骰子の眼

music

東京都 渋谷区

2009-04-02 17:14


「ステージを“フレーム”として全体が見られる環境にしたかった」 小山田圭吾(コーネリアス)インタビュー

世界のメディアやクリエイター、ファンから高い評価を得たワールドツアー『SENSUOUS SYNCHRONIZED SHOW』のライブ映像作品がまもなくリリース。
「ステージを“フレーム”として全体が見られる環境にしたかった」 小山田圭吾(コーネリアス)インタビュー

4月22日にDVD『SENSUOUS SYNCHRONIZED SHOW』をリリースするコーネリアス。THE CORNELIUS GROUP名義で06年から2年間に渡っておこなわれた日本、オーストラリア、ヨーロッパ、アメリカで絶賛を浴びたワールドツアーの決定版として、08年東京国際フォーラムのライブ映像を収録。演奏、演出ともに高密度でクオリティの高いパフォーマンスに、思わず誰もが口々に「fantastic!」と言いたくなるのも当然だろう。4月3日は渋谷アップリンク・ファクトリーで完成記念プレミア上映会もおこなわれ、発売が待たれる中、この作品について小山田圭吾氏に話を訊いた。


お客さんから手渡されたのは、なぜか1ドル札(笑)

── DVD『SENSUOUS SYNCHRONIZED SHOW』をリリースする構想は最初からあったのですか?

sensuousジャケット

そうですね。音源として06年に出したアルバム『SENSUOUS』があって、DVD『sensurround+B-sides』という5.1chサラウンドと映像の作品があって、最終的にライブ・パフォーマンスを収めた作品があって、というのは最初から考えていて。前作の『POINT』(01年)のときは、プロジェクトを進めていくなかで副産物的にライブツアーのDVDができあがっていったんですけど、今回は最初から想定しながらつくりたいというのがありました。

── 昨年3月におこなわれた国際フォーラムでのライブが収録されていますね。

ツアーでいろいろな国をまわって、最終形態に近いパフォーマンスを収めたいと思っていたので。前回のPOINTツアーのライブDVDは、各地でハンディカメラで撮った画質の荒い映像を、一本のタイムラインの上にどんどん乗せていって、いくつもの会場のライブが混在しているようなものだったんですね。コーネリアスのライブはクリックを使っているので、どこの会場のライブを音の上に乗せていっても必ず合うようにできているので。でも、今回はそういうのじゃなくて、ひとつの会場で高画質なカメラを用意して、一本のライブ・ドキュメンタリーに近いものにしたいなと思ったんです。


── オールスタンディングの会場ではなく、国際フォーラムでおこなったのはどういう意図があったのですか?

最初に日本ツアーをやったときはライブハウスだったんですね。何回かツアーを繰り返していくうちに、今回はホールという形で見せる方がいいのかなってだんだん思い出してきたんです。ライブでギュウギュウになって立ちながら見るよりも、座ってステージをフレームとして全体が見られる環境で見てもらいたいなと。

cornelius_SSSDVDジャケット
『SENSUOUS SYNCHRONIZED SHOW』のイメージに合わせて東京国際フォーラムでの座席が色分けされた

── ライブをする場所によって意識的な違いはあるんですか?

ツアーをたくさんやっていると、ライブハウスもあればギャラリー、ホール、野外などいろいろな場所があるので、そういう意味であればどこも違う。ここ数年のコーネリアスのライブはそういうことも考えながらプログラムをつくっていて、どの会場でも同じようなスタイルでライブができるようなシステムで動いています。お客さんや雰囲気という意味では違うものなんですけど、やっている内容自体はそんなに変わらないですね。

── どんな場所でライブをするのが好きですか?

それぞれ違った面白さがあると思うんですけど、ホールだったら環境がいいですよね。たとえば、音響面とか映像を投射する角度とか微妙なとこを細かく調整できる。だけど、フェスだとリハなしで「はい、次」みたいな感じで出て行かないといけないから。会場によっては映像が斜めになったりすることもあるんですけど、そういう野外ならではの雰囲気でお客さんの感じが面白かったりするし。小さいライブハウスでやるときは、映像も照明もすごく小さくて何が何だかわからないという状況なんですけど(笑)、お客さんがすごく近くにいるから逆により普通のロックバンドっぽいライブになる。会場によっていろいろ面白さがありますね。

── 海外のお客さんはすごく盛り上がっていて、日本とはまた違う反応がありますね。

海外の人は感情をストレートに出すので、それはそれで楽しい。でも、日本も独特の緊張感が逆に面白かったりします。ホールでやったときも、曲間のとき誰も音を立てないみたいな瞬間、沈黙が訪れるんですよね。それってすごいことだなって(笑)。何千人もの人が物音ひとつ立てず。外国だったら絶対ありえない。関係ないところを見て友達と喋ってる人とかいるのに、日本人は集中力みたいなものが異常だなというか、逆にすごいなって。

live-国際フォーラム02
THE CORNELIUS GROUPは、堀江博久(keyboard)、清水ひろたか(bass)、あらきゆうこ(drum)、小山田圭吾(vocal&guitar)の4人編成から成っている

── 印象に残っている場所はありますか?

LAでやったライブは毎回お客さんが変で印象に残っていますね。ライブが終わって前に出ていったら、お客さんから何かを手渡されて何だろうと思ったら1ドル札(笑)。テルミンをお客さんに弾いてもらうコーナーのときは、大体僕がお客さんを選ぶんですけど、勝手にステージにバンバン上がってきてテルミンの前でスタンバってるとか(笑)。

── テルミンを弾いてもらう人は、どのように選んでいるんですか?

最前列で前に出てきやすい人の中で、キャラ立ちしてる人(笑)。

── そういうコーナーを設けるのはコミュニケーション的なところで?

そのシーンが記憶に残るんですよね。あの人が出てきたライブ、といったように。いろいろな土地で毎日ライブをやっていると、どこがどこだがわかんなくなっちゃうんですけど、テルミンのときにステージに上がった人っていうのはすごく近くにいるので記憶に残りやすいんですよね。淡々とライブが進んでいく感じなので、お客さんとコミュニケーションがとれる時間があると楽しいなと思って。

── それが始まると、今までの流れがゆる~く崩れますよね。そのバランスが面白いと思います。ちなみに、ひとつ気になった映像があったのですが、ディズニーホール前で凧揚げをしようとしていたのは何だったんですか?(*詳しくはDVDでお楽しみください)

凧揚げしながらの取材とかいう無茶な企画を立てられていて(笑)。それも全然知らされていたような、知らされていないような感じで。現場へ行ったら、自分の顔をプリントされた凧が用意されていて(笑)。これを今から揚げてって言われて、あんな都会のど真ん中で何回も走らされた(笑)。ディズニーホールの建築が面白いので、そこに凧が揚がっている写真を撮りたかったみたいですね。

一人一人が音を出している瞬間をフォーカスすることに意識した

── 映像の中のインタビューで、「言語は違ってもビジュアルによって音楽の内容が伝わりやすくなる」と言われていましたが、実際映像を使うのと使わないのでは反応は違ってくるものなのですか?

コーネリアスとして海外ツアーを始めた頃から映像を使っていたので、使っていないと伝わらないかというのは実はわからない(笑)。使わない曲も何曲かあるんですよ。たいして違わないかも(笑)。でも不思議なのが、海外でライブをやるとお客さんが適当な感じで一緒に歌ってくれるんですよね。日本では一緒に歌うなんて、コーネリアスの場合はまずあり得ない。逆に海外の人が歌ってくれると面白いですよね。

── YouTubeにツアーのときの動画がたくさんアップされていましたが、会場内は撮っても大丈夫な状況だったのですか?

アメリカツアーのとき、幕がパッて落ちると、みんな一斉に携帯で撮ってるんですよね。アメリカではカメラ撮影はそんなに厳しくないみたいで。その日ホテルへ帰ってYouTubeを見てみると、もうその日のライブが何本かアップされていて。結構面白いから日本でも今回撮影OKでやってみたんです。いつもライブのときにはカメラを立てるんですけど、PAの位置での角度なので固定のアングルしかない。だから、客席の中からのアングルって見たことのないから、面白いですよね。お客さんが外に並んでいるところからチケットを切って、会場に入って、一番前に行って演奏者を撮るというその一部始終がアップされてたりもして。

お客さんが撮った動画がYouTubeにたくさんアップされている↓

── 国際フォーラムでもお客さんは撮ってましたか?

たぶん撮ってたと思いますよ。日本人がいいなって思うのは、いいって言ってるのに気遣って撮らない(笑)。でも、ホールだと特にマナーは気になるじゃないですか。ガンガン撮ってたら隣の人が引いちゃったりとか。その辺の節度がちゃんとある感じでしたね。

── 音と映像をシンクロさせるのにモニターでクリック音が鳴っているそうですが、どのような仕組みなのか詳しく教えてください。

マスターのDVDに映像が入っていて、DVDの音声トラックはサウンド用に6チャンネル(5.1ch)あるんです。その音声トラックにクリックという、曲のテンポに合わせた音が4トラック入っている。クリックにも何種類かあって、普通にピッピッとキープしているのと、ブレイクやキメが入る前に細かい伯数で入っているクリックが違う音声で入っていたり。あと、曲が始まる前に次の曲をアナウンスする音声が入っていて、あとの2トラックにSE的な、たとえば水の音とか演奏で再現できないような音が入っている。そのうちのクリックの4トラックを2トラックにミックスしたものを、ドラムのあらきゆうこさんが聴きながら叩いているんです。フロントの3人は何もクリックを聴いてなくて彼女のカウントに合わせて演奏しています。

── それで音と映像がピッタリ合っているんですね。

たぶんいろいろなやり方があるんですけど、一番ポピュラーなのはコンピュータで映像と同期させる。もしくはVJのように、同期ではなくて、演奏に対してリアルタイムで映像を出していてというのが多いと思います。コンピュータは安定性に不安があるので、ずっとDVDでやっていて。それ以前はVHSでやってました。VHSは2トラックしかないから、片方にクリック、片方にSE的なもので。その頃はDVDを簡単に制作する技術はなかったし、コンピュータは映像を出すパワーはなかった。

── 会場が変わるたびにリハーサルは大変じゃないですか?

みんな場数を踏んできているので、何とかなる感じにはなってますね。

── 失敗して音と映像がズレたりすることはありますか?

結構ありますよ。特に演奏がまだ固まってない初期のライブだとかは、一回音を見失って戻れない感じでそのまま最後までいっちゃったりとか。今回のアルバムの曲は、普通の頭拍にドラムを打つところにドラムが入ってなかったり、演奏の拍をズラして構築されている曲だったりするので、頭拍を見失うと輪の中に入れなくなることがあって演奏がバラバラになることもありますね。

国際フォーラム03

── 今回DVDの編集のディレクションをされたそうですが、どこにこだわりましたか?

楽曲の構造をわかっている人間が編集をした方がいいかなっていうのはずっと思っていたんです。前回もディレクションはしたけど100%自分でカット割りを進めたわけじゃなかったから、今回は全部ディレクションをしたいなと。たとえば、誰かが音を出している瞬間に、違う人間が映っていたりすると音の伝わり方もだいぶ変わってくるような気がするんです。自分のライブをテレビ局が放送してくれるときに、カット割りは編集している人のリズム感でできているので、そこがどうにも自分的にひっかかるときがよくあって。楽曲の構造を理解している人がカット割りをやるのと、楽曲を初めて聴いた人がその場のノリでやるのとでは全然違う。コーネリアスでは、同時に音をなるべく出さないふうにつくられている曲があって、それを実際にステージ上で4人を一辺に見ているとあまり理解できないところを、一人一人がちゃんと音を出している瞬間をフォーカスしながら見るのとでは、また見方が違うと思います。そういうことは意識してカット割りをつくりましたね。

── 確かにカット割りを徹底されてる印象を受けました。

演奏している手元と、出している音が一致するみたいなことなんですけど。映像と音楽のシンクロっていうのは前の『sensurround+B-sides』で見せることができたと思っているので、より演奏と音がシンクロすることの方にフォーカスされています。

── 4月3日にはアップリンクで先行上映会がありますが、みんなで一緒に観るということに関してはどう思いますか?

ていうか、僕も観にいきたいな。どういう状態なのかなって。昔フィルムコンサートってありましたけど、そういう状態ですよね。X JAPANのフィルムコンサートがすごいらしいですね。お客さんが映像相手にジャンプをするっていう(笑)。

── 小山田さんの近況を教えてください。

オノ・ヨーコさんの『プラスチック・オノバンド』のレコーディングを手伝っていて、先月NYで一週間程レコーディングをしてきました。それのミックスや編集を今やっているところです。

── 5月にはメキシコへツアーに行かれるんですよね。

メキシコとアメリカ西海岸のショートツアーです。ほんとはもう終わりのつもりだったんですけど(笑)。メキシコに行ったことがないので楽しみですね。もしかしたらあと何本か行ってない国だけはやらなきゃならないかもしれないけど。日本はしばらくないと思います。

── 今後のコーネリアスはどう進化していくのでしょうか?

どうしましょうかね(笑)。とりあえず、コーネリアスに関してはライブをやりますが、随分やってきてちょっと飽きているのでライブで新しいことができたらいいですね。あとは『プラスティック・オノバンド』であったり、いくつかプロジェクトがあって、それが終わったら自分のレコーディングに取りかかろうと思っています。

(構成:倉持政晴 / 取材・文:牧智美)

コーネリアス公式サイト
Warner Music Japan


【最新作品】

cornelius_SSSDVDジャケット

・DVD『SENSUOUS SYNCHRONIZED SHOW』
2009年4月22日発売

08年3月30日東京国際フォーラムで行われたLIVE映像と、近年のTV出演時の映像を収録したDVD2枚組作品。
価格:5,900円(税込)
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CM3

・Album『CM3』
2009年4月22日発売

コーネリアスによるリミックス作品集。CM(Cornelius Mix)シリーズ第3弾。6年ぶりに新作発売。
価格:2,520円(税込)
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【関連イベント】

Cornelius『Sensuous Synchronized Show』完成記念プレミア上映会
2009年4月3日(金) 19:30開場/20:00上映

会場:アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F)[地図を表示]
料金:1,000円(1ドリンク付)
※予約受付は終了いたしました。当日券は開場1時間前より受付けいたします

キーワード:

コーネリアス / 小山田圭吾 / SENSUOUS / CM3


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