2011-03-02

『ホロコースト産業』からガリアーノ失脚まで このエントリーを含むはてなブックマーク 

特にこれといって関連するできごとも見当たらないのに、ブログの中の特定の記事にアクセスが集中する日がある。昨日のアクセス集中記事は「フィンケルスタインの『ホロコースト産業』は良書でしょうか?」と題した短い記事(下にコピペしました)。

フィンケルスタインはアメリカの政治学者で、父親も母親も最終収容所の生き残りというバックグラウンドを持つ。にもかかわらず(と言うより、であるからこそ、かもしれないが)、犠牲者としての民族の過去の歴史をいまなお使い続けるイスラエルの対パレスチナ政策に強く反対し、出版や講演活動を続けている。

著書『ホロコースト産業』でかれは、アメリカのユダヤ人エリート(の一部やイスラエル・ロビー)がこの犠牲者としての立場を濫用し、政治的・経済的に敵対する人物に対して「anti-Semitism(反ユダヤ主義)」とラベリングすることで評判を落とすなどしていると指摘する。それにしても挑発的なタイトルだ。

フィンケルスタインの著書(和訳のあるもの)

The Holocaust Industry: Reflection on the Exploitation of Jewish Suffering (London:VERSO, 2000)『ホロコースト産業――同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち』(立木勝訳 三交社 2004年)

Beyond Chutzpah: on the Misuse of Anti-Semitism and the Abuse of History (Berkeley, CA: University of California Press, 2005)『イスラエル擁護論批判――反ユダヤ主義の悪用と歴史の冒涜』(立木勝訳 三交社 2007年)

上記書籍を購入される場合、可能ならアマゾンを避けていただけるとうれしいです(ウィキリークス支持につきアマゾン絶賛ボイコット中!)

この記事にアクセスが集中した理由として考えられるのは、ファッション・デザイナーのジョン・ガリアーノが公共の場所で酔っ払ってanti-Semitism(反ユダヤ主義)的insult(侮辱)を言ったとかでディオールから停職を言い渡され、本人は否定していたのだが、今度は別の機会に同じような狼藉に及んだ場面の動画が出てきていまい、とうとう解雇されたというニュースかな、という気がしないでもない。

この動画はタブロイド紙(ゴシップ紙)の『サン』に持ち込まれたようだが、ディオールに持って行ったほうが末永くお金になったんではないだろうかなどと考えたりもした。それに、サン紙はアンチ・ゲイだから、将来にわたってゲイいじりのネタに使われそうでいやな気がする。

この動画が出てくる前は、あ〜、いつものanti-Semitismネタねと聞き流していて、どうせ大したことは言ってないんじゃないのと思っていた。ガリアーノがイギリスのデザイナーなのでBBCは大騒ぎだったけど、アルジャジーラでは一言ニュースで終わってしまったので、ニュースを見ながら「さすがにanti-Semitismネタでは中東での扱いは小さいね〜」と論評したら、「いまの一言でディベートなら負けるよ」と息子に突っ込まれた。

その通り、anti-Semitism(反ユダヤ主義)とイスラエル批判を同じ土俵にのせてはいかん。敵の思うつぼではないか。わたしとしたことがとんだ初歩的間違いを。しかも息子に指摘された。とほほ。

息子は、イースターホリデイが終わったら1年早くいくつかのIGCSE/GCSE(中等教育修了試験)を受験することになっていて(学校の方針)、宗教学(RS)/哲学もそのひとつ。出題範囲がJudaism/Ethicsで、年明けにあった模試では96%の得点でA*をもらったぐらいなので、ユダヤ教の教理についてはきっとわたしより詳しいだろう(親ばか)。試験は小論文。息子は(わたし共々)公言する無神論者であるが、宗教学はなぜかずっと成績がいい。

で、この数日後である昨日、サン紙のウェブサイトにアップロードされた動画の一部をニュースで流しているのを見て、う〜ん、こりゃ、だめだ。したたか飲んでるのは確かなようだが、酔っ払いのジョークで許される範囲は軽く越えちまってる。

ことの是非をさておけば、このごろはなんでも録画されちゃうので有名人はたいへんだ。

それにしても、昨年はロンドン・ファッションウィーク直前にアレクサンダー・マックイーンが自殺し、今年はパリ・コレクション直前にガリアーノが失脚と、イギリス人ファッション・デザイナーの二大スターが表舞台から消えた(ゲイ・デザイナーの二大スターとも言える)。両方ともセントラル・セイント・マーティンス(ロンドン芸術大学グループ)の卒業生。

クール・ブリタ二アの凋落? 高級プレタポルテの終焉かも。プリンス・ウイリアムの妻になるケイト・ミドルトンは、クール・ブリタ二アの象徴プリンセス・ダイアナとは違って高級デザイナーブランドで着飾ることはせず、先日、公式の外出に去年のコートの丈を詰めて着用していたのが評判になっている。

爆発的に流行った家庭菜園の次は服のリフォームがインかも。

昨日、アクセスが集中した記事は以下の通り。
http://newsfromsw19.seesaa.net/article/152994326.html

***

2010年06月12日
フィンケルスタインの『ホロコースト産業』は良書でしょうか?

良書かどうかはどの立場に立って読むかによると思います。イスラエルによるパレスチナへの攻撃に対して反対の立場の人でも、フィンケルスタインの発言はラディカル過ぎると言う人もいます。

でも、アメリカのイスラエルロビーの強大さ、執拗さ、裾野の広さを思うと、かれぐらいラディカルでもまだまだ足りないとさえわたしは思います。チョムスキーがあと10人、フィンケルスタインがあと10人いれば、イスラエルに対するアメリカのインテリの世論ぐらいは動かせるかもしれません。

アメリカがイスラエルから軍事支援を引き上げてくれさえしたらといつも考えています。でも、それができるのはアメリカ人だけです。

英語の聞き取りが可能であればこれをご覧下さい。大学での講演のあとの質疑応答です。


ニコニコ動画に登録されていればこれがご覧になれます。(登録は無料です)
「ノーマン・フィンケルスタインはなぜ大学から終身在職を拒否されたか」
デモクラシーナウ!の字幕付き放送です。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2536397

内容は以下の通り。変な海賊テロップにハイジャックされてますがそれは気にせずご覧ください。(後述:ちらちら流れるテロップは海賊の乗っ取りじゃなくて「ニコニコ動画」のお約束でした)

デモクラシー・ナウより:政治学者ノーマン・フィンケルスタインは、イスラエルの政策に対する強烈な批判で米国では異彩をはなっています。2000年に出版した『ホロコースト産業』では、米国のユダヤ系支配層やイスラエルが、ホロコーストという民族の迫害の記憶を利用して、自分たちの利益を増進し、ユダヤ文化の伝統を損なってきたと論じ、痛快な批判を繰り広げました。第二次世界大戦中にスイスの銀行がユダヤ人の資産を着服したとして、ユダヤ系の団体が一斉に騒ぎ立て補償を求めた事件について、あれは何の根拠もないゆすりだったと暴き、アメリカの外では大ベストセラーになりました。デモクラシー・ナウ!にもしばしば登場し、イスラエル支持の論客と鋭い論争を見せていました。

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藤澤みどり

ゲストブロガー

藤澤みどり

“英国在住の文化ウォッチャー、芸術とお酒と政治好き。ブログ「ロンドンSW19から」http://newsfromsw19.seesaa.net/”


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