2021-10-02

吉田恵輔監督「空白」(新宿ピカデリー)を観て。 このエントリーを含むはてなブックマーク 

 29年前の夏、『人を殺した』と思った。
障害者の山の会にリーダーとして参加し、(確か)十数人の子ども達と三頭山へ登り、ふと目を離した隙に、当時18才の女の子がいなくなってしまったのだ。最初は気楽に「そこら辺にいるンじゃない」と言ってたが、捜せど捜せど見つからない。地元の警察、消防団、レスキュー隊、警察犬…大掛かりな捜索になればなるほど自分の立ち位置を見失い、先輩のリーダーと闇雲に奥多摩の山々を歩き回る。「女の子の声」という幻聴、「女の子の姿」という幻視を初めて体験する。やがていったん捜索は打ち切り、縮小されるという事が決まった夜、宿舎の女将さんに言われた言葉が忘れられない。「秋になって、葉っぱも落ちてきたら、きっと出てきますよ。」ニッコリ笑顔で。山で暮らす人々には、遭難は日常的なことなのだろうが、こちらは呆然としてしまい自分の居場所が見つけられなかった。で、結局、遭難4日後の早朝、山梨県の川沿いで釣り人に発見された。五体満足(かすり傷はかなりあったが)、食欲旺盛。『ああ、良かった。人殺しにならずにすんだ』
 追い詰められて煮詰まった際、他のリーダーたちは「退職金を前借して遺族保障にあてる」だの「現職を辞めて仏門に入る」と言い出したのだが、俺は「しょうがないから、また役者でもやるかな」と思ったのだ。間違いなくロクデナシだ。追い詰められてないじゃないか。保身だけだぞ、俺。そういう人間なんだ、俺は。いや、そんな事を思い出しながら観てしまった作品。

 出演者全員、抱きしめてあげたい。(古田新太は、ちょっと遠慮しておく。)
 片岡礼子、あなたはえらい。彼女の台詞を書いた、この監督、もっともえらいぞ。他の作品も観てみよう。
 

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大倉順憲

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