左より、マックス・ハトラーとロバート・サイデル
ドイツ生まれの二人の映像作家、マックス・ハトラーとロバート・サイデルは、対照的な制作スタイルを持ちながら、2007年のドレスデン映画祭で意気投合、それ以降世界各国でコラボレーションを重ね、多くのメディアから高い評価を得てきた。ハトラーはコンセプチュアルでポップな作風、サイデルは抽象的で超緻密なグラフィックを得意とする。お互いの作品を初めて観たときは、どのような印象を持ったのだろうか。
ハトラー: 「ロバートの作品を初めて観たときは、彼が抽象観念とコンピュータ技術を上手く利用し、独創的で美しく、複雑な作品を作っていることにと驚きました」
サイデル: 「マックスの作品には、毎回異なるレベルの技術が使われていて、しかもユーモアが詰まっています。僕自身、自分の小さな世界に執着していた時期だったので、とても刺激を受けました」
写真:マックス・ハトラー作品『collision』 (c) Max Hattler
今年4月には5週間にも渡るジャパンツアーを敢行。上映はもとより一作品ずつ丁寧に解説していくレクチャーやVJなどをほぼ毎日こなし、二人は日本中を駆け回った。12月には、ツアー中に上映された全16作品がDVDとなってアップリンクより発売される。
ハトラー:「すべての作品は僕にとって子供みたいなものです。他の子供より美しい子もいるし、頭の切れるやつもいる。僕はみんな平等に好きですが、人気があるのは『Collision』という作品です。抽象的なグラフィックスやサウンドを融合させて、政治的なメッセージを発信している、というところがユニークだからなのでしょうね。また、エコノミー・ウルフのミュージックビデオ『Theme for Yellow Kudra』では、ヨハネスという僕の幼なじみが草原の中で一人、おかしなダンスを延々と踊っているのですがそれがMTVで話題になり、ヨハネス出演作第2弾『Mount Allen』を作ることになりました」
写真:マックス・ハトラーの幼稚園時代からの友人で、現在は数学教師をしているヨハネスが、草原でただひたすら踊り続けるという作品。そのグダグダ感がMTVで評判となり、フランスのカルチャー誌「CLARK」では「エレガントな野暮」、スイスの「L'auditoire」誌には「脱力して笑える」と世界中で絶賛(?)された。ちなみにこの作品でパフォーマンスに目覚めたヨハネスは、続篇とも言える「MOUNT ALLEN」で、「ヨハネス殿下」と名前を改め、映画『フットルース』におけるケヴィン・ベーコンのダンスに挑戦。:『ECONOMY WOLF:Theme for Yellow Kudra』 (c) Max Hattler
サイデル:「『grau_』という作品が一番のお気に入りです。この作品で初めて自分が理想とする映像と音に、ほんのちょっとだけ近付けた気がします。ストーリーのある抽象観念の複雑な世界を、少しだけ表現できているのではないでしょうか。既に何百回もこの作品をみているのですが、自分でも説明のつかないような一面を発見することがあるのです」
写真:ロバート・サイデル作品『grau_』 (c) Robert Seidel
来月ハトラーは単独で再来日し、都内を中心に様々なイベントに参加する。
ハトラー:「今回の来日では、ワイデン・アンド・ケネディ・トウキョウ・ラボから依頼を受けて制作したJamapurというアーティストのミュージックビデオのプレビュー、アニメーターのオカクノリコさんとのVJ、そしてスーパーデラックスでの僕たちのDVD発売記念イベントへ出演します。その後も制作活動や学校で教えることもしていきますが、まだまだ学ばなければならないことがたくさんあります」
写真:ドイツのフィレティック博物館の正面全て(35×16M)をスクリーンにし、室内の明かりから音楽まで全てを連動させた衝撃の超大型インスタレーション
一方、サイデルはマイペースに制作を続けていくようだ。
サイデル:「年内は、依頼を受けているいくつかのプロジェクトに専念して、2009年には純粋に個人的な作品を制作するためにフリーの時間を持ちたいと思っています。僕は商業的な作品の制作に伴う時間のプレッシャーが苦手で、静かにゆっくりと制作を進めたいのです。『grau_』から5年が経ち、どのような作品を創造できるのかとても楽しみなのです。しかし、まず僕は故郷のイェーナからベルリンに引越さなければと思っています。みんなベルリンに移っているようなので…」
写真:英国の人気ユニットZero7のDVD「ザ・ガーデン」のために作られた低予算のプロモーションビデオだったが、「あまりにも奇妙で非商業的すぎる」との理由で収録は見送られた。 『FUTURES』(c) Robert Seidel
誰もが映像作家になり得るデジタル新時代に、突出したセンスと技術で進化を続ける二人に今後も期待したい。
■マックス・ハトラーPROFILE
ドイツ生まれ、ロンドン在住の映像作家/メディア・アーティスト。ロイヤル・カレッジ・オブ・アートを卒業後、アニメーションスタジオ、バミューダ・ショートに所属。IKEAのCMなど商業映像を制作する傍ら、世界各国のメディアから高い評価を受けるアーティストとしてインディペンデントでの活動も続けている。デイズド・アンド・コンフューズド誌は「いま最もエキサイティングな若手映像作家3人」の1人としてハトラーを取り上げた。
マックス・ハトラー公式サイト
■ロバート・サイデルPROFILE
ドイツ生まれ、バウハウス・ワイマールにてメディア・デザインを修得。美術館のコンテクストで上映されることの多いサイデルの作品は、250以上の映像祭に招聘され、数多くの賞を得てきた。近年においては映像投射のキャンバスを建築物に変え、映像と建築の新たな関係性を模索している。また、ミュージックビデオやテレビのディレクター、ジャーナリストとしても活動中。
ロバート・サイデル公式サイト
SDLX6周年記念ウィーク+DVD発売記念イベント
『Minimal Tokyo×UPLINK デジタル・ドリームス』
ミニマルミュージック・イベント、 Minimal Tokyoと共に、デジタル・カルチャーの最前線で活躍するアーティストを迎え、トークやライブ、 DJ、VJなど盛りだくさんのイベントを開催!
日時:2008年11月1日(土) 20:00~5:00
会場:スーパー・デラックス(東京都港区西麻布3-1-25 B1F)[地図を表示]
ゲスト:マックス・ハトラー、LOD(Klitekture/Sinergy-networks)、アマンダ・ロペス、Kanta Horio、Nao Tokui(op/disk)、林永子
料金:1,000円
DVD『マックス・ハトラーvs.ロバート・サイデル』
2008年12月5日(金)アップリンクより発売
※11月1日のイベントで先行発売いたします
ZERO7×ホセ・ゴンザレスのミュージック・ビデオや250以上の世界中の映画祭で上映されてきた、全16作品を収録。デジタル映像の新たな波を体現するクリエーターの競演。
価格:3,500円(税込)