パキスタン南部のジプシー楽士たち（撮影：村山和之）
長年ロマ/ジプシーを研究している音楽評論家の関口義人さんによる恒例イベント『ジプシーを追いかけて』が、2008年12月25日にアップリンク・ファクトリーで開催された。今回はゲストに和光大学講師の村山和之さんを招き、ジプシーの原郷に接近し謎めいたバルーチスターン地方（パキスタンとイランに跨がる地域）で移動しながら暮らす楽士たちの映像を初公開した。
このイベントは2005年11月よりスタートして今回で17回目を迎える。関口さんは、「世界のジプシーとよばれる放浪をする人たち、推定では一千万から数百万くらい、世界中60カ国くらいにいるんですね。故郷もわからず、住む家もなく、仕事もなく、市民権もなく、場合によっては食べるものもガスも水もなく暮らしている人たちです。それで、そういう人たちに魅せられて、10年程住まいを訪ねたり、音楽をきいたり、文化を求めて探し回ってきました。それをぜひ皆さんにご紹介したいということで、映像を上映しながらのイベントをやってきました。2006年には、中東、セルビア、それからインド、ブルガリア。2007年には、トランシルバニア、ギリシャ、オーストリア、トニー・ガリフ特集などをしました。今年に入って画家のスズキコージさんをお招きして絵のお話をしたり、トルコ、イラン、それから私の本『オリエンタル・ジプシー 音・踊り・ざわめき』の刊行記念などもしてきました」と、今までのイベントを振り返った。
写真：関口義人氏
ゲストには、和光大学で教鞭をとられ、南西アジアの文化を広範囲に渡って研究している村山和之さんを迎え、主にロマ/ジプシーのルーツとも言われている北西インドの音楽についてトークが繰り広げられた。
パキスタンに興味を持ったきっかけについて村山さんは、「僕が大学3年生時のゼミのフランス語購読の中でインドの叙事詩を読むという機会にめぐまれ、それから詩の世界や芸能にはじめて興味がわきました。それに大学での調査がパキスタンでありまして。パキスタンでも、特に興味のあるバルーチスターン地方というところの部族文化を見て、衝撃を受けて好きになりました」と語った。
写真：村山和之氏（左）と関口義人氏
ジプシーの原郷に接近し謎めいたバルーチスターン（パキスタンとイランに跨がる地域）で移動しながら暮らす楽士たちの映像が初公開され、これは村山さんが実際に部族に魅了され、現地に入り、直接楽士に交渉し撮った、その人種の垣根を越えたまさにジプシー的間合いがなんとも清々しいライブ映像である。ムスリムの楽士を総称するミラースィー(Mirasi)の映像、ミラースィーよりも階層が下のドーリー（Dholi）の映像、バルーチスターンの藩王に捧げられ、無形文化財ともいえるラバーブ（アフガーン琵琶）楽曲を演奏する巨匠の映像、数々の秘蔵ライブ映像から表情豊かで人間味あふれるロマ/ジプシー音楽を堪能する時間が流れた。
次回の『ジプシーを追いかけて』は、2月7日（土）に神戸学院大学講師の米山知子さんをゲストに迎えて開催される。（詳細はコチラから）
また、1月9日には関口さんが字幕監修をおこなった映画『ジプシー・キャラバン』がＤＶＤで発売されることとなった。スペイン、ルーマニア、マケドニア、インドの4つの国の5つのバンドが6週間を掛けて北米の諸都市を廻る“ジプシー・キャラバン・ツアー”を追い、音楽を通して人間が生きていくことの根源的な力強さ、そして喜びが映し出された愛深き感動のドキュメンタリー作品である。ロマ/ジプシーの文化に興味を持っている方にはオススメだ。
■関口義人（せきぐち・よしと）PROFILE
東京生まれ。10代でアメリカへジャズ修業に赴き、20代後半から商社員としてヨーロッパに滞在。のべ60カ国を渡り歩く。ロマ/ジプシー研究、音楽評論、アーティスト招聘などに携わる。桜美林大学非常勤講師。早稲田大学非常勤講師。（有）音頭代表。著書『オリエンタル・ジプシー 音・踊り・ざわめき』（青土社）、『ジプシー・ミュージックの真実』（青土社）、『バルカン音楽ガイド』（青弓社）など。
DVD『ジプシー・キャラバン』 2009年1月9日（金）発売
全ジプシーバンドの豪華ライブ映像（43分）、ジプシー音楽に魅了され、後に『ショコラ』でもジプシーの役を演じたジョニー・デップのインタビューが特典として収録。
監督：ジャスミン・デラル
出演：エスマ、タラフ・ドゥ・ハイドゥークス、ファンファーラ・チョクルリーア、アントニオ・エル・ビバ・フラメンコ・アンサンブルズ、マハラジャ
字幕監修：関口義人
2006年/アメリカ/本編115分+特典映像91分
価格：4.410円（税込）
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