骰子の眼

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東京都 渋谷区

2009-09-23 08:00


モーリー・ロバートソンのウイグル旅行記Vol.2:「ウイグル人は心に麻酔を打たれている。しかし火は消えない」【動画付き】

モーリー・ロバートソン氏が2007年に訪れたウイグルの様子をレポート。今回の訪問先は、農村地帯のカシュガル
モーリー・ロバートソンのウイグル旅行記Vol.2:「ウイグル人は心に麻酔を打たれている。しかし火は消えない」【動画付き】
旧市街の路地でナンを頬張りながらゴム跳びをしていた少女。彼女もその家族も今では旧市街を追い出され、近代的な中国式アパート暮らしを強いられているのかも知れない。

★vol.1はコチラから
http://www.webdice.jp/dice/detail/1901/

★「ウイグル関連」ニュース
http://sankei.jp.msn.com/world/china/090918/chn0909180912000-n1.htm

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ウルムチからカシュガルへ

ウルムチから数時間のフライトで、カシュガルに着く。とても小さな空港で、空港というより飛行場に近い感じだ。通関も、改札口もなく、バス停でバスを降りるみたいにシンプルに到着。外に出ると真っ暗な空に満月が!空港を出ると、タクシーがちょろちょろと走っている程度で他には何もなく、最果ての田舎という感じ。カシュガルは農村地帯。綿や、ブドウ、ザクロが採れるようだが、休耕期だったので見ることが出来なかったのが残念。カシュガルの町はとても小さくて、漢民族よりウイグル人の人口が多い、中国唯一の町だ。

圧迫される農民たちの暮らし

さりげなく農民に話しかけると、政府への不満が飛び出した。農民による告発の内容が衝撃的。「わいろを渡さないと仕事がない」というコメント通り、不正が横行している。政治による不正以外にも、人々の無知からくるアパルトヘイト並の人種差別が。町で見かけた「恐怖分子」という言葉は、「テロリスト」の意。ウイグル人は分離独立を企てていて辺境から中国という国家を崩そうとしている、という中国政府のパラノイアが続いているようだ。ウイグル人を要注意民族と位置づけ密告を奨励することもあるので自由に発言できない、という話を複数の人から耳にする。

私腹を肥やしたい地方の行政官が、わいろを要求したり、理不尽な搾取をしたり、農業用水の使用料を予告もなく急に値上げしたりすることがあると聞いた。団結して要求すると、テロ行為として政治犯として捕まってしまうことも。そうなると高所得者はお金の力で上層部に取り入ってさらに上のポジションに、そして、貧しいとますます将来性のある仕事に就けない。新疆ウイグル地区全体は経済発展が目覚しいにも関わらず、管理職などの職業にウイグル人は就いていないそう。

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左上)「打去恐怖分子!」(テロリストを追い出そう)と書かれたカシュガル旧市街の外壁。昨今ではこの旧市街も“再開発のため”取り壊されている。

体罰・拷問が待っているから自由に話せる場はなく、ダーティービジネスが横行しているという話もある。法律と関係ないところでいじめ続けているだけでは、とも感じられる。教育機会に恵まれないことや、ウイグルを話さず小学校の頃から漢語を学ぶよう奨励されることもあるという。とても現代で起きていることとは思えない。「日本名をつけるなどの、過去に日本が朝鮮に強いていたことよりもひどい」とモーリー氏は憤る。

この映像を撮った翌年チベットで、その翌々年の今年、ウイグルで騒乱が起こった。今、訪れても撮れないであろう映像だ。最近では注射器での襲撃事件についての報道があるが、捕まった人がいると言われているのは、カシュガルやホータンなどウイグル人が多く住む町。報道では民族構成が発表されていないこともあるが、ウイグル人首謀者がテロを起こしている、という内容だ。中国当局がプロパガンダとして流しているのではと疑ってしまう。

アットホームなカシュガルのバザール

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カシュガル郊外、バザールの一角ではおじいさんが気持ち良さそうに頭を剃られていた。この地方の年配男性は剃髪した頭に毛皮の帽子を被り、髭を長く伸ばすのが主流だそうだ。

そして、カシュガルでもバザールへ。前回のウルムチとは違う、小規模で零細なバザール。たくさんの人がトルコのドンドルマに匹敵すると思われるアイスクリームを食べていた。ドンドルマよりラムネっぽく、カキ氷みたいな味の庶民的なデザート。子供たちのエネルギーに圧倒された。水が少ない地域のため洗濯があまりできず、埃っぽい服を着ているが、褐色の大地に映える鮮やかな色使いの服を好み、皆とても可愛い。この子たちが大きくなって手紙を書くことができる年齢になり、どういう想いでいるのかを教えてもらえたらうれしい、と住所を交換。

バザールで出会う人々も皆温かく、自分より相手がお金持ちでもお土産をくれる。笑顔が素晴らしい。カシュガルは、周辺の様々な民族が混ざり合っている。その中で、日米ハーフのモーリー氏に似たタイプの顔があるため、ところどっころで「ウイグルっぽい顔だね」と言われ、盛り上がった。「ウイグル語が全くわからなくて、ガイドに連れられているだけだけど、バザールにいるだけで楽しかった」。

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カシュガル郊外の市場で売られていたドンドルマに匹敵すると思われるアイスクリーム。ウイグル人がトルコ系民族であることをまさに証明しているかのような食べ物を一口頬張ると、昔のアイスクリンのような素朴な味がした。
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ウイグルの一般家庭に招かれる。お腹いっぱい御馳走になったあとは「何故泊まっていかない?」というありがたい申し出を泣き泣き断り、旅を続けなければならなかった。

9.11以降、「モスリムは怖い」という思い込みが蔓延しているが、それらの地域へ行くと印象が全然違う。「人々は本当に温かくて、モスリムの世界は来客を包んでくれる」とモーリー氏。イスラム世界全体で、さまざまな理由で原理主義や反米になる人や、タリバンをサポートする人が出てくるが、そこには必ず背景がある。決して、宗教が排他的なのではない。

過酷なのに活き活きしている、ウイグル人の素敵な姿を見た。この旅でもいろんな人に出会ったが、ひとりのウイグル人が言った忘れられない台詞がひとつ。「ウイグル人は心に麻酔を打たれている。しかし火は消えない」。

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どこに行っても好奇心旺盛な子供達に囲まれる。カシュガル郊外のバザールにて。
(インタビュー・文・構成:世木亜矢子)

モーリー・ロバートソン氏プロフィール

「i-morley」の創始者、ミュージシャン、ラジオDJ、ジャーナリスト、作家。1991年以来、J-WAVE(81.3FM)などでラジオ・パーソナリティーとして活躍し、伝説的な深夜番組「Across The View」を司会。自由気ままに語り継ぐポッドキャスト「i-morley」はかつての深夜ラジオに心酔した人から初めて耳にするティーンエイジャーまで、広くリスナーの心をつかみ、52万人を越えるオーディエンスを獲得するに至る。2007年には、チベット・ラサでの取材を写真や映像でレポートする企画「チベトロニカ」の総指揮を務める。

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『ウイグルからきた少年』
2009年10月3日(土)より渋谷アップリンク他、全国順次ロードショー

監督・脚本・編集:佐野伸寿
出演:ラスール・ウルミリャロフ、カエサル・ドイセハノフ、アナスタシア・ビルツォーバ、ダルジャン・オミルバエフ他
2008年/日本・ロシア・カザフスタン/65分
配給:アップリンク
公式サイト


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