2013-05-17

『三姉妹~雲南の子』クロスレビュー:“生きる”とはなにかを考える このエントリーを含むはてなブックマーク 

三姉妹の住む洗羊塘(シーヤンタン)村は中国雲南省昭通市に属するが、高度3200mの山岳地帯にある。村人は100年以上にわたり、山の斜面を利用した畑(棚田)で自分たちの主食であるジャガイモを作り、牧畜業(羊、豚)で生計を立ててきた。
農民の医療保険のために毎年10元(2011年段階で130円前後)を徴収するという役所の通達に対し、村長が「払えないと報告したが返事がない。今後どうなるかはわからない」と寄り合いで村人に報告する場面がある。洗羊塘は中国でも最貧困の地域の一つなのだ。

父親が出稼ぎに出かけて不在の家では、長女の英英(インイン・10歳)が母親がわりだ。貧しさに耐えかねてだろうか、母は3姉妹を残して家出をしてしまったという。英英は6歳、4歳の姉妹の身の回りの世話をし、畑作業をし、家畜の世話をして暮らしている。実に健気だ…

三姉妹は着たきりで、長女は髪型から少女だとわかるが、断髪している次女(珍珍・チェンチェン)と三女(粉粉・フェンフェン)はまるで男の子のようだ。
三姉妹は父親が出かけてから身体を洗ったことがない。「粉粉(三女)はシラミの世界チャンピオンだ」という言葉に、「シラミの数を競って何になる」と長女が答えた時、思わず笑い声を洩らしてしまい、しまったと思った。でも場内からも笑い声が上がるのを聞きほっとした。

画面に笑いはない。あるのはビュビュウという風の音だけだ。
人間は貧しい。しかし、豚や羊はまるまる太っている。豚も羊も昼間は小屋から外に出る。豚は庭先で英英が細かく潰したジャガイモを食べ、村の小路を闊歩する。羊は群れで勢いよく山の斜面の牧草地まで駆け下り、日暮れまで草を食べ、運動をする。鶏、アヒルも元気いっぱいで、遠慮のない鳴き声がやかましいぐらいだ。犬は大人しく家畜の番をしている。猫もいたが、これは何の役に立つのだろう。

雲南省には元陽など棚田で有名な場所があり、観光名所になっている。水がいっぱいはられた棚田の光景は本当に美しい。日本からの観光客も多い。洗羊塘の山の斜面の畑も棚田と言っていいと思う。遠くから見ると、きれいな棚田に見える時もあるのかもしれないが、米はとれない。収穫できるのはジャガイモだけなのだ……。

1軒の村人の家にテレビがあり、子どもたちや村人が集まり、画面を食い入るように見ている場面がある。普通話(標準語)が聞こえ、中国の最新の情報が流れる。彼らは何を考えながら画面を見ているのだろう……。
 
笑いがなく、ロマンがなく、ハッピーエンドもない。こんな映画なのに、見てよかったと思っている。王兵(ワン・ビン)監督の他の作品を見てみたい。不思議だ……。

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富岡 幸雄

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