マイケル・ジャクソンの最後のコンサートを映画化した『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』が10月28日(水)より丸の内ピカデリーほかにて期間限定公開される。web DICE編集部は28日19時からの世界同時公開に先立ち、13時より丸の内ピカデリーにて開催された先行試写会に参加した。
今年の夏、ロンドンのO2アリーナで開催されるはずだったコンサート “THIS IS IT”。 本作は2009年4月から6月までの時間の流れを追いつつ、100時間以上にも及ぶリハーサルと舞台裏の貴重な映像から構成されている。幻となったロンドン公演の監督を務めていたケニー・オルテガが映画も監督を担当している。
今作から浮かび上がってくるのは、限りなくファンのために尽くした、ひとりの孤独なアーティストの姿だ。バンドのミュージシャンに「月光に浸る感じで」という表現でサウンドを要求するシーンなど、自身の沸き上がってくる想像力をどう伝えたらいいのかというもどかしさが痛いほど伝わってくる。そして何度か「アイ・ガッタ・キュー」(僕がキューを出すよ)と語る一幕があるが、巨大な遊園地のようなエンターテインメントの空間をコントロールしようとするストイックな表情が心に残る。
しかし『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』は、彼が決して孤高のカリスマではなく、優しく、ユーモアと思いやりのあるひとりの人間であることもまた伝えている。冒頭、このツアーに参加できることを涙ながらに感謝する若いダンサーたちの姿には、リハーサル、そして舞台裏という限定された空間により生まれたこのツアーのクルーに生まれた親密さを感じることができる。
そしてもちろん圧倒されるのが、ジャクソン5時代も含む、ベストヒット集と言っても過言ではない名曲の数々。しかもあくまでリハーサルの映像であることが解っていることにもかかわらず、そのどれもが極めて完成度が高くそしてエキサイティングであることだ。マイケル自身がバンドのメンバーに、できるだけ原曲に近いアレンジでプレイすることを指示する場面では、決していたずらに作家性を発揮するのではなく、オーディエンスそれぞれが持つその曲への思いをトレースしたうえで、そこに冒険的な要素を加えていっていることが解る。「ヒューマン・ネイチャー」をアカペラで歌い上げるシーンなどに象徴されるように、それぞれの楽曲に対するリスナーの思いを具体化することができることこそ、彼がキング・オブ・ポップの称号を与えられたゆえんなのだということを再確認できるのだ。観終わったあと、私たちはそれぞれのイマジネーションの中で、このマイケル・ジャクソンのコンサートを完成させることができることだろう。
(文:駒井憲嗣)
映画『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』
2009年10月28日(水)より丸の内ピカデリーほか全世界同時公開
監督:ケニー・オルテガ
振り付け:トラビス・ペイン
音楽監督:マイケル・ビアーデン
プロデューサー:ランディ・フィリップス
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト