骰子の眼

music

東京都 渋谷区

2009-08-15 12:00


ノイズバンド『非常階段』の30年間:JOJO広重最新インタビュー

「アートになっちゃうと無意味という意味みたいになってしまうから」─ 非常階段唯一のオリジナルメンバーにしてリーダーであるJOJO広重氏に話を訊いた。
ノイズバンド『非常階段』の30年間:JOJO広重最新インタビュー

日本のロックの現場で30年間に渡り、地道に、しかし日常ではあり得ないほどの大音量を以て、ロックの極限形態としての雑音=“ノイズ”を表現し続けてきたバンド『非常階段』。
30周年という、その節目の年を記念して、これまでの活動の中でのハイライトや未発表音源ばかりを集めたCD30枚組ボックス『THE NOISE』をリリースし、国内外でのライブも数多くこなすなど、2009年は非常階段というバンドにとって特別な1年となっているようだ。
アップリンクでも、8月21日(金)に「非常階段の30年間」と題し、非常階段という世界的に見てもユニークな魅力を持つバンドの歴史を映像とトークショーで振り返るイベントを行う。
このイベントに先駆けて同バンドのリーダーであるJOJO広重氏に、最近の活動について、そしてノイズなる表現を始めて30年経った現在のノイズに対する考えを訊いた。

(インタビュー・文:倉持政晴 / 構成:牧智美)

── 今年は非常階段が活動を始めてからちょうど30年目の節目の年ということもあり、ライブを精力的に行われていますね。これはつまり、普段はオファーの殆どを断っているということなのかなと思ったのですが。

そうですね。30周年だから良いものを沢山やろうということでやっています。それでも、所謂ライブハウスなんかの普通のブッキングは断っているんです。30周年としてメインになるようなもの…『原爆スター階段(※)』とかね。あと、海外公演も優先的にやっています。

※『原爆スター階段』…非常階段、遠藤ミチロウ&久土'n茶谷、The原爆オナニーズからなるバンド(2009年10月10日新宿LOFTにてライブ予定)

── 実際はどのくらいのペースでライブをされているんですか?

毎月ってことはないですよ。

── 国内と国外でのライブの本数を比較すると、どちらの方が多いですか?

同じくらい。海外の場合はメンバーみんなのスケジュールがあるんで。美川さん(T.Mikawa/非常階段、インキャパシタンツ)とか普通のサラリーマンですから、何回も休めない。だから、僕とJUNKOさん(非常階段のスクリーマー)だけで行く場合もありますね。

── この『THE NOISE』をリリースするにあたって、収録されている音源はかなり絞り込まれたと思うんですけど、30年分の音源をまとめて聴くということはなかなか貴重な体験かと思います。実際に聴き返されてみて如何でしたか?

意外と音源は大体残っていて、まあ丸っきり無いのもあるんですけど、振り返ってみると30年前にやっていたこと自体は今もあまり変わっていないなと(笑)。ただ、自分で聴いてみてすごく面白かったです。逆にいえば、音のハズレがない。「さすがにこれはちょっと…」というのも無いことはなかったですけど、音は面白かったですね。

jojo広重main

── 音源の面白さに基点をおいてチョイスされたと思うんですけど、非常階段にとってのクオリティの定義のようなものがあったんですか?

1997年と2001年の音源はなかったんですけど、基本的には各年度の音源を全部拾おうというのは一つあった。出来るだけ色んな場所での音源を。どうしても「エッグプラント」(大阪市西成区にあったライブハウス/1989年閉店)とか同じ場所が多くなってしまうので、一回しかやっていない場所とか地方でやったものとかを可能な限りおさえるようにしました。実はスタジオテイクがあまりないので、それもできるだけ使おうとか。『極悪の教典』という80年~81年の音源をまとめたカセットがあるんですけど、それはそれでイギリスのレーベルからCDボックスで出すという話があるので、そこの収録される音源は外しています。ただ、そこの音源を完全に外してしまうと、非常階段が一番ぐちゃぐちゃとしていた頃の記録がまるっきり抜けてしまうので、そこは『蔵六の奇病』(82)をちょっと入れることでカバーしました。

選出の基準は、聴いてみて面白いかどうかということですね。JUNKOさんが入ってからの音源が圧倒的に面白い。今回のボックスの中だと、「インクスティック」でのライブとか、2000年の「新宿LOFT」とか。美川さんや小堺さん(コサカイフミオ/非常階段、インキャパシタンツ)はごくごく普通の人間だし、見た目普通の人たちがこんな感じの尋常じゃない音楽をやっているというギャップも面白いし。『THE NOISE』っていうぐらいだからノイズですよね。ノイズ自体が一つのエンターテイメントとして売りになっているということが面白いかな。これが音楽かどうかっていうのは、ちょっとわかんないですけどね。

── 広重さんが“ノイズ”という言葉を意識的に使い始めたのはいつ頃からなのでしょうか?

最初の頃からですよね。もちろんノイズ的なものは以前より興味はあったし、フリーとか即興演奏とかもちろん興味ありましたから。基本的に即興演奏で大音量で、めちゃくちゃやるっていう感じのね。音楽じゃないっていったら音楽じゃないですよね、音楽の定義があるとしたら。今はリスナーの方が寛容だから、なんでも音楽っていえるけど。音楽から一番遠いようなノイズみたいなのをやることによって、楽曲とか歌とか構築されたものとは違った切り口で、逆に一番そういったものに近いものだったり、確信をついたりするようなものが出来るのではないかっていうのは頭にあったんです。途中からそんなのどうでもよくって(笑)、僕らがやってることの方が圧倒的に面白いなっていうので処理しちゃってますから。もともと根源的な始まり方はそういう感じでしたね。

── いわゆるノイズを演奏の中でテクニックとして用いた音楽はもちろん非常階段以前にもあったわけですが、ご自身の音楽をはっきり口に出して“ノイズ”という言葉で定義したことが、実は広重さんの一番の発明だったのではないかと思うんです。それで今の質問をさせて頂きました。非常階段の登場以降に開かれた耳というものがあり、“ノイズ”という音そのものへの注目が集まる流れが生まれたことが重要だと思うからです。

そうですね。それは『THE NOISE』っていうタイトルが、はっきりさせていると思う。僕は「音楽じゃない」とかいつも言っているけど、アートでもないと思うんですよ。あくまでロック。ロック的だと思いますね。アートになっちゃうと所詮アートになっちゃうんで。よく美川さんがJUNKOさんを評する時に言う「あまりにも何ものでもない、無意味性みたいなものをこんなに簡単にできるのは凄い」みたいなね。アートになっちゃうと無意味という意味みたいになっちゃうでしょう。所詮アートじゃんっていう。そうじゃないんだよ、むしろロックのはじけてる部分だから。こんなの『美術手帖』は取り上げないでしょう(笑)。載るとしたらロック関係の雑誌とか。そういう雑誌も無くなっているから載ることもないけど。

── このインタビューで一番訊きたかったことは、2009年の現在、広重さんがノイズというものに関してどう考えてるかということなんです。僕のスイス人の友人は、西洋音楽史の文脈とは全く異なるルーツと経緯を持つ日本のノイズの熱狂的なファンなんです。広重さんがライブで海外に行かれた時、実際に現地のアーティストと触れ合ってみて何か感じることはありますか?

JOJO広重-sub02

海外は、日本みたいなノイズの発展の仕方を絶対していないです。この前もドイツに行ったけど、インダストリアルですね。インダストリアルみたいなものが、結局かっこいいとされている感じ。僕らとは基本的にちょっと違う。僕らのものは「圧倒的に凄そう!」とか「面白そう!」ということをわかっている人が何人かいて、ステージの前で「おー!」って盛り上がっているみたいな。ちょっと特殊かもしれないね。いろんな理由があって、日本はロックの文脈でこういうのが語られたり、ロックやハードコアやノイズのバンドが一緒にライブやってるとかあるけれども。むしろアートとして語られることはほとんどない。秋田昌美さん(MERZBOW)が若干語られているかなという程度で。それも年に一回あるかないか。僕らは圧倒的に『DOLL』『STUDIO VOICE』『CDジャーナル』『FOOL'S MATE』であったりする。若い人たちの現場にずっといたし、観客がそれを受け入れてくれている。


── 日本のリスナーは、良い意味で極端な表現を受け入れられるスキルがもともと備わっているんでしょうね。

海外でやると耳をふさいで会場から出て行く人たちがいるからね。「なんだこれは」と。日本ではまずない。欧米の人たちの想像を超えるものかもしれない。たとえば、G.G.アレンのように、昔からとんでもない奇人変人として知られているような人たちは、その表現の下敷きにアートやノイズがあったりするでしょう。それと非常階段やインキャパシタンツは全然違うじゃないですか。同じ単語で語られることもあるんだけど。

── 非常階段の表現がアートの現場で評価されることはないと言われましたが、それは海外でも同じですか?

海外はどちらかといえばアート寄りですね。アートギャラリーを使って、ラップトップでノイズみたいなライブはわりとありますね。オーストラリアとかそうですね。

── 非常階段と親交の深いカナダのバンド『ニヒリスト・スパズム・バンド』は音楽とアートのどちらだと思いますか?

どちらからもフォローされていない。本業はアーティストだったりするけど、そっちの方にはほとんどフィードバックはない。おじいちゃん達が40年も、毎週月曜日にわけのわからないことをやっているっていうだけですね。アートとして評価されているわけではない。ある意味、ライブというよりは、公開練習みたいなもんだと思いますけどね。毎週月曜日に囲碁打ちに行くとか、そういう感覚なのかもしれない(笑)。それにしては内容は極端ですけどね。海外のシーンでそんなに面白いところはない何処にもないですよ。ニューヨークだろうがどこであろうが。やっぱり大阪が一番(笑)。バカばっかり。

── さて、今現在ノイズについて何か考えていることはありますか?

わからないんですよ、こっから先どうなるかは。たとえば、今年の10月10日に新宿LOFTで『原爆スター階段』の形でライブをしますよね。昔やっていた『スター階段』(非常階段とスターリンの合体ユニット)というのを26年ぶりにもう一回やってみようかっていう、昔のアイデアを50過ぎの年齢の人たちがやるとどうなるかっていう、自分たちで自分たちを実験しているようなものですからね。それは新しい形ではないと思うし、ただやってみたいなというのが一つ。今度、坂田明さんともやるんですけど、フリージャズと一緒にやるとどうなるかなって。

── 『THE NOISE』に封入されているブックレットの中にご自身で詳しく書かれていましたが、若かった頃の広重さんにとっては当時の日本のフリージャズのシーンが閉鎖的で保守的にみえて、現在に至るまでのノイズという表現というものが、そこに対する反発から生まれているといった経緯がありますよね。坂田さんという、ある種、日本を代表するジャズミュージシャンと共演することに関して、特別な感慨はありますか?

ありますね。今から振り返れば、当時のフリージャズっていうのは、いわゆる形式的な、「このフレーズが出てきたら元のフレーズに戻る」、それから「インプロに戻っていく」みたいなもの。ノイズというよりはフリーキーなアドリブに近いですよね。それだけでも、あの頃聴いたインパクトとしては充分だったんですよ。今聴くと普通のフリージャズじゃんって思うけど、当時としては「こんな無茶苦茶なもんがあるのか」、「俺たちだってもっとできるんじゃないか」と思いました。
実際に、大阪の普通のフリージャズメンと一緒にやったときに、俺たちの方がやっぱり圧倒的に面白かったということがあって。僕らが思ったり考えたりしていたことはほとんど間違っていなくて、実際に30年やってきた今、非常階段のようなバンドは他にないし、似たようなバンドがあってもその人たちよりは正直ワンランク上の演奏をしているつもりやから、そういう意味では自信は全然揺らいでいないですね。ただ、こっからどうなりますか、ノイズってどうなりますかといわれても、全然わからない。なるようになると思う。命ある限り(笑)。考えてどうこうしようというつもりはもうあんまりない。

── 今後の展望をお聞きしようと思っていたのですが、答えが出ちゃいましたね。

どんな展望でもよくなってきた(笑)。アルケミー・レコード(JOJO広重氏主宰の日本最古のインディーズレーベル)も辞めてもいいかなとか、何も出さんでもいいかなとか(笑)。君らが想像できることは大概やったよっていうのはあるよね。

── 仮にアルケミー・レコードに対してそういう気持ちがあったとして、非常階段のスタンスに対しても近い気持ちがお持ちなんですか?

辞める必要もないけど、取り立ててものすごく必死にやる必要はない。

── つまり、「もう辞めてもいいかな」という感じは非常階段にはない?

JOJO広重-sub01

こんな面白いものはそうそうないからね。JUNKOさんのボーカルとか、インキャパシタンツとか。たまにはみんなに見せてあげたらいいかなという気持ちはあるけど(笑)。これを工夫して、形を変えてあれこれしていくっていう気持ちはもうあんまりない。ある意味完成されてるから。ただ、坂田さんとやったりとか、思ってもみないことはこれからも色々あるかもしれないからそれはわかりませんけど。それを自分から意識したり計算したりということはない。この30枚組BOXにしても「みなさん5万円で高いし、よう買わんでしょ」っていうのがちょっとあって。どうぞみなさん文句言ってください。お金なかったら買えない。君(筆者)だって俺があげたから聴けたんでしょ。自分のお金で買えないでしょ(笑)。

── そうですね(笑)。

そこで負けてるわ(笑)。俺の勝ちや。くやしかったら買ってみやがれ(笑)。これを2万、3万で出さないよ。そんなに俺は善人じゃない。買ってくれた人には深々と頭を下げて「ありがとうございます」と(笑)。買わないで文句いう奴に対しては何もあげません。



『非常階段の30年間』
2009年8月21日(金)19:00開場 / 19:30開演

出演:JOJO広重(非常階段)
聞き手:松村正人(現在休刊中のSTUDIO VOICE誌編集長)

会場:アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇多川町37-18トツネビル1F)[地図を表示]
料金:1,800円
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非常階段 『THE NOISE』 発売中
(非常階段結成30周年記念CD 30枚組BOX)

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今年で結成30周年を迎える“キング・オブ・ノイズ”非常階段のCDボックスがついに登場!1979年のJOJO広重と頭士奈生樹によるデュオの音源から2009年最新のスタジオ音源、未発表テイク、30年に渡る驚異のライブ音源、メンバーのソロ、SOB階段やアシッド・マザーズ階段などの「階段」セッション音源など、ほぼ9割が未発表テイクという驚愕の内容。さらに幻の1983年ザ・スターリンとの合体ユニット『スター階段』の音源をオープニング~エンディングまでほぼノーカットで収録。JOJO広重による非常階段30年史ライナーノーツ、ライブデータ、貴重な写真などを掲載したブックレットも収録。500セットの限定生産!売り切れ必至!
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