アーティスティックな映像を撮るジュリアン・シュナーベル監督の最新作「ミラル」のレビューです。
この映画はパレスチナ問題を主題として、教育や政治、人間の尊厳を見つめています。「道端に咲く赤い花」という意味の名前の少女『ミラル』は、母親に似て、芯が強く、正義感を持った子どもです。その少女が、パレスチナとイスラエルの政治的な混乱の中で、自分にとっての正義や、他者と共に生きることの意味を求めながら生きる姿が描かれています。
物語のフックになっているのは、「ヒンデゥ」という教育者の存在です。ヒンデゥは、パレスチナの領土の中で孤児院を造り、親のない子どもの成長を助け、やがて2000人もの規模の子供たちを救う活動をした教育者です。日々、争いの絶えないパレスチナのような土地の中で、このヒンデゥが、孤児の子どもの教育のために、力を尽くす姿は、一筋の光となってこの映画を照らしています。
隣人が死に、住民同士が互いを疑い合うような状況であっても、ミラルは、自分にとっての「正しさ」を求めています。主人公ミラルが正義を求めて行動し、もがきながら大人になってゆく姿は、平和を求めるパレスチナ住民の象徴として、重ねられて描かれています。ミラルが成長し、自分の職業を選ぶまでのラストは、パレスチナという土地全体が、良い方向に一歩ずつ前進していることを感じさせる、光に満ちた暖かいシーンです。
シュナーベル監督は、身近な場所にある希望の光が、今なお続く争いの時代をくぐり抜け、未来のパレスチナの土地を再び明るく照らすことを、映像の力で語らせています。
今作品では、これまでよりも物語を鮮明に伝えることに力が入れられていますが、部分的にシュナーベル監督特有の実験的な映像の使い方がされているのも、見どころの一つです。主役は、「スラムドッグ・ミリオネア」でも主役を演じたフリーダ・ピント。ヒンデゥ役を演じたヴァネッサ・レッドグレイブも、映画全体の印象をを引き締めていて、抑制の効いた素晴らしい演技を見せています。