2009-01-11

自閉症の妹をしっかりと見つめた名作 このエントリーを含むはてなブックマーク 

サビーヌの悲劇には胸が痛む。けれども、この映画を見た後のこころは、驚くほど軽い。それは、サビーヌの涙が、悲しみではなく喜びであることを知ったからだ。

 精神病院での不適切な治療から、多くの能力を奪われてしまった彼女。その軽やかな姿は失われてしまった。外国旅行にいくこともできない。しかしビデオに映った過去の姿をみることで、かつての幸せだった日々に帰ることはできる。

 このレビューを書いているわたしは、福祉事務所で働いているので、発達障害を持った方の社会生活、とくに就労がいかに困難かという現実を知っている。日本では、障害に対する理解もすすみ、様々なサポートが行われるようになった。

 簡単にフランスと日本を比較することはできないが、その家族の苦労は一通りではない。妹の悲劇と自閉症のケアを社会に訴えるという、人気女優、初監督のサンドリーヌ・ボネールは、その思いを見事に作品に結晶化している。

 天使のように水の中にただよう彼女。ピアノが上手で、活動的で、入院以前の姿と5年間による投薬で、肥満し、よだれをたらし、見捨てられる不安におびえ叫び、ときには相手を攻撃する姿が、交互に映し出される。

 撮影されているのは、嘘のないありのままの姿だ。もっとよく見てみると大地に横たわり彼女が眺めている青空、カメラの向うで暖かく見守る姉に声をかける無邪気なサビーヌの姿が見えてくる。

 単純に過去と現在をつなげただけのストレートな映像は、直球を見る人のこころに投げ込んでくる。だから、しっかりとうとけとめようとするとこころが痛むのだ。

 この映画を見る方の身の周りにも、心身の障害を持った人や、認知症の老人というのは必ずいるはずである。

 自閉症や発達障害というと、なにやら相手にするのが難しい、やっかいな人たちと感じるかもしれないが、ぜひ、こころの痛みを感じさせるこの映画をその人たちと一緒に見て欲しい。

 自閉症に対する理解と、暖かいケア、それ以上にみんなが支え会って生きることの大切さを感じ、できる範囲で、みんなが助け合って、サビーヌの悲劇を二度
と繰り返してはならない。

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tade

ゲストブロガー

tade

“ゴダールと黒沢清、周防さんが好きな監督。周防さんはご近所です。”


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