クルド人難民一家をトルコまで追いかけた野本大監督
初監督作品ながら、昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で観客の支持を集め、毎日映画コンクールを受賞した映画『バックドロップ・クルディスタン』。6月5日にDVDが発売されるにあたり、発売記念イベント上映が5月19日、6月23日にアップリンク・ファクトリーで開催される。併映作品には日本版ダルデェンヌと評判の高い竹馬靖具監督『今、僕は』。両監督とも83年生まれの25歳、上映後のトークショーでは、どんな話題が繰り広げられるのか楽しみだ。野本監督に本作について話を訊いた。
日本に住むクルド人難民の一家を題材にした作品『バックドロップ・クルディスタン』で、山形国際ドキュメンタリー映画祭の「アジア千波万波」部門《奨励賞・市民賞》をダブル受賞し、一躍若手ドキュメンタリストとして注目を集めた野本大監督。しかし、彼はドキュメンタリーという手法にこだわりは無いと語る。
「向き合いたい人間がいるとか、この人を追ってみたいのが最優先ですね。僕の場合は、“人ありき”なので。今回だったらカザンキランさん一家を追いたい。そういう出会いがあると、ドキュメンタリーにせざるを得ないというか」
写真：野本大監督
この作品が撮影された当時、クルド難民の問題は、ニュースや新聞でも大いに話題になった。しかし、そういった報道から受ける印象と、『バックドロップ・クルディスタン』から受けるそれは、全く異なる。
「難民の問題を社会に訴えかけたいというよりは、まず、その人間と向き合いたい。そこから何かが育まれたり、何かが見えるのではないかと思っています。メッセージというのは、やりながら見えてくる。自分で発見していくというやり方です。人と向き合っていれば、その人の社会があるし、向き合っている僕の社会があるし、嫌でもそういうものが見えてきますから。そこがキーポイントになるし、そこにしか興味が無いです。スタート地点としては。だから、カザンキランさんたちが難民で、逆境に追い込まれているからと言う理由だけで撮ったわけではないです。そういうことが無くても面白い人達だと感じました」
映画は後半、カザンキランさん一家が強制送還された所から意外な展開を迎える。何と、監督自身が一家を追いかけてトルコへと旅立つのだ。野本監督は、自分の作品を『巻き込まれ型ドキュメンタリー』と評する。
写真：クルド人難民のカザンキラン一家
「カザンキランさんたちの厳しい現状を見てきて、“俺はどうするんだ”“僕はどうすれば納得できるんだ”と。カザンキランさんたちに納得してもうらためじゃなく、強制送還まで半年くらいつきあってきて、どうすれば僕が納得できるんだということで、外国へ行きました」
一家を追いかけて海の向こうまで旅した野本監督と、カザンキランさんたちとの友情は今でも続いている。6月5日アップリンクより発売されるDVDには、特典映像として野本監督とニュージーランドにいるカザンキランさんをスカイプで繋いだ特別インタビューが収録されており、現在カザンキランさん一家が、ニュージーランドで経営しているクルド料理レストランの話などが聞ける。
ところで、完成した作品に対して、カザンキランさん一家の反応は？
「すごく喜んでくれました。“ありがとう”って言ってくれて。あと、“本当に映画撮れたんだ!！”って驚かれました。まさか本当に映画が完成するなんて思ってなかったみたいで」
『バックドロップ・クルディスタン』DVD発売記念上映第1弾
2009年5月19日（火） 開場18：30/開演19：00
ゲスト：野本大監督、竹馬靖具監督（『今、僕は』）
会場：アップリンク・ファクトリー（東京都渋谷区宇多川町37-18トツネビル1F） [地図を表示]
料金：1,500円（1ドリンク付き）
【上映作品】
『バックドロップ・クルディスタン』
監督:野本大
2007/102分/日本語・トルコ語
製作・配給・宣伝:バックドロップフィルム
公式サイト
『今、僕は』
監督・脚本・編集：竹馬靖具
主題歌：新居昭乃『囁く菫』
出演：竹馬靖具、藤澤よしはる、弁、志賀正人
2007年/87分/日本
製作・配給：chiyuw
公式サイト
★第2弾は、6月23日（火）『フツーの仕事がしたい』（土屋トカチ監督）の併映イベントを開催！詳細はコチラから
