骰子の眼

cinema

東京都 新宿区

2009-11-26 00:05


実写のドキュメンタリーよりも精神性を剥きだしにするアニメーションの効果─『戦場でワルツを』クロスレビュー

逞しきB級映画精神が、観客の安易な共感をかわし普遍的な力を与えている。
実写のドキュメンタリーよりも精神性を剥きだしにするアニメーションの効果─『戦場でワルツを』クロスレビュー
(C) 2008 Bridgit Folman Film Gang, Les Films D'ici, Razor Film Produktion, Arte France and Noga Communications-Channel 8. All rights reserved

既に米国アカデミー賞外国語映画賞へのノミネーションや、アニメーションとドキュメンタリーを融合させるという手法で話題を集めている今作。1982年のイスラエル軍のレバノン侵攻を、監督自身が従軍していた体験をベースに、イスラエルの側から、主人公アリの主観的な物語として描いている。アリが夜ごと悩まされる悪夢の正体を追っていくというミステリアスな物語運びは、観客を主人公のイマジネーションのなかに巧みにひきこんでいく。さらに、かつての仲間たちの証言をインタビュー取材し続けるというドキュメンタリーの語り口と、めくるめくヴィジョンを描き出す幻想的なアニメーションが合わさることで、鮮烈な映像体験を有むことに成功している。

来日時の記者会見でフォルマン監督は、ヨーロッパではこの映画がイスラエル側の視点でしか描かれていない事に対する批判があった事を述べ、それに監督は「自分はイスラエルに住むイスラエル人で。実際イスラエル軍に従軍した経験を持っているので、それ以外の視点で描く事はできなかった。私は今のイスラエル政府の政策はどんどん排他的になっている事に憂いを覚え、イスラエル・パレスチナ問題に関して発言する機会があれば、平和を望む対場であることを避けていない。ただ、私は私の立場でこの映画を製作したので、パレスチナ側からの視点で映画が作られる事を望みます」と語っていた。

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(C) 2008 Bridgit Folman Film Gang, Les Films D'ici, Razor Film Produktion, Arte France and Noga Communications-Channel 8. All rights reserved

スタジオで撮影された実写から書き起こし仕上げていくという骨太なタッチの線の力と、サイケデリックとさえ言える色彩感覚は、フラッシュバックするアリの頭の中を写し出す。そして個性豊かな戦友たちが語るそれぞれの体験はその場の匂いさえ喚起させるようであり、彼らの境遇の違いゆえに戦地の様相がまざまざと浮き彫りになってくる。ラストに訪れる言いようのない衝撃に至るまで、監督の個人的な記憶を呼び覚ます作業から発展した内省を通底音としながらも、映像の力を信じる監督のメッセージを強く感じることができる作品となっている。


【関連記事】
「リサーチの90%をカットしたのはパーソナルな内容にしたかったから」─『戦場でワルツを』アリ・フォルマン監督インタビュー(2009.11.28)


映画『戦場でワルツを』

2009年11月28日(土)シネスイッチ銀座にて公開
監督・脚本・製作:アリ・フォルマン
提供:博報堂DYメディアパートナーズ、ツイン、ショウゲート
配給:ツイン、博報堂DYメディアパートナーズ
2008年/イスラエル映画/カラー/90分
公式サイト

レビュー(5)


  • kusukusu2812さんのレビュー   2009-10-16 15:42

    『戦場でワルツを』 多くの人に観て欲しい映画

    元兵士であるアリ・フォルマン監督が、自身の経験を基に製作した 自伝的なドキュメンタリー・アニメーションです。 監督は「失われた記憶を表現するには、実写よりアニメが適していた」と 去年のカンヌ映画祭で語っておりました。 そして今年の...  続きを読む

  • とんとんさんのレビュー   2009-10-17 01:27

    「戦場のワルツ」を見て、アニメに感激、ラストで驚愕して‥

    日本人で映画を見る人なら、たぶんほとんどの人が御存じの「おくりびと」!その作品と本年度アカデミー外国映画賞を競って日本での知名度抜群になった映画! くしくも2008年東京フィルメックスでグランプリ取るも、公開が決まらなかったという。 そん...  続きを読む

  • robert1973さんのレビュー   2009-10-22 02:09

    戦場でワルツか・・・

    10月15日@新宿明治安田生命ホール 見てきましたー ちょっと興味があった映画だったので見れて良かった 季節は冬 あるバーの片隅で映画監督のアリは旧友と再会 アリは自分の記憶に抜け落ちている部分があることに気付く...  続きを読む

  • とらねこさんのレビュー   2009-10-22 18:26

    outstanding!なアニメーションで記憶の旅

    アカデミー賞外国語映画賞ノミネート、ゴールデングローブ賞外国語映画賞受賞他、様々な賞をかっさらっていったという評判のこの作品。これまた突出したアニメーションの登場だ。 まず目を奪われるのは、映像の突出したセンス。ビビッドな色使いに、大胆で太めな...  続きを読む

  • ほろにがさんのレビュー   2009-10-23 01:50

    『戦場でワルツを』

    “アニメーション”という技法は、作家の表現したいことを実写より忠実に、直接的に作品に反映することができる。平面であれ、立体であれ、CGであれ、アニメーションにおいて作家の描いていないものが画面に登場することは、ほとんどない(人形アニメーションで関節か...  続きを読む

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