骰子の眼

art

東京都 渋谷区

2008-12-29 15:00


今をどうサバイブし、何を伝えようとしているのか:渋谷コンテンポラリーギャラリー「NANZUKA UNDERGROUND」

渋谷のコンテンポラリーギャラリー「NANZUKA UNDERGROUND」のギャラリーオーナー南塚真史氏に話を聞いた。
今をどうサバイブし、何を伝えようとしているのか:渋谷コンテンポラリーギャラリー「NANZUKA UNDERGROUND」
写真は2008年10月~11月に行われたマーティン・マニグ氏の個展「Mitternachtsbilder (ミッドナイト・ピクチャーズ)」の様子

webDICEのコンセプトは「WEBを見て、街へ出よう」。新連載DICE CULTURE MAPでは今注目したい場所を紹介。今回は渋谷のコンテンポラリーギャラリー「NANZUKA UNDERGROUND」をご紹介。ギャラリーオーナー南塚真史氏に話を伺った。年末から年明け2月までは田名網敬一氏の展示が行われている。是非、足を運んでみては。


オーナーインタビュー

── 設立のきっかけを教えてください

はじめたのは2005年10月です。それまで大学で美術史を学んでいたのですが、美術史という学問は没後100年を一つの基準として、歴史的に重要な作家を研究することが前提の学問なんですね。その当時の美意識だったり、描かれたモチーフなどを通して、過去を知り、同時に未来を想像するということで初めて美術が学問として成立するという考えです。だけど、そこで問題だと思ったのは、美術史を学んでいても、まったく「同時代のアート」に関心がいかないことなんです。自分は、もともと「アウトサイダー」や「ナイーヴ」といった「美術の範疇」を模索するようなところの研究をしていたので、その関係で、「なぜ同時代のアートは、研究対象にならないか」という事を考えるようになりました。

結論から言うと、激しい競争の中で、政治や経済的な理由から、評価の浮沈もある現在進行形のアートを学問として研究するにはリスクが高すぎるという点と、歴史的な視点という点で、やはりコンテンポラリーがアートヒストリーと区別されることは当然なんです。そうした中で、特にコンテンポラリーアートマーケット不毛の地と言われるこの日本で、作家がどうサバイブして、何を伝えようとしているか、その実態を知りたかったので、漠然と作家と二人三脚でやっているギャラリーという存在を考えるようになりました。

そんな頃、イセネエヒヒネエ(他社比者)というクリエイティブ集団と宇川直宏さんに出会って、彼らもカルチャーシーンにおけるアンダーグランドシーンの重要性みたいなところから同じように場所を探していたんです。そこで、宇川さんとイセネエヒヒネエ(他社比者)と自分とで、ギャラリーとしてNANZUKA UNDERGROUNDがあって、Mixroofficeというパーティのできるクラブがあって、そこにアーティストが居るというオルタナティブなスペースを作るという構想ができていったんです。それがNANZUKA UNDERGROUNDのスタートですね。その後、Mixroofficeの活動停止によって、2008年の4月にリニューアルし、今の形になっています。

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写真:ギャラリーの様子 田名網敬一「COLORFUL」(1960-1974) photo by Keizou Kioku

── アンダーグランドシーンとメジャーなアートシーンって距離がありますよね

今の日本の、特にコンテンポラリーアートシーンに言える事なのですが、先に述べたようなアート業界の状況もあって、まだまだ十分に社会とコミットできていない、影響力を持てていないと思うんです。おそらくファインアートと区別されて扱われている多くの表現より、アンダーグランドやストリートと呼ばれるシーンのクリエイティヴのほうが、若い人達のリアリティにコミットしたところでやっていると思うんです。

NANZUKA UNDERGROUND

欧米では、サブカルチャーやポピュラーカルチャーと呼ばれるクリエイティヴの上位概念に、ちゃんとコンテンポラリーアートというものがあって、カルチャー思考の人達はそこも見ているんだけど、日本ではそういう感覚はない。好きなアーティストは?と、若い人たちに聞いて、漫画家やデザイナー、イラストレーターではなく、コンテンポラリーアーティストの名前が出てくるかっていうと、ほとんどそうじゃない。草間さんや横尾さんですら遠い感じがする、この感覚が日本におけるアートの根本的な問題を表しているのではないかなという共通の認識が僕や宇川直宏さんにはあったんです。

写真:ギャラリーオーナー南塚氏

作家のセレクトに関してですが、僕は、コンテンラポラリーアート=ファインアートとは認識していないので、作家を経歴やキャリアだけで決めないようにしています。例え、デザイナーやイラストレータとして活動してきた人でも、表現の必然性とオリジナリティーがあれば、将来的にファインアートの文脈で語れる可能性があるはずなので。また他のギャラリーが率先して取り扱うような作家は僕がやる必要がないとも思っていますので、結果として、うちのラインナップは、日本のアートシーンが評価してこなかった、既存のファインアートのルールから外れている作家たちの名前が並んでいます。


── 最近のギャラリーの状況をどう捉えていらっしゃいますか

この金融危機の影響でアートバブルも弾け飛び、ギャラリーも縮小していかなければならない、耐えなければいけないという雰囲気になっていますね。基本的に日本のコンテンポラリーアートのマーケットは、海外が主流です。しかし、世界的に経済が不安定な状況で、「アートなんて、買っている場合じゃない」という感じになっています。名前の知れている作家は、これまで高かった分割安感から20~30%のディスカウント価格で動いているようですが、日本のアートは欧米マーケットの主流にはいないですから、厳しい状況が続くと思います。このまま不買が続いたら、うちも含めて半分くらい潰れちゃうんじゃないですかね…。(苦笑)今は、基本的に自分の作家たちの生活を支えるために、可能な限り彼らの在庫作品を買い支えている状況です。

── どの様な形で運営されていますか

取り扱い作家という形で作家に所属してもらい、マネージメントをして、展覧会をして、作品を販売するコマーシャルギャラリーとして運営しています。先程と話がかぶりますが、長年日本のアート市場は画壇とそれに付随する画廊が仕切ってきましたので、コンテンポラリーアートの主な市場は海外になります。少しづつその状況は変わってきているとは思いますが、まだまだワールドスタンダードなルールの基で経営しているアートギャラリーは少ないと思います。

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こうした状況は、例えば田名網敬一先生をリスペクトしている若い人達が、あと10年くらいして社会に影響力を持つようにならないと変わらないと思います。日本のコンテンポラリーギャラリーは約50件くらいあって、そのギャラリーがそれぞれ10人の作家を抱えているとすると、ギャラリーに所属できている作家が国内に500人くらい。日本のアートシーンを変えるには、この数字が10倍にならないとダメだと思いますね。

そこまでいって初めて少し変わるかなと。日本の社会におけるアートの存在や必要性というのが認知されて、その距離を埋めることが出来たらNANZUKA UNDERGROUNDの役目は終るのかなと思います。

写真:田名網敬一「COLORFUL」(1960-1974)の様子 photo by Keizou Kioku

NANZUKA UNDERGROUND

渋谷駅東口より徒歩3分
東京都渋谷区渋谷2-17-3渋谷アイビスビルB1F[地図を表示]
tel:03-3400-0075
fax:03-3400-1057
http://nug.jp/

NANZUKA UNDERGROUND入り口。このビルの地下にギャラリーがある。

今後のスケジュール

田名網敬一

山川惣治×田名網敬一 [ 少年王者 ]

2009年1月24日(土)~2月22日(日)
生誕100周年となる絵物語作家、山川惣治氏と田名網敬一氏による特別展。田名網敬一氏が山川惣治氏の原画を用いて制作したシルクスクリーン作品と、山川惣治氏のオリジナル原画を展示。

Keiichi Tanaami [ KANNOOON ]

2009年1月24日(土)~2月22日(日)
田名網敬一氏の新作立体作品群、新作ペインティングによる展示


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