2012-12-04

『砂漠でサーモン・フィッシング』クロスレビュー:“鮭の放流”に姿を借りた高い目標を達成する精神のありよう このエントリーを含むはてなブックマーク 

最初は、夢想家の科学者が、有り得ない夢物語…中東の砂漠に鮭を泳がせる!に夢中になって周りを巻き込む、という話かと思っていたが(だっていかにもユアン・マクレガーは夢想家が似合いそうだし)、実際にはあんなこんなの思惑から、中東との友好関係を示唆できる話題を模索していたイギリス政府広報室が、ひょんなことから中東でのサーモン・フィッシングプロジェクトに目をつけ、お役所勤めの水産学者アルフレッド・ジョーンズ博士(ユアン・マクレガー)をその実施の先頭に立たせたことから始まる物語だった。実は彼は科学者らしくなかなかに現実派で、そんなことは馬鹿馬鹿しく無謀である、と言い切り、出資者のイエメンの富豪シャイフ・ムハマドの美しき代理人ハリエット・チェトウォド=タルボット(エミリー・ブラント)にも、準備資金として法外な金額をふっかけたりする。
しかし、本来冷たい清い渓流の水を好む鮭であるが、それを、環境的に不可能である思われる砂漠の地イエメンに泳がせる、ということへの、純粋な科学者としての興味、ムハマドの誠実さや熱意、ハリエットとの協業で湧いてきた感情…などなどから、アルフレッドも段々とこのプロジェクトに夢中になり、心血を注ぐようになる…そして…。

イギリスのシニカルさ、シリアスな中から出てくるコミカルさ、を知り尽くした脚本にテンポ良く乗せられてクスッと笑い、アルフレッドと共に、人生に迷いながらも夢中になっていく作品。
イエメンに鮭を放流したい!という欲望は、無から有を産み出す、という単純な話ではなく、そしてただ単にアラブの富豪がサーモン・フィッシングを楽しみたいからだけ、に起因するのではなく、“鮭の放流”に姿を借りた“人間”の努力、高い目標を掲げそれを達成する精神のありようを表しているのだ、と思った。
そして、何も無かった大地に鮭を泳がせることは、自然発生的に見える愛の誕生にも似て、その後どうやって育てていくか、が一番大きくて困難な課題となるのである。

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ここなつ

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