2012-11-20

『美が私たちの決断をいっそう強めたのだろう/足立正生』クロスレビュー:ある前衛映画監督の肖像 このエントリーを含むはてなブックマーク 

寒々としたある冬の東京での日々。フランス人監督フィリップ・グランドリューが足立正生と過ごした数日間を記録したドキュメンタリー映画である。

足立正生は、1960年代に『女学生ゲリラ』(1969)や『略称・連続射殺魔』(1969)など、性や革命を主題とした前衛的な映画の監督として活躍していたが、1974年にパレスチナに渡り日本赤軍に合流、国際指名手配される。その後、1997年にレバノンで逮捕抑留され、2000年に日本へ強制送還された。本作のタイトルは、足立正生が35年振りに監督をした『幽閉者―テロリスト』(2006)の主人公の台詞から取られている。

ある日の夕刻に、公園のブランコで幼い娘と遊ぶ足立正生の姿から始まるこの作品は、その殆どのシーンが夕刻から朝方にかけて夜に撮影されており、画面には終始薄暗さが漂っている。途中、学生時代の友人のインタビューや朋友の小野沢稔彦らと酒を交わしながら語り合う様子が挿入されるものの、登場するのは、ほぼ足立正生ひとりである。

とりわけ、足立正生の言葉が際立っている。疾走する車の前方車窓から見える夜の高速道路の光景に、画面外から「走ってる、走ってる、走ってる」と静かに呟く足立正生の問わず語りが聞こえてくる。その言葉は、映画、そして革命に向かって疾走した足立正生のかつての姿を彷彿させるかのようだ。繰り返し写される冬の枯れた美しい木々の光景に、映画、政治、革命について語る足立正生のモノローグも聞こえてくる。ときどき挿入される監督のフランス語によるナレーションやエレキギターの音楽が、冬の寒々しさとともに足立正生の孤独感を漂わせる。

何かを説明することも、メッセージを発することもなく、映像と音と言葉だけで、数奇な人生を送ったある人物の現在の姿を静かに美しく描いた作品である。

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吉田孝行

ゲストブロガー

吉田孝行

“映像作家。これまで世界30か国以上の映画祭や展覧会で作品を発表している。近作に『タッチストーン』『エイジ・オブ・ブライト』『ある日のアルテ』『ある日のモエレ』など。共著に『アメリカン・アヴァンガルド・ムーヴィ』など。”


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