骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2009-01-09 20:01


現代日本が生み出した“格差社会”を見よ!『フツーの仕事がしたい』 『遭難フリーター』まもなく公開

土屋トカチ×岩淵弘樹×雨宮処凛が繰り広げる労働トーク!もっとフリーター映画でてこい!
現代日本が生み出した“格差社会”を見よ!『フツーの仕事がしたい』 『遭難フリーター』まもなく公開
『遭難フリーター』監督の岩淵弘樹さん(左)、雨宮処凛さん

サブプライムローン問題に端を発した世界的不況の中、“労働”をひとつのキーワードとしたドキュメンタリー作品が2つある。
ひとつは、最長で月552時間もの長時間労働を強いられていたセメント輸送運転手が一人でも入れる労働組合(ユニオン)・全日本建設運輸連帯労働組合に加入し、まともな労働条件を獲得するまでの過程を描いた作品『フツーの仕事がしたい』。もうひとつは、派遣労働者である当時23歳の若者が自身の生活をカメラに収めることで「派遣の実体」の一部を晒した作品『遭難フリーター』。どちらの作品にも、「長時間労働」「社会保険未加入」「派遣切り」等、現代日本に溢れている問題がたくさん詰まっている。
2作品が1月、3月と続けて公開されるにあたり、アップリンクで先行上映された『遭難フリーター』監督の岩淵弘樹さん、『フツーの仕事がしたい』監督の土屋トカチさん、作家・雨宮処凛さんによるトークイベントをご紹介。


朝晩働いて、漫画喫茶で2時間睡眠。まさに貧乏スパイラル

遭難フリータートーク01

岩淵弘樹(以下、岩淵):この『遭難フリーター』は、2006年3月から僕が埼玉県の工場で働いていた1年間のいろんな出来事を、自分でカメラをまわして撮った映画です。

写真:左より、『フツーの仕事がしたい』監督の土屋トカチさん、岩淵弘樹さん、雨宮処凛さん

雨宮処凛(以下、雨宮):私はこの映画のアドバイザーと応援隊長というよくわからない肩書きなんですけど、岩淵君とは彼が大学3年生のときに会ったんですね。ちょうど私がイラクへ行くときだったので、「イラク行く?」って誘って連れて行ったという経緯があって。イラクでは、ガソリンが吹き出ている近くで彼がタバコを吸おうとして(笑)、すごく怒られたりして。すごいダメな人で。気づいたら大学を留年していて、奨学金の借金を背負って、キヤノンの派遣労働者になって、めちゃくちゃになって、これはすごい面白いから撮っておくべきだと言ったら、こういう映画ができたという。


土屋トカチ(以下、土屋):映画を撮るきっかけとしては、最初に雨宮さんが面白がってくれたからなんですよね。

遭難フリーター

雨宮:彼は自分で気づいてなかったんですよ。キヤノンで派遣労働者として働くという、その面白みというか、その素晴らしさに。ほんとに素の状態でキヤノンに派遣されているから。いかに貴重なものかということに気づいていない。

土屋:岩淵さんはスタートしたきっかけはいろいろあったと思いますが、撮っていて苦労したことは?

雨宮:生活の苦労の方が多いよね(笑)。

岩淵:撮影で苦労は全然ないです(笑)。

土屋:雨宮さんはアドバイザーという不思議な立場ですが。


フツーの仕事がしたい

雨宮:映画じゃなくて、人生のアドバイザーなんです(笑)。

土屋:映画をつくって、岩淵さんの人生はどのように変わりましたか?

岩淵:いまも派遣で、麹町のインターネットの会社で働いています。交通費が出ないから、チャリンコで中野から通ってるんですけど。でも、派遣だけど時給1500円なのでいまの生活は普通ですね。

雨宮:その前に、彼は仙台にいた頃、昼はNTT、夜は居酒屋のワタミで働いていたんですよね。だから睡眠時間がなかったんですよ。

土屋:そのときの生活はどんな感じだったんですか?

岩淵:NTTの派遣が終わったら、漫画喫茶で2時間ぐらい寝て、松屋で飯食って、ワタミでバイトしていたんですけど。


雨宮:すごい貧乏スパイラルですよね(笑)。

岩淵:普通8時間労働で1時間休憩なのに、それがまったく守られていなくて。ワタミの場合、大学生の若くてサークル感覚みたいなノリがあるかと思うんですけど、12時間くらい働いても30分しか休憩なかったりが平気で。

雨宮:え~!時給はいくらだった?

岩淵:700円くらい。夜は850円で。

雨宮:以前、彼が居酒屋で中国人と一緒に働いていて、香港映画祭に招待されたことを、バイト先の居酒屋で働いていた中国人に話したところ、笑われて、全然信じてもらえなくて、なんでそんなつまんねぇ嘘つくんだと言われて(笑)。まさか一緒に働いているフリーターが香港映画祭に行くとは信じてもらえない。

土屋:いまも職場でこういう映画をつくったと知られていない?

岩淵:全然言ってないです。仕事は仕事というか、僕が工場で働いているときもあまり人と話さないで、ご飯も一人で食べていたんで。工場に来る人とは話が合うような人もいませでしたし。ずっと一人でいましたね。

土屋:でも、僕が『遭難フリーター』の中で好きなシーンは髪を切ってもらうところ。あの人とは交流できてると思ったんですけど。

岩淵:映画を見てもらおうと思って電話したんですけど繋がらなくて。今も連絡先がわからない。

土屋:これから上映活動する中で、お会いできるといいですね。他にインタビューをされた方々とは?

岩淵:ほとんど繋がらないですね。

雨宮:いま派遣切りの嵐の中でどうなってるのかな?

土屋:この年末にガンガン切られてますからね。今の職場は大丈夫ですか?

岩淵:3月末までの契約なので大丈夫です。以前は、契約するときは時給とか派遣会社の言う通りにやってたんですけど、最近ちょっと学習してきたんで今回のインターネット会社も時給は最低でも1500円じゃないと嫌だと言って。大体、ビックカメラの売込みを進められるんですよね。

土屋:ビックカメラはみんな行きたがらない?

岩淵:だと思うんですけど。自分ではきちんと仕事を選択しているつもりなんです。

社会を変えようなんて別に思っていない

遭難フリータートーク02

土屋:最近は生活面も充実してきたんですね。

岩淵:ていうか、やっぱりこうやって映画をつくって上映をして観てもらうことが自分の中で…ズルイかもしれないですけど、生きる意味というか、こういう快楽を今まで知らなかったので楽しいなって思うんです。たとえば見終わった後に労働問題とかを語るとなっても、実際に問題意識を持って告発するためにつくった映画ではないので、雨宮さんやトカチさんのようにジャーナリスティックな話は僕は別に…

土屋:でも、そういう労働問題の話とかは聞かれたりしますよね?

岩淵:しますね。長いメールをいただいてやりとりしますけど、僕はまだ25歳なんで団塊の世代の人から「君はいま働いている8時間っていう労働も勝ち取ったものだぞ」って怒られたりして。それでキツイって言ってるんじゃないぞ、と。


雨宮:上映会後のトークで、けっこう岩淵君を説教する会になるんですよ。もう少し考えた方がいいとか、もう少しやりようがあるんじゃないかと。岩淵君の人生にダメだしをする会になることが多々ある。しかも団塊の世代の人から。

土屋:入場料払って観にきたのに説教するんですか?

雨宮:何かを言いたくなるというか、彼自身につっこみどころがありすぎるので。

岩淵:こういう社会が悪いんだから社会を変えようとしないのかと言われて、「いや別に」って答えると怒られる(笑)。

土屋:岩淵さんが先頭になって世の中を変えていこうという話にはならない?

雨宮:誰もついていきませんよ(笑)。

岩淵:単純にいまは、デモに参加するのが楽しいので。

土屋:楽しいって大事ですよね。俺もそう思うんですよ。だって別に背負い込むことなんて何もないですし、楽しく生きるのが基本だと思うし。そういうところがこの映画にはよく出てるなと思いますね。

もっとフリーター映画がでてきてほしい

(以下、質疑応答)

―― いまの若者は社会の中で、自分をどうやって表現いくのか悩む人が多いと思うが、映像を撮ることは岩淵さんにとってどんな意味があったのでしょうか?

岩淵:撮影してるときは何を撮ろうかと考えずに、ただ目の前のものを撮っていただけで。それを編集段階で土屋豊プロデューサーと構成を練っていく過程があって、そこで初めて映画はこうやってつくっていくんだなと感じました。大学時代は映像学科でしたけど何も学べなかったので。映画をつくってお客さんの前でみせるというすべての過程が映画だと思うので、自分の中でいま映画っていうものが「こういうものか」っていうのがまだわからないですし、お客さんからつまんないっていわれることもありますし。やっぱり嬉しかったり恥ずかしかったり悲しかったり、いろいろと思うんですね。別に表現なんてしなくてもいいと思うんですよ。楽しく生きる方法っていっぱいある。僕の周りにも表現に執着していて、あまり稼がずに音楽をやったりしていて、それって本当に楽しいの?いいのか?ってずっと疑問に思っていて。なので、自分自身で映画を撮るということ自体が、自分の中では猜疑心と言うか、自分の中で映画をつくることを捉え直す、撮り直す映画つくらないといけないなと思っています。

―― 映画をつくってみて、何かメッセージはありますか?

岩淵:ひとつは学生さんにこういうふうになってはいけないよ、と(笑)。あとは、家庭用の機材だけで誰でも映画がつくれる時代なので、もっとフリーター映画が出てきてほしいんですよね。100人が100人の言葉で、やり方で語れるような、自分でも映画を撮りたいなと思ってもらえたら最高だと思います。


『フツーの仕事がしたい』
1月10日(土)よりアップリンクX / ファクトリーにてロードショー

フツーの仕事がしたい01

皆倉信和さん(36歳)は、根っからの車好き。高校卒業後、運送関係の仕事ばかりを転々とし、現在はセメント輸送運転手として働いている。しかし、月552時間にも及ぶ労働時間ゆえ、家に帰れない日々が続き、心体ともにボロボロな状態。「会社が赤字だから」と賃金も一方的に下がった。生活に限界を感じた皆倉さんは、藁にもすがる思いで、ユニオン(労働組合)の扉を叩く。ところが彼を待っていたのは、会社ぐるみのユニオン脱退工作だった。生き残るための闘いが、否が応でも始まった。

撮影・編集・監督・ナレーション:土屋トカチ
出演:皆倉信和
取材協力:全日本建設運輸連帯労働組合、皆倉タエ、皆倉光弘
2008年/日本/70分
配給・宣伝:フツーの仕事がしたいの普及がしたい会


会場:アップリンク
(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F)[地図を表示]
★上映時間などの詳細はコチラから

公式サイト



『遭難フリーター』
3月よりユーロスペースにてロードショー

遭難フリーター

岩淵弘樹・23歳。平日は製造派遣大手の日研創業からキヤノンの工場に派遣され、時給1.250円での単純労働。週末は憧れの東京でフルキャストの日雇い派遣。不安定な労働環境から抜け出せない彼は、フリーターの権利を求めるデモに参加し、NHK「クローズアップ現代」の取材を受ける。しかし、画面に映し出されたのは、ただただ“不幸で貧しい若者”でしかなかった―。

監督・主演:岩淵弘樹
プロデューサー:土屋豊
アドバイザー:雨宮処凛
挿入曲:豊田道倫「東京ファッカーズ」 エンディング曲:曽我部恵一「WINDY」
2007年/日本/67分
配給:バイオタイド


会場:ユーロスペース
(東京都渋谷区円山町1‐5 渋谷・文化村前交差点左折)[地図を表示]

公式サイト

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