動を行う。

「スタジオ・イヴ」公式サイト


ストリングラフィ・アンサンブル「絹糸が奏でる魅惑の世界」
11月7日(土)18:00開演

出演:水嶋一江、篠原元子、KIKU、鈴木モモ、斎藤卓侑
会場:なかのZERO小ホール
料金:2,000円

※その他詳細は「なかのZERO」公式サイトから


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