2011-02-25

レビュー『レイチェル・カーソンの感性の森』 このエントリーを含むはてなブックマーク 

「彼女がいなければ、環境運動は始まることがなかったかもしれない」と、アル・ゴア元アメリカ副大統領はいった。彼女とは、 1960年代に、農薬などの化学物質の危険性を告発した『沈黙の春』の著者、レイチェル・カーソンである。彼女の晩年を描いた映画、『レイチェル・カーソンの感性の森』が、渋谷・アップリンクで26日から始まる。

映画は、レイチェルの死後刊行された遺作『センス・オブ・ワンダー』がベースになっている。センス・オブ・ワンダーとは、神秘さや不思議さに目をみはる感性のこと。同書は、1956年、彼女が49歳のときに書いた論文「あなたの子どもに驚異の眼をみはらせよう」を本にしたもので、1964年に出版された。

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「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないのです。 ―レイチェル・カーソン
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レイチェルを演じるのは、カイウラニ・リー。彼女は、レイチェルの最後の一年を描いた一人芝居『センス・オブ・ワンダー』の脚本を執筆、レイチェル役を演じてきた。スクリーンでは、レイチェルが甥のロジャーとメイン州の海辺の別荘で過ごした日々を中心にドキュメンタリータッチで再現している。カイウラニ演じるレイチェルは、インタビューに答えるように、ロジャーのこと、母親のこと、『沈黙の春』を出版するまでの経緯や、化学業界などから受けた攻撃について語る。

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害虫駆除の効果は広く知られていました。でも誰もその危険を警告しませんでした。毒物の集中砲火が地球の生命に対して脅威を与えないことがあり得るでしょうか。
―レイチェル・カーソン
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環境汚染の会議を風邪で欠席したレイチェルについて、ある新聞記事は“沈黙の春の著者が風邪で沈黙” と見出しをつけた。自分の風邪が新聞の見出しになるなんて大統領なみだと笑うレイチェルだが、誹謗中傷に傷ついていたことは間違いない。批判記事を目にした日は、一日中気分が重い。それでも、夜になれば、気持ちも落ち着くだろうと語る。

レイチェルは、末期ガンと闘っていたが、公にすることはなかった。自分のガンに関心が集まるより、『沈黙の春』への関心を高めたいと思ったからだという。

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小さい頃から作家になるのが夢で、科学者になるつもりはありませんでした。でも、大学でしぶしぶ選択した生物学が人生を変えました。 ―レイチェル・カーソン
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印象的だったのが、「作家が主題を選ぶのでなく、主題が作家を選ぶ」というレイチェルの言葉だ。大学時代、必須科目で受講した生物学に魅せられたレイチェルは、周囲の猛反対をふりきり、専攻を文学から生物学に変えている。当時、女性が生物学の分野で活躍するのは難しかった。海洋生物学で修士号取得。その後、「初級水産生物学者」採用試験にトップで合格し、唯一の女性合格者として漁業局に就職した。

在職中に『ボルティモア・サン』『アトランティック・マンスリー』に執筆。レイチェルの最初の著作『潮風の下で』(1941年 41歳)の出版の足がかりになった。その後、『われらをめぐる海』(1951年 44歳)がベストセラーになり、役所を辞めて執筆活動に集中することに。『海辺』(1955年 48 歳)とともに、これらは海の三部作といわれている。

大学で文学を専攻していたころに習得した作家としての技量と、海洋生物学の専門知識と、自然へのあくなき興味を持ち続けていたレイチェルは、『沈黙の春』を書くために選ばれた人物だったのかもしれない。

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レイチェル・カーソンは雲の上の人か、身近な存在か―。
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レイチェルの『沈黙の春』が引き金になって、後の米政府がDDT使用禁止の法律を制定させたように、クリストファー・マンガー監督は、映画をつうじて「一人の人間が、世界を変えられる」ということを伝えたかったといっている。

監督のこの思いと、レイチェルを18年間演じてきたカイウラニーの存在が、映画を見る私たちとレイチェルの距離を感じさせない作品になっている。

※以下のサイトにも同レビューが掲載されています。
http://www.pjnews.net/news/377/20110225_1
http://yummyseaweed.seesaa.net/article/187714292.html

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奥田みのり

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“フリーランスのライター Twitter→ https://twitter.com/minori_okd ”


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