2008年、建築の世界で最も権威あるプリツカー賞を受賞した建築家、ジャン・ヌーヴェル。1987年にアラブ世界研究所を設計し、華々しくデビューして以来、20年以上に渡り常に革新的、独創的であり続けている。そんなヌーヴェルが自身の初期から中期にかけてのプロジェクトを解説するドキュメンタリー『ジャン・ヌーヴェル』が、5月8日アップリンクより発売される。この稀代の建築家がどのようにして、創作過程を踏んでいくのか、そのスリリングな思考の痕跡を垣間見ることができる。
「テレビを例に取りましょう。昔は小さい画面のついた大きな箱。次第に画面が大きくなり、箱は消えて画面だけに。この10年の間にテレビとは薄い画面を指すようになった。これが“奇蹟の美学”なのです。最後には機能の表現のみが残り、物質は完全に管理される。我々の知識と理性の力は物質をそぎ落とし、残るのは本質のみ。建築も同じです」
そう語るジャン・ヌーヴェル氏は87年にパリに設計した“アラブ世界研究所”で華々しく建築界にデビューした後20年以上にも渡り、独創的な作品を発表し続けている。2008年には建築界のノーベル賞とも言われるプリツカー賞を受賞し、その創造性には衰えが見えない。特に様々な種類のガラスを使用することで特徴付けられるジャン・ヌーヴェル建築は時に“消失する建築”とも呼ばれそのメカニックでセクシーな建築は多くのファンを魅了している。
写真:アラブ世界研究所(1987年/フランス、パリ)
「今世紀には多くのものが発明されました。電気は目覚しい発展を遂げましたが、ガラスも進化しました。特殊な形状や温熱特性など光の問題に新しい方法で取り組む理由は十分にあるのです。ガラスは光を調整できる唯一の素材です。光をどのように通すかによって対象の見え方は全く変わり、様々な印象を与えます。光に魅かれるのは、それが人生を象徴するからです。はかない一瞬や変化と結びついています。多くの建築は生気がなくてただそこに建っているだけ。それでは面白くありません。瞬間と持続の間にいかに折り合いをつけるか? 過ぎ行く時間の感覚を建築で表現することができるのか? それが私をずっと魅了してきたのです」
写真:カルチエ財団(1995年/フランス、パリ)
また、映画監督のヴィム・ヴェンダースとも親交の深いジャン・ヌーヴェルは、映画と建築の創作過程を比較して以下のように語っている。
「映画の世界にはとても興味があります。制約の多い建築家に比べ、映画人はとても自由に見えます。最も違うのが編集作業です。撮影でなにかあっても編集でカバーできる。建築家は予定通りにやるしかありません。映画は予定通りにいくことは少ないでしょう。建築の現場でも、しばしば不測の事態が起こります。素材が使えなかったり、新たな要望がでたり。そのときは流れを変えるため新たな視点で見直します。大きな障害を克服するたび小さな喜びを味わえるのです」
写真:ギャラリー・ラファイエット(1996年/ドイツ、ベルリン)
今年64歳になる世界的な巨匠は、今後どのような展開をみせてくれるのか。独特のデザイン哲学を持ち、それをどんどん遂行していってしまうジャン・ヌーヴェルからはしばらく目が離せない。
■ジャン・ヌーヴェル(Jean Nouvel)PROFILE
1945年フランス生まれ。エコール・デ・ボザール卒業。1987年に『アラブ世界研究所』(パリ)の設計で脚光を浴びる。その後、『カルチエ財団』(パリ)や『ギャラリー・ラファ イエット』(ベルリン)など多様な種類のガラスの使い方により独自の作風を生み出す。2002年には『電通本社ビル』(東京)を設計。
DVD『ジャン・ヌーヴェル』
2009年5月8日(金)アップリンクより発売
収録プロジェクト:
ルツェルン文化会議センター(1998年/スイス、ルツェルン)、ヴィンチ会議センター(1993年/フランス、トゥール)、カルチエ財団(1995年/フランス、パリ)、アラブ世界研究所(1987年/フランス、パリ)、ギャラリー・ラファイエット(1996年/ドイツ、ベルリン)、他
監督:ベアト・クエルト
出演:ジャン・ヌーヴェル、他
監修:五十嵐太郎、松田達 解説:五十嵐太郎
2001年/スイス/本編55分
価格:4,410円(税込)
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