骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2009-04-09 12:22


『風の馬』チベット連載第6回:モーリー・ロバートソンの『チベット・リアルタイム』【動画付き】

人気ラジオDJのモーリー・ロバートソン氏がwebDICE限定でチベット動画を配信します!
『風の馬』チベット連載第6回:モーリー・ロバートソンの『チベット・リアルタイム』【動画付き】
青海湖付近で出会ったギター弾きのチベット人

2007年、モーリー・ロバートソン氏はチベットのラサ等を訪れ、直接触れて実感したことを日記、写真、映像、音声等でレポートする企画『チベトロニカ』の総指揮を務めた。そこで撮った映像はYouTubeを使い、当時ほぼリアルタイムで配信され話題になった。しかし、まだ手元には未発表の30時間分のテープが残っている。今回、『風の馬』の連載企画として、その貴重な映像を順に紹介し、更にロバートソン氏の最新コラムをお届けする。


モーリー03

2007年2月、モーリー・ロバートソン率いる「チベトロニカ」チームは、成田から3度飛行機を乗り継いで青海省の西寧に到着した。海抜3000メートル級の土地で3日間の高地順応を行い、そこから青蔵鉄道に乗ってチベットに向かうというタイムテーブルだった。

写真:同仁・隆務寺のマニ車

最初に訪問したチベット文化圏は西寧から車に乗って3時間ほどの場所にある「同仁」という町。中国内の観光客やチベット人巡礼者が集まる寺院には、僧侶たちが生活する宿舎が山沿いに延々と続いていた。


紫外線の強い太陽光を浴びて、乳児から大人までがタフな生命力を見せつけるマーケット。まだ欧米化や開発の波が押し寄せていない静かな町で、露天市場に入った。この市場も、あと数年すると、中国のどこにでもあるようなショッピングモールに取って代わられるのかもしれない。しかし、嵐の前の静けさを思わせるように、エコロジーすら意識しないままで、適度な雑菌にまみれた路上のスローライフが展開されていた。

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写真:ゴールドに輝く千手観音

チベット・リアルタイム vol.1
チベットを考えるならモルドバを見よ

今お花見をすっ飛ばしてこの原稿を書いている。ウクライナに隣接する旧ソ連の国・モルドバがとにかく熱い。「次の波」が来ているともいえそうな気配だ。まさに「チベトロニカ」が予言したような事態が、画面とトウィッターの向こうで起きている。

まずはソースとしてこの「i-morley」のブログエントリーをご覧いただきたい。
http://i-morley.com/blog/2009/04/post_296.html

本日ただいま、2007年2月のチベット旅行を振り返る間もなく、先ほどからのブログの更新でHTMLをいじり過ぎて疲労困憊し始めている。英文の速報が西側のニュースに出ると、何時間か遅れて日本のニュースが掲載される。この繰り返しだが、日本語の記事はいずれも事の本質に立ち入らずに、いかにも国際社会を傍観するようなドライな論調で報道されている。現在進行形で流れているこの報道の質の落差を英語と日本語で見比べるだけで、今の日本のマスコミの姿が見えてしまうようだ。さらにあらためて、2年前にまだ静かだったチベット・ウイグル世界を徘徊した時に探索した情報の鉱脈が今さら「当たり」を出したかのような感がある。

英文記事を読むとニューヨーク・タイムズでもBBCでも「Twitter = トゥイッター」という情報サービスに言及がなされているが、4月8日の夜7時時点で、日本語の検索に引っかかるニュース記事は「親ロシア派の共産党が選挙に圧勝したため、抗議する学生らが暴徒化」といった紹介記事の範疇を出ていない。「Twitter」を使った結果、数百人規模を予定されていたデモが15000人級に膨れあがったことの意味合い、つまりニュアンスが日本語に翻訳される過程で脱落しているのだ。

つぶやきを配信する「Twitter」と友達作りを促進する「Facebook」は欧米でとても熱い個人メディアへと急成長している。日本では「mixi」がすでに定着している上、これらのSNSメディアはデザインがアメリカ式に大味なこともあってか、特に浸透していない。筆者も「雪の下の炎」監督の楽真琴さんから直接レコメンドされて先々週やっと(というか、いやいや)登録を済ませたばかりだった。そのタイミングでこの2つのツールが、隣国であるウクライナの「オレンジ革命」に次ぐ民衆蜂起の波を加速させているわけだ。

自分自身よくわからない「Twitter」の、モルドバ関連のフィードを見てみると、玉石混淆の情報がルーマニア語とモルドバ語と思われる言葉と英語で交互に流れている。今見たら、最新の書き込みは「今から20秒以内」が3つあり、なおも増え続けている。これは世界中からモルドバの事態に注目しているユーザーが「#pman」というタグを登録することでフィードを取得し、書き込んでいる。ということらしい。「2ちゃんねる」とどのように違うのかは、正直なところよくわからない。だが、「2ちゃんねる」のスレッドにネイティブな煽りや荒らしのパターンは特に見られず、世界中の人々がまじめに現場からの情報更新に反応し、民主化を応援しているようだ。「Atari Teenage Riot, Kids Are United! 」などというトーンの書き込みが飛び交っている。

「Twitter」のタグとなった文字列「#pman」はルーマニア語でモルドバの首都にある広場の名前「Piata Marii Adunari Nationale」から頭文字をとったアナグラムだが、この文字列は検索上位にするすると上っていき、4月7日時点では「アップルストア」や「エミネム」といったキーワードに並んでいるとのことだ。

参照記事へのリンク
http://neteffect.foreignpolicy.com/posts/2009/04/07/moldovas_twitter_revolution

モルドバの状況は刻一刻と市民による「Twitter」やSNSでのアップデート、そしてYouTubeへの画像投稿で報告されている。モルドバの国営テレビは、こういう時にありがちな例に漏れず、市民の主張と真っ向から食い違う編集内容の映像を流し、ロシア政府も「陰謀の可能性が強い」といち早く共産党政権を擁護する発言を繰り返している。モルドバ政府は首都の「Twitter」をシャットダウンし、政府見解と食い違うルーマニアからのテレビも受信を遮断したそうだ。先ほどYouTubeを検索していたところ、英語の字幕を載せる暇もなくルーマニアの放送局が撮影したフッテージなどが次々と投稿されている。 あまりに更新が早く、コメントがついていない映像ファイルが目につく。 また「Twitter」が遮断された後も携帯電話に切り替えて抗議活動の様子が報告されているらしい。この情報合戦は今、目の前で繰り広げられている。

モルドバの今と中国の近未来を、つい重ねて考えてしまう。中国の「金の盾」は、あちこちに虫食い状の穴が開いている。それはこの「中国の検閲を自宅で体験しよう」というFirefoxのアドオンで味わうことが可能だ。

China Channel Firefox Add-on
http://www.chinachannel.hk/

このアドオンを通してウェブを検索すると、Wikipediaのトップページは遮断されるが個別の記事への「直リンク」は生きている。また、BBCの英語版は見られるが中国語版は見られない。人海戦術と効率のいい心理戦で検閲をかけている中国のプログラムが徐々にほころんでいるのがわかる。

中国政府は青蔵鉄道を旗印に、チベットを中国に同化させるためのインフラを整備している。このインフラ整備と経済発展こそがチベット世界を吸収してしまう決定打になると言われてきた。政治的な弾圧だけではなく、中国の便利さと資本主義が最終的にチベット人とチベット文化を淘汰してしまうことが懸念される。しかし、通信インフラが充実し、ラサに光ファイバー網が広がると、政府がひとつひとつ監視・検閲できないようなスピードで情報が出入りするようにもなる。漢族にとっての豊かさや便利さが同時にコントロールし切れない領域をも生み出し、その領域は進化を続けている。この二面性はもはや、宿命と呼んでいいだろう。

中国政府の高官には、国際的な水準で評価してもピカ一の人材が多い。彼らはこの瞬間、ロシア語・ルーマニア語・英語のスペシャリストを動員してモルドバの行方を注視していることだろう。そして「Twitter」や「Facebook」を検閲・誘導するシステムの開発にも着手していると見ていい。ゲームの1ラウンド目が始まったばかりなのだ。

(文:モーリー・ロバートソン)

【関連リンク】
i-morley
チベトロニカ


『風の馬』
2009年4月11日(土)より渋谷アップリンク他、全国順次ロードショー

監督・脚本・編集:ポール・ワーグナー
出演:ダドゥン、ジャンパ・ケルサン、他
1998年/アメリカ/97分
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト

公開記念トークイベント開催!

・4月12日(日) モーリー・ロバートソン(ラジオDL)×福島香織(産経新聞記者)
・4月18日(土) ツェリン・ドルジェ(在日チベット人・SFT日本代表)×渡辺一枝(作家)
・4月19日(日) 野田雅也(フォトジャーナリスト)
・5月2日(土) 石濱裕美子(早稲田大学 教育・総合科学学術院 教授)
※イベント詳細・予約についてはコチラから



『雪の下の炎』
2009年4月11日(土)より渋谷アップリンク他、全国順次ロードショー

監督:楽真琴
出演:パルデン・ギャツォ、ダラ・イラマ法王14世、他
2008年/アメリカ・日本/75分
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト
★公開記念トークイベント開催!詳しくはコチラから


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