2008-11-24

パリの空の下・・・ このエントリーを含むはてなブックマーク 

重い心臓病の、元ダンサーのピエール。
彼は心臓移植の日をむかえるまで、自室から
パリの街並みとそこを行きかう人たちを眺める毎日を送っています。

向かいのアパルトマンに住むソルボンヌの学生レティシア。
ピエールも憧れる美しい彼女は
お似合いのボーイフレンドがいながら
歴史学の教授ロランとも関係をもっています。
「若さが加わった美しさは理不尽で不作法・・」
「君の肉体を罰したい・・・」なんて
はるかに年下の教え子に若い男を装って
ストーカーまがいのショートメールを送り続けるロラン。
分別あるべき大学教授の破廉恥な行為も
刹那の感情だけで生きている若い女性も
パリの街はそれらを包み込んでいきます。

ロランの弟、建築家のフィリップ、
マルシェで働く元夫婦、ジャンとカトリーヌ、
文句ばかりいっているパン屋の女主人、
パリに密入国しようとしているブノワ、
そして、弟ピエールをサポートする
ソーシャルワーカーの姉のエリーズ、
彼女が担当する移民やホームレスたち・・・

この中には何組かの恋愛関係も存在し、
「ラブアクチュアリー」のような恋愛群像劇と思いきや、
ほのぼのと観られるものはなく、
倫理的にも生理的にもちょっと引っかかる愛の形は、
いかにもフランス映画でした。

登場人物には、ピエールが会うはずもない人や
ベランダからはみえない場所もふくまれています。
「ぼくは、(ここから街をながめて)人々を主人公に物語を考える」
と言っているので、彼の頭の中で紡ぎだされたものかもしれませんが、
私は、ピエールが心の目で見た真実、と受け取りました。
「幸福の王子」がツバメの目を通して街の人たちの営みを
垣間見たように、自分の命の終わりを意識した彼の心に
人々の喜びや哀しみをとどける「見えないツバメ」のような
不思議な力が存在したのではないかな?

「なんでもっと早くに(病気のことを)教えてくれなかったの?」
という姉に
「ぼくが死ぬっていうのに、なんでそんなに がなりたてるんだ!」
「健康を謳歌して楽しめばいい!」
と怒っていたピエールのまなざしがだんだん深くなり、
ちょっと前まで、「ゲイのダンサー」みたいだった彼の風貌も
だんだん、イチローを思わせるストイックな面構えになっていきます。
髪がぬけたり、やつれたり、というような
安直な「変化」でなかったところが、逆にリアルでした。

映画をみたあと、いつもの見慣れた景色が
ちょっと違って見えることがあります。
それは、観ている私自身がちょっぴり変わった、ということで、
(私にとっては)映画を見る楽しみのひとつなのですが、
まさにこの作品がそうでした。

心臓の提供者が現れるラストでは
パリの街に別れを告げて病院に向かうピエール。
無事生還を果たした彼に(←こうなる!と勝手に信じているのですが)
今度は、パリの街はどう映るのか、
パリの街は彼に何をささやくのか・・・
想像するだけで、私の心の中でこの物語の第二章がはじまります

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kerakuten

ゲストブロガー

kerakuten

“最近になって、月に15本くらい映画をみるようになりました。原作本の感想とあわせて、ブログに書き込んでいます。 ”