骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2009-05-31 23:50


「人民洗脳アニメーション、ロシアならではの不思議な世界」―『ロシア革命アニメーション1924-1979』クロスレビュー

「ただのプロパガンダに留まらずアートの域に達しているから、時代を超え評価されているのではないか」―既存のアートアニメに飽きた人にはぴったりのアニメ作品を上映!
「人民洗脳アニメーション、ロシアならではの不思議な世界」―『ロシア革命アニメーション1924-1979』クロスレビュー
『生かされない教訓』(1971) 監督:ワレンチン・カラヴァエフ 東西ドイツが再統合するとナチスの悪夢が甦ると煽りベルリンの壁を正当化するプロパガンダ。元ナチ信者がドイツの復権を夢見て東へ向かい行進するが、ベルリンの壁に阻まれてすごすごと退却する。

ソヴィエト政府がプロパガンダの一環として、アニメーション表現にまで着手していた事実をご存知だろか。ソヴィエト・ドキュメンタリーの始祖とも呼ばれるジガ・ヴェルトフのアニメーションや、ロシア・アヴァンギャルドの巨匠マヤコフスキーの詩で構成されたフィルム作品の上映『ロシア革命アニメーション1924-1979』が、6月6日よりアップリンク・ファクトリーで開催される。

射撃場

『チェブラーシカ』や、宮崎駿に大きな影響を与えた『雪の女王』、またはノルシュテインの切り絵アニメをロシア・アニメーションの表の顔だとするならば、こちらは我々にはこれまで窺い知れなかったダークサイド。1917年に始まった共産主義革命の過程で、資本家やファシズムそしてアメリカを徹底的に否定し、革命の成果を誇示するために、早くからアニメーションのイメージ伝達の即効性に着目していたソヴィエト政府は、人民を洗脳する手段として、共産主義プロパガンダを目的としたアニメという特異なジャンルを80年代末の体制崩壊まで一貫して発展させていった。

『射撃場』(1979) 監督:ウラジーミル・タラソフ アメリカの失業者の若者が射撃場で生きた標的になるという職を得る。生身の人間を実弾で狙うこのゲームは大当たり。アメコミ以上にポップな記号に満ち溢れた傑作。

レーニン

今見ると逆にカテゴライズ不能、ポップで刺激的なこれら短編アニメーションの数々―ジガ・ヴェルトフによるロシア・アヴァンギャルドの影響色濃いソ連最初期のアニメや、ロシア未来派の雄マヤコフスキーに捧げられたコラージュ・ワーク、そして米ソ冷戦真只中に、資本主義批判の建前のもとに敵国アメリカ以上のポップカルチャー趣味を炸裂させてしまった謎のアジテーション・アニメまで―いずれ劣らずクールでキッチュな全16作品を一挙公開。

『レーニンのキノ・プラウダ』(1924) 監督:ジガ・ヴェルトフ 1924年レーニン死去。しかし共産主義革命の足取りは止まらない。10万人ものソ連人民が共産党に入党したのだ。

期間中は、巻上公一、佐々木敦、石田尚志、黒坂圭太、山村浩二、大山慶らのトークイベントも開催されるので、是非この機会に貴重なロシア・アニメーションを堪能してみよう。



『ロシア革命アニメーション1924-1979/ロシア・アヴァンギャルドからプロパガンダへ』
2009年6月6日(土)より渋谷アップリンクXにて公開

Aプロ:『ソビエトのおもちゃ』(監督:ジガ・ヴェルトフ)、他7作品(計81分)
Bプロ:『惑星革命』(監督:ゼノン・コミッサレンコ、ユーリー・メルクーロフ)、他7作品(計81分)
配給:竹書房

【トークイベント開催】
・6月9日(火) 18:40の回上映終了後
巻上公一(ヒカシュー)×佐々木敦(HEADZ)

・6月21日(日) 18:40の回上映終了後
石田尚志(映像作家/美術家)×黒坂圭太(アニメーション作家)

・6月27日(土) 18:40の回上映終了後
山村浩二(アニメーション作家)×大山慶(アニメーション作家)

※詳細は公式サイトにて


レビュー(9)


  • とらねこさんのレビュー   2009-05-21 11:34

    洗脳するアニメ!?

    ゲージュツではなくプロパガンダを目的とした、ソヴィエト政府により作られた、人民洗脳アニメーション。などと聞いて思わず、一体どんな表現方法が行われているのだろうと興味津々だったワケである。まさに、まさに、ロシアならではの不思議な世界。 やかましく...  続きを読む

  • gondwanaさんのレビュー   2009-05-23 11:59

    表現とヒューマニズム

    Aプログラムを観劇、2点、共通した感想を持ちました。 一つは「抑圧されている」こと。 シニカルやプロパガンダを越えた、有無を言わさぬな圧力は 製作者側の想像を絶する生死の闘いなのでしょう。 心のバランスを欠いた中で出口を探し どの作品も...  続きを読む

  • 夏目深雪さんのレビュー   2009-05-26 10:41

    夢の名残り

    同じストーリーを実写とアニメーションとで撮ったら断然前者の方が好きだ。人間が全く違う人間を演じるといういかがわしさが好きなのだ——そこで発生するずれ(俳優とキャラクターの、或いは監督と俳優の)も含めて。アニメーションは監督の思い入れが直接キャラクター...  続きを読む

  • kerakutenさんのレビュー   2009-05-27 23:59

    ジーンズ売ッテクダサイ

    私たち日本人のだ~い好きな 「雪の女王」や「チェブラーシカ」が作られたのも 冷戦のソビエト時代でしたが、 今回はいかにも「あちらの国」らしい アヴァンギャルド~プロパガンダアニメーションを鑑賞しました。 「ソヴィエトのおもちゃ」は、 ...  続きを読む

  • デザイン室レフさんのレビュー   2009-05-28 12:37

    プロパガンダアニメに刮目せよ!

    もともとソビエト政権は映画に注目していたし、アニメも盛んだった。それは大衆への影響力として、もっとも協力で、りわかりやすいメディアだということを理解していからだと思う。ロシア革命直後はアニメというわかりやすいスタイルで啓蒙・教育をする必要があったろう...  続きを読む

  • まつばらあつしさんのレビュー   2009-05-28 13:07

    なんかヤ。でも気になる

     いや、もう勘弁してください。  誰ともなく思わず謝りたくなるような、なんかそんな気分にさせてくれる8本のロシアアニメーションを堪能しました。    何て言うのか、オカしかったら笑えばいいし、ツマらなければ寝ちまえばいい。でも、これらのアニメー...  続きを読む

  • 佐藤克則さんのレビュー   2009-05-28 13:15

    これは世界を映す、魔法の鏡

    ロシア革命アニメーション Animated Soviet Propaganda 資本主義 vs. 社会主義 ファシズム vs. 社会主義 今まで見たことのない、あっと驚く視点から世の中を見ることができました。 イデオロギーの違いによって...  続きを読む

  • chihiさんのレビュー   2009-05-28 13:26

    制度の下に生きる人間として。 制度の上に真なる理想を描かんとする人間として。

    最後の『射撃場』の作品を見て 頭を撲られたように衝撃を受けてしまった。 プロパガンダと聞いて、煙たがる人も多いだろう。 だが、我々は知らなければならないのだと思った。 安直にマスコミと一緒になって国家批判をしている間に 知らず知らず...  続きを読む

  • LEO SATOさんのレビュー   2009-05-29 13:44

    ロシアン・プロパガンダ・アート・アニメ

    ソ連のプロパガンダとしてのアニメとはどんなものであったのか? 先入観として想像するのは、共産主義の宣伝に始まり、反資本主義、反ファシズムなど… 映像制作に携わる私としては、洗脳ツールであったであろう作品群を批判的にパロディ化できると面白いかもな、...  続きを読む