2010-04-16

強靭な想像力、石ノ森の映画的センス このエントリーを含むはてなブックマーク 

 とんでもない物語だ。粘着質に、執拗に提示され続ける様々なエログロのクリーチャーたち。しかし、明らかに、内なる「何ものか」と闘い、耐えながらにして想像力を萎えさせず生み出された存在なのである。仮に自分が作者であったなら、それは狂気との闘いであろうなと想像する。つまり、天才の所業だということだ。
 この破天荒で奇天烈な物語に、石ノ森章太郎が挑んだ。彼の漫画には(そしてテレビにおいて石ノ森が演出した回の『仮面ライダー』などでも)、常に映画的なセンスが横溢している。この作品でも見られる、「動」でありながらコマ割りのような「静」。俯瞰ショット。闇。そして人間の情念の表現。
 惜しむらくは、エログロの設定を、沼正三の原文を長々と引用する形にしてしまったことだ。ここで、恐怖の世界への没入からこの世に呼び戻されてしまうのだ。少々長くなっても、まるで科学映画のように、ひとつひとつを(やはり執拗に)漫画によって説明してくれていたなら、この奇書はさらなる傑作になったことだろう。
 特筆すべき点は強靭な想像力の持続だけではない。それは差別への視線だ。恋人を家畜人とされながら、やがて支配者へと変貌する女性の姿を追う私たちは、差別という人間の業の恐ろしさに震えるのだ。

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