写真:アリアス監督(右)、宇田プロデューサー(左)。ジャニーズ事務所は所属タレントのネットでの写真掲載を禁止しているので、主役の長瀬智也さんと福田麻由子さんに代わってポスターの絵柄のポーズをとってもらいました。
オープニング、日本のどこにでもある町工場の風景、そこに肩を怒らせながらどこか不満そうに歩いてくる若者(長瀬智也)。そのシーンにエレクトリニック・ミュージックが被ってくる。なんでもない風景が “映画”になる瞬間を見る事ができる。
『鉄コン筋クリート』のマイケル・アリアス監督の『ヘブンズ・ドア』のオープニングは、洋画でもない、これまでの邦画の絵でもないショット。それは、いつもの街をiPodでテクノを聞きながら歩くと、いつもと違った風景に見える感覚を体験するときの気持ちのよさを感じさせてくれる。
オリジナルは、99年に日本で公開されたドイツ映画『ノッキン・オブ・ヘブンズ・ドア』。物語は死を宣告された男女二人が病院を抜け出して海を見に行くという超シンプルなロードムービー。病院を抜け出してすぐに渋谷で買い物するので、思わず「海を見に行くのなら、そのままレインボーブリッジを渡ってお台場にいけばいいじゃん!」と突っ込みたくなるが、二人はなぜか遠回りをして海を見に行く旅を渋谷から始めるのだった。実際、企画段階で渋谷からお台場に行き、「俺が見せたい海はこんなんじゃない!」といって別の海に行くという案もあったという。
宇田充プロデューサーとアリアス・マイケル監督に企画段階から完成迄の話を映画のように一気に語ってもらった。
(インタビュー:浅井隆)
(C)2009アスミック・エース エンタテインメント/フジテレビジョン/ジェイ・ストーム
『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』のテーマやストーリーを活かしながら、オリジナルな新しいものを作りたかった
── まず、企画が立ちあがるまでの話をお聞きしたいのですが。宇田プロデューサーとアリアス監督はいつ出会ったのですか?
マイケル・アリアス監督(以下、監督):『鉄コン筋クリート』(以下、鉄コン)のパイロット版をつくって売込みとかをしていたとき、宇田さんと僕の共通の知り合いから「映画会社で働いている友達がいるんだけど会ってみるか」と言われて、初めて宇田さんと会いました。
宇田プロデューサー(以下、宇田):僕は、ちょうど『ピンポン』の頃でした。
監督:99年にパイロット版をつくって。宇田さんもアスミックに入って2~3年目くらいでしたね。
宇田:『鉄コン』は紆余曲折のある企画で、当初は『ピンポン』と同時期公開かもと思って、アスミック・エースでできないかなと。でも『鉄コン』のチームもいろいろ変わっていきましたが、最終的にアニプレックスさんが幹事でやるという決断をされて、アスミックで配給御一緒するつなぎ的なことをさせていただきました。
『ヘブンズ・ドア』より (C)2009アスミック・エース エンタテインメント/フジテレビジョン/ジェイ・ストーム
── ボイスキャストは、宇田さんが関わって行ったのですか?
監督:ちょうど宇田さんが『さくらん』のプロデュースで忙しくて、途中で抜け出してようやくアフレコの準備をするときに戻ってきたんです。
宇田:幹事会社がアニプレックスさんで、制作プロダクションは4℃さんでしたので、たまに製作委員会に出させてもらってたんですけど、僕は配給チームではなく、製作チームでしたので具体的にすることがあまりないこともあって。音楽とか声優をキャスティングする部分で、特に主役のシロとクロのイメージについてディスカッションさせていただきました。
監督:個人的に、あまり声優らしい声優さんにお願いしたくないから誰がいいのかなって相談して。
宇田:いろんなサンプルを見てもらいまして、監督も委員会も第一希望の二宮和也さんと蒼井優さんに見事に決まりましたよね。
── で、『鉄コン』が公開して、その当時から今回の『ヘブンズ・ドア』の企画をやろうとしてたわけですか?
宇田:初めにお会いした頃から実写にも興味があるということ、その時はいままでやっていらっしゃることも実写方面が多かったというので。
── どんな実写を撮ってたんですか?
監督:実写というかエフェクトをやっていたので。実写映像を加工していく、つくりものの仕事でした。日本に来る前、『アビス』や『トータル・リコール』とか割と大作映画の現場にずっといたんです。尚且つ、自分はアニメーターじゃないから、『鉄コン』はアニメーションがマストというよりかは、アニメーションでしかつくれないというものにしたかった。そして、『アニマトリックス』があって、プロデューサーの田中さんともいい関係ができていましたし、4℃という現場に仲間入りできたので、そういうのが揃ってできたんですね。
── 宇田さんは、最初に『ヘブンズ・ドア』の企画はマイケルに会う前に立てたのでしょう。
宇田:その前に『真夜中の弥次さん喜多さん』という映画を撮影しているときに、プロデューサーの原藤さんと撮影中に「好きな映画なんですか?」って話から、彼のフェイバリットが『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』で、ぼくも劇場で観ていたのであれはよかったですよねと話していて。そのころはコミック原作が多いと言われてるような時期だったので、コミックだけでなくて過去の映画をアダプテーションするっていうこともいいんじゃないのかなって雑談で。おそらく原藤さんの発案がきっかけだと思うのですが。ちなみに、「あの男かっこよかったよね、長瀬くんみたいだったよね」っていう話も。もちろん、そのとき長瀬さん本人には言ってないですよ。なにより、ドイツ映画を元に日本映画を作るのって、すごくチャレンジングですよね。
── それを本気で動かそうと思ったのはなんだったのですか?
宇田:『真夜中の弥次さん喜多さん』の撮影が終わって、あらためて、やはり打診をしてみる価値はあるんじゃないかと。
── そのリメイクはどこに聞いたのですか?
宇田:うちの国際チームの池田が日本にセールスした会社に問い合わせました。セールス会社から権利元のところに聞いてくれて。逆に、「ぜひやってほしい。そんな話は初めてだ。うれしい」と。その時点でお金はこれくらいでどうでしょうかと提示していました。
── それですんなりとOKをもらったのですか?
宇田:そうです。実際にマイクさんが『鉄コン』の上映でベルリン映画祭に行っているときに、私も『さくらん』でベルリンに行っていて。原藤さんは『硫黄島からの手紙』で行っていて。ドイツ映画のプロデューサーにお会いしました。
── そのときには権利を買う契約は終わっていた訳ですか?
宇田:基本条件はできていて、契約もドラフのやり取りをしている段階でした。
── その時点ではいわゆる原作権を買ったという事ですよね。
宇田:日本での小説やコミックの一般的な原作権料くらいの金額です。
── 脚本の大森美香さんはマイケルより先に参加しているのですか?
宇田:大森さんが先でしたね。
── どうして大森さんにお願いしたのですか?
宇田:そもそも原作映画が非常によくできているんです。ゲルマン民族の男くささや色気に同じハードボイルドで勝負してもダメじゃないかと。そこで、ストーリーがいいっていうことを考えたときに、日本に勝負権があるのは日本らしいロマンチストな部分じゃないかと。男女の話にすると。ただし原作同様に恋愛に陥らない人間同士の話がいいんじゃないかなと。友達以上、恋愛以上の人間同士の絆というか。女性からも観たいと思ってもらえる要素としても。そこで、同じく女性も魅力的に描ける人、そして疾走感が大事じゃないかなということで、プロデューサー陣で大森さんにお願いしたいと。
── 大森さんのどこが気に入っていたのですか?
宇田:やっぱりスピード感と会話の魅力ですね。ドライブ感あふれるストーリーを作れる方だと思います。ちょうどそのとき『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』というドラマがオンエアしている時期でしたね。
── 大森さんに話してどうでしたか?
宇田:すごい気にいってくれました。
── そこの時点でまだマイケル監督は入っていないのですか?
監督:聞いてない(笑)。
── 原作権を契約して、脚本家も決まり、じゃあ次は監督をどうするか、ですよね?
宇田:いろんな監督の案を出している中で、プロデューサー・チームで求めている主人公2人の関係性って、ひょっとしたら『鉄コン』でのシロとクロの関係性に近いんじゃないかと。対照的な二人の絆みたいなところはマイクさん好きじゃないかなっていう感じが漠然とあったので、ご相談したんです。
── どこで最初に?
宇田:『鉄コン』が公開してちょっとしてからですよね。
監督:宣伝がアスミックだったから、僕はほぼ毎日会社に来ていました。
── こういう企画があるんだけどって言われたんですか?
『ヘブンズ・ドア』より (C)2009アスミック・エース エンタテインメント/フジテレビジョン/ジェイ・ストーム
監督:一回ちょっと前振りがあってベルリンで『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』のDVDを渡されて。しかも日本語吹き替え版だった(笑)。
宇田:もう廃盤だったんですね。VHSから落としたもので。
監督:ものすごく違和感があって、その時点でちょっと…
── 実際映画のプレスの文章に、観てピンとこなかったと書いてますね。
監督:吹き替えも大きかったかも(笑)。
── 俺、これやるのかって思ったのですか?
監督:俺がやると失敗するな….みんなに迷惑かけたくないじゃないですか。だけどどうしても『鉄コン』から間を空けずに、次に何をやるのか迷わないように突入した方がいいなとは思っていたんです。けっこう宇田さんや社長の豊島さんともそういう話をしていたので。なんとなく少しずつ(笑)。話は面白いし、映画として普通に泣けたし笑えたし。ただ、僕が次にやるのはリメイクかって…(笑)。いろんなこと考えるじゃないですか。この先1年間かけて作る必要あるのかなぁって…だって映画はもうできちゃってるから。ユニークな何か要素がないと、あまり作る意味がないじゃないですか。
『ヘブンズ・ドア』より (C)2009アスミック・エース エンタテインメント/フジテレビジョン/ジェイ・ストーム
── ベルリンではOKしなかったのですね。
監督:実際にOKしたのは3~4ヵ月後です。
宇田:どっちみちプロットをつくっていくので、ほんとに監督をやるかどうかは別で、マイクさんにはプロットづくりには参加してもらって、違うなって思ったらなしでもいいんじゃないかということからスタートしました。
── 監督はどこでやるって決めたのですか?
監督:一回目、初めて大森さんと会ったときは雑談を含めて、具体的なこういうふうにしようかとか、アイデアはみんなで出し合ってブレインストーミングをして、それを受けて大森さんが書いて。2~3回会っているうちに、宇田さんから「今度会うんだったら、やる前提ですよね」って言われていて。やっぱり自分のアイデアもそこに組み込まれていくとやる気になるじゃないですか。あと、大森さんとのキャッチボールがすごく面白くて、毎回会うのが楽しかったんです。それに『鉄コン』が完成して一年経ってるから、そろそろ次がはっきりしていないとやばいなっていう感じもあって。
── 宇田さんは打ち合せを進めれば監督を落とせると思っていたと(笑)。
宇田:クレジットで原案と書いているのは、契約自体も映画の元になった脚本をベースに新たな映画をつくりますっていう契約なんですね。だから、コピーするようなリメイクするっていうスタンスじゃなく、原案のテーマやストーリーを活かしながら、オリジナルな新しいのを作りましょうという打ち合わせでしたから。大森さんも自分で監督されるので、やはり監督がどうしたいかということはすごく重視していたと思います。
子どもの頃に観ていたシネスコサイズで、70年代前半のような雰囲気を出したかった
── 長瀬智也さんはどの時点で決まっていたのですか?
宇田:当初プロデューサー・チームではイメージがあって、監督的にもいいじゃないかということで。
監督:でも会ってみないとわからないと思って。
宇田:会うっていうのが重要なので、ある意味お互い面接的な感じだったかもしれませんね。
── 一発でOK?
監督:彼の出演しているのを見ても、この『ヘブンズ・ドア』の話には参考にならない。たとえばTOKIOのライブやバラエティ番組を見ても仕方ないし、他のキャラクターを演じているのを見ても同じではないから。なんとなく彼の得意分野とか、向き不向きはわかるけど会ってみないと、この先一緒に付き合えるかかどうかわからないと思ったんです。でも実際に会って、逆に僕があがって緊張しちゃって、そのテンションを彼がクールダウンさせてくれたからすごくホッとして、これだったら一緒にやって楽しそうだなと思いました。
『ヘブンズ・ドア』より (C)2009アスミック・エース エンタテインメント/フジテレビジョン/ジェイ・ストーム
── プロダクションノートによると、脚本に意見を言ったり打ち合わせをしたりされたそうですが、長瀬さんはそういうタイプなんですか?
宇田:普段はそんなことないと思うのですけど、この企画はすごく気に入ってくれてというところだと思います。熱かったですね。ドイツ映画も好きだし、ボブ・ディランの曲も好きだしと。
監督:自分の代表作にしたいと言っていたから。
宇田:これは想像ですが、普段ドラマだと台本ができるのが撮影の直前というのが多いのではないかと思いますが、映画は撮影の半年前くらいには台本がありますよね。それ自体も面白かったのかもしれませんね。
── ビスタサイズじゃなくてシネスコにしたのもすごくいいなと思いました。
監督:やっぱり映画はシネスコでしょう(笑)。とくに今回は、自分の中の計算なんだけど、やっぱり画角はシネスコがいいと一番思います。ニューシネマっていうと違うけど、70年代前半のようなテイストで、日本でできたらいいなと思って。自分が小学生の頃に観ていた映画はほとんどシネスコで、そういう雰囲気が少しでもだせたらいいなと。つっこみどころが満載で、この話はどこで破綻するのかっていう緊張感があった『サンダーボルト』とか『ゲッタウェイ』『スケアクロウ』とか、あの頃の映画ってヘンなセンチメンタルな匂いもあって、シネスコが一番合ってるのかなって。
そこにあるものを使ってどう表現できるか。『鉄コン筋クリート』と真逆の体験をしたかった。
── 監督にいきなりこの企画を任すのは不安はありませんでしたか?
宇田:僕自身もプロデューサーとしてはまだまだなので。あくまで一般的な決済者の方が安心感をもたれるのがトラックレコードだと思うけれども、自分自身はまったく真逆で、なるべくインディーらしく、メジャーではできないような新しいことをやりたい、新しい人とやりたいとは思っています。監督や脚本家にも今までと同じことを求めるのが一番やりたくないですね。今回、プロデューサー・チームみんながチャレンジ好きなメンバーでしたので。フジテレビさん、ジェイ・ストームさんとの3社でなかったら、マイクさんの実写を製作するのはできなかったかもしれないですね。
── 宇田さんは撮影された映像を最初に現場でモニターで見れるわけですが、毎回見ていたのですか?
監督:ずっと現場に付きっきりだったので、プレビューをみたりしたよね。
宇田:スコープにしては寄りすぎじゃないかとか?
監督:モニターで観てると、絵コンテと同じで、コマが小さく画角の感覚が大画面と極端に違う。僕は、ずっと『鉄コン』も『アニマトリックス』もシネスコだったから慣れているんだけど、生の人間を映すときに大きい画面で見ると毛穴まで映るよねっていう話をしていました。
(C)2009アスミック・エース エンタテインメント/フジテレビジョン/ジェイ・ストーム
── 絵コンテを書いたけど、現場ではあまり使わなかったとプロダクションノートに書いてありました。どんどん現場でやっていって変わっていったんですか?
監督:実写の場合、絵コンテはアニメーションと違って完成形を描く道具ではないと思うんです。あくまでも思いを伝えるものだったりとか、あくまでも説明するための材料。あとはその雰囲気を大事にしつつ、そこにあるものを使ってどう表現できるかっていうのに今回は挑みました。完成したイメージっていうのには、あまり捉われないで、とにかく突き進むように撮っていって。一方で、それはとてもストレスの高い状況だけど。撮影時に自分はこういうネタがあれば何ができるかとか、これさえあれば自分は音楽とか編集とかしていいものができるかといった自分の中のラインが見えてきているんですよ。だから『鉄コン』を作る時と、なるべく真逆の体験をして作りたかったんです。
── 今回のプロジェクトに満足していますか?
監督:もちろん、予算は倍にこしたことはないけど(笑)、今回はSONYF900でしたけど、F35とかViperのカッコイイ機材を使いたいけど、でもそういうのは映画を観る側はあんまり感じないことだっていうことは実感しています。観客に解像度なんて実はあんまり関係ない。デカイ画面で観ても、素人がみて感じる映画っていうのは僕たちに分からないものだと思うんですよ。僕たちはピクセルが気になるからどんどん解像度をあげたいんだけど、音に関しても観てる人はサラウンドサウンドなんてステレオでもモノラルでもOKなはず。昔からの映画って今観ても弱いと感じないし。テレビで見ても音でかくすればいいんじゃないのって感じで見ちゃうから、それを知っているとあまり文句は言えないね。すごくいいスタッフを付けてくれたし期間もあったし。
── 何ヶ月撮ったのですか?
宇田:2ヶ月間なんですけど、撮影実数は約40日。
── 常時カメラ2台でまわしてたんですよね。
監督:常時ステディカメラもあって。
── わりと贅沢ですよね。
監督:いろんなオモチャがあった方が遊べるかなって(笑)。
宇田:クレーンが使えなかったのが残念でしたね。
監督:暴風で使えなかったんです。それはちょっと残念でしたが、あとはロケーションとか衣装とかキャスティングもよくて。
(C)2009アスミック・エース エンタテインメント/フジテレビジョン/ジェイ・ストーム
宇田:うまく伝わっていましたよね。絵コンテで監督イメージがある程度共有されているので、カメラマンは「こういうの好きなんでしょ?」ってマイクさんに常に言ってましたよね。
監督:絵コンテ通りにはなっていないけど、一緒にチームにやっている人は『鉄コン』を参考にしてくれたりとか、なにげに見てくれているんですよ。「俯瞰好きでしょ?」とかって(笑)。
宇田:驚いたのは、人じゃなくて物撮りとか景色もいっぱい撮っていたんですけど、監督が撮っているのはもちろんなんですけど、監督がいないときも撮ってきていたので。「灯台撮ってきます」という感じで。そういう方向にまで発展しましたね。
── プロデューサーとしては監督に満足していますか?
宇田:正解じゃないですかね。
── 仕事として予想通りだったのですか?
宇田:もちろん予想がつかないところがあるからこそやりたいと思って。こうなるかなーと思ったら違う形で、なるほどこうなるのかって。
── 撮影後のポストプロダクションは5ヶ月かけたとか?
監督:のんびり(笑)。
宇田:十分ですよね。短い短いと言ってたんですよ(笑)。アニメに比べればプリプロ(ダクション)も9月からやっていたんで、それだけあったら多い方ですよね。
── 撮影後に映像の加工とか処理があるんだったらわかりますが。
監督:ないですね(笑)。今回はバリバリの編集マンに任せることもしなくて、なるべく自分でやっていますし、もちろん『鉄コン』のときにやった人とも一緒で、交代交代でやりました。音楽もSEもそれぞれのチームと一緒にやっているから、逆にそういうのが僕にとって一番楽しい。
── 締切はなかったんですか?
監督:ありましたよ。最初から僕が長くみんなでやりたいとお願いしたので、そういうフォームを組んでもらったんです。なるべくSE(効果)の人が隣の部屋ぐらいの距離にあるように。
宇田:あれはいいですね。編集している隣の部屋でSEを作っていて、最終的には音楽も作って。
監督:これは別に特別なシステムじゃなくて、そういうところをそういうふうに作ってもらったんです。『鉄コン』のときも、4℃の事務所の中に吸音材を壁にはって、元会議室を音響監督の部屋に変えてもらったりとかしてました。「ちょっと聞きにきてくれる?」とかっていわれて隣の部屋へ行ってきたり、「あそこのカットはなくなったよ」とか、そういうフィードバックはリアルタイムでできました。あとは音響監督と編集担当とCGとみんなで共同生活に近い感じで。音響監督はアメリカ人で週末は一緒だし、そういうのがやって楽しいし、プロデューサーから見てどうかは別として、すごくやりがいのある環境がありましたね。
宇田:編集マンがいて、隣のテーブルはVFXの作業していて。後ろ見たら音楽をやっていてという。
監督:常にお互いのやっていることは把握して。常に見てる方向が一緒だっていうことが、作品の密度につながっている気がします。
── 高校生くらいを最初にターゲットにしていたということですが。
宇田:ターゲットは、ターニングポイントを迎える人じゃないかなと思っています。高校三年生だったら受験がある、これから人生どうしようかと考えるじゃないですか。大学三年生くらいの就職活動とか、30歳くらいの女性だと仕事か、結婚とか子どもがほしいのかとか、そういうターニングポイントを迎える人が一番感動してもらえるんじゃないかなと思っていたんですけど、この秋からいろんな不況が起きてくるとみんな全体的にターニングポイントじゃないかという感じがしてきて(笑)。ある意味、時代にマッチしてきたんじゃないかと思います。
(C)2009アスミック・エース エンタテインメント/フジテレビジョン/ジェイ・ストーム
『ヘブンズ・ドア』
2009年2月7日(土)よりシネマライズ、シネカノン有楽町、新宿ジョイシネマ、池袋HUMAXシネマほか全国にて公開
車工場で働いている青山勝人(長瀬智也)は、彼女にはフラれ、家賃も滞納し貯金もなく、会社もクビになる。そんなとき、自分が生きられる時間が残り少ないことを知らされる…。どん底の勝人は、病院の中で春海(福田麻由子)という少女と出会う。彼女も、先天性の疾患に骨肉腫を患い、長く生きることが出来ない。性別も年齢も違う2人だが、いつの間にか意気投合。そして2人は、酔った勢いで病院の駐車場から車を盗み出し、脱走する。それは、春海が生まれてから未だ見たことがなく、勝人にとっては思い出が詰まった“海”を目指す旅の始まりだった――。1999年に日本で公開されたドイツ映画『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』が原作。
監督:マイケル・アリアス(『鉄コン筋クリート』)
原案:映画『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』
脚本:大森美香
出演:長瀬智也、福田麻由子、長塚圭史、和田聰宏、黄川田将也、大倉孝二、田中泯、三浦友和
2009年/日本/106分
配給:アスミック・エース