リチャード・カーン『X is Y』(1990年)
レーガン、ブッシュ・シニア政権下の80年代ニューヨークにおいて、若いアーティストたちによる映画・写真・音楽・ファッションといったあらゆる表現が一斉に爆発した「NO WAVE」なる現象が巻き起こった。
写真:サーストン・ムーア(ソニック・ユース)
サーストン・ムーア率いるバンド、ソニック・ユースの世界規模での成功により、現在ではその原点としてカルト化 / 伝説化されて語られることの多いNO WAVEのシーン。その中でも、本作『NO NEW YORK 1984-91』は、1984~91年に起こった、視覚的なバッドテイスト(悪趣味)を以て社会への不満やハリウッドの商業主義に対する嫌悪がストレート に表現された、いわば映画におけるパンク・ムーブメント「Cinema of Transgression」(破戒映画)を中心にフォーカスする。
暴力・ドラッグ・性的倒錯・ブラックユーモアがスクリーンいっぱいに溢れ返るこのムーブメントの輪郭と内実を、当事者たちへのインタビューを通して明らかにしていく。
写真:リチャード・カーン
本作に出演している写真家リチャード・カーンは、フェティッシュなヌード写真を撮ることで知られ、かつて80年代のニューヨークで興った破戒映画と呼ばれるムーブメントの中で、映画監督としてその一翼を担っていた。“邪悪なカメラマン”と評され、リディア・ランチやニック・ゼッド等と共に、セックス・ドラッグ・バイオレンスを映像表現の核とする多くの作品を制作した。
「ニューヨークで暮らすなら、何者かにならなきゃダメだ。ただテーブルについても何も起こらない。脚本家や女優として肩書きを持つんだ。僕の場合は写真家と映画監督だった。そうやって肩書き通りの人間になれたんだ」
ソニック・ユースやフィータスのミュージックビデオを制作した後、写真に傾倒し、豊満でしなやかな肢体を持つ若い女性にハードコアや覗きの要素を共存させるというスタイルを確立する。現在ではカーンの影響を受けた若いアーティストたちが、こぞってその手法を取り入れている。
「僕が写真家という職業を選んだのは、他人を自由に眺めるためだ。相手が裸かどうかはあまり関係ない。いわば覗き趣味だね」
4月27日(月)より渋谷アップリンク・ファクトリーで公開される本作は、破戒映画のシーンを振り返り、検証していくドキュメンタリー映画であると同時に、カーンのアーティストとしての変遷を追った興味深い作品である。
また、NO WAVEシーンを読み解く4日間の豪華トークイベントもあるので、知っている人も知らない人もこの貴重な機会に足を運んでみよう。
『NO NEW YORK 1984-91』
2009年4月27日(土)より渋谷アップリンク・ファクトリーにて上映&トークイベント
監督・撮影・編集:アンジェリーク・ボジオ
出演:リチャード・カーン、ニック・ゼッド、ジョー・コールマン、リチャード・ヘル、リディア・ランチ、サーストン・ムーア、ブルース・ラ・ブルース、他
2007年/フランス/70分
配給・宣伝:アップリンク
※5月9日(土)~5月22日(金)アップリンクXにて限定レイトショー
公式サイト
※本作品には、性的または暴力的表現で刺激が強く人によっては非常に不快に思うシーンが含まれていますので鑑賞の際にはあらかじめご注意ください。
★豪華トークイベント開催★
・4月27日(月) 地引雄一(「ストリート・キングダム」著者)× ECD(ラッパー)
・4月28日(火) 中原昌也(ミュージシャン)× ジム・オルーク(ミュージシャン)
・4月30日(木) 鈴木章浩(映画作家)
・5月1日(金) 今野裕一(「夜想 yaso」主宰)× 浅井隆(UPLINK主宰)
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