2016-08-28

僕はなぜ、映画を映画館で観るのか? このエントリーを含むはてなブックマーク 

「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」を劇場で観たときのこと。
エンドロールが終わり、最後にもう一度マイケルが現れる。短く軽やかなステップを踏み、映画は終了。
そのときだった。
満席の会場のあちこちから拍手が起こった。
やがてその場に居合わせた僕を含め、全ての観客が拍手を送った。
目の前にマイケルはいない。
ただの白いスクリーンに向かって、僕たち観客は拍手を送ったのである。
それは鳥肌が立つような、感動の一瞬だった。
劇場出口に向かう僕の後ろ、中年夫婦の会話が聞こえた。
「こんなの観たら、日本のなんて子供だましやなぁ~」
映画を映画館で見続けていると、こういう奇跡の一瞬に出会えることがある。
僕が本格的に映画館に通うきっかけになったのは、2004年公開の邦画「スウィングガールズ」との出会いだった。
それまで僕は20年以上、映画館に行ったことすらなかった。
しかし、そんな僕が「スウィングガールズ」という映画にハマってしまった。この作品は多くの中年おやじを虜にし、ちょっとした社会現象を巻き起こした。
結局、僕はこの作品を劇場で14回観る羽目に陥る。
14回目を観終わったとき、僕は「スウィングガールズ」という作品だけではなく「映画」そのもののファンになっていた。
そして、同じ映画を14回劇場で鑑賞して分かったことがある。
客席の反応は14回、それぞれ全く違っていた、ということである。
このことから僕は、一つ勉強させてもらった。
「映画を映画館で観る」という行為は、実は「ライブなのだ」ということである。
スクリーンでかかっている映画は毎回同じだ。
しかし、その場に居合わせた観客は、まさに一期一会の出会いなのである。
映画を一緒に鑑賞する人たちは、その場限りの「共同体」なのだ。
ただ、残念なことも同時にわかった。
それは「THIS IS IT」のときのような、奇跡の瞬間は、100回映画館に通って、ようやく一回程度しか体験できない、ということである。
僕は「スウィングガールズ」以降、今まで500本以上の作品を劇場鑑賞してきた。
しかし、奇跡と思える瞬間は、これまで5,6回に留まっている。
映画ファンの一人として、多くの人が映画館で映画を観るようになってほしい、と僕は願う。
しかし「ハズレ映画」にあたってしまったら、これもまた大きな落胆があるだろう。
映画を映画館で観るという行為は、まず、スケジュールを調べ、身支度をして家を出るところから、すでに始まっている。
バスに乗り、電車を乗り継ぎ、あるいは車を走らせ、ようやく劇場にたどり着く。どんな作品に出会えるのだろう、という期待で胸がときめく。すこしばかりワクワクする。
そういった面倒くさい行為を、100回程度繰り返さなければ、奇跡の体験に出会えない。
そこまでして映画を見る必然性がどこにあるのか?
だから一般ピープルである僕たちは、新作映画が発表されても、レンタルビデオ店のDVDで済ませてしまおう、というオチになる。
観客自身の費用対効果、それにネットを始めとするメディアの細分化、および観客の嗜好そのものの細分化、それらを総合して考えると、これからさき、劇場が観客で溢れることは、もうありえないのかもしれない。
そうなると、映画会社は売れ筋の映画しか作らないことになる。当然のように若手映画クリエイターたちの活動のチャンスは少なくなってゆく。
映画会社はリスクを取りたくないのだ。
結果、映画作品はどんどんありきたりになる。つまらなくなる。
まさに負のスパイラル。最悪のシナリオだ。
映画と映画好きに残された道は数少ない。
結局のところ、細分化されてもいいじゃないか。
この際、開き直って、映画の虜、映画の奴隷、映画の狂信的信者、を一人でも増やすことを考えたほうがいいのではないか?
裾野が狭くなってゆく、映画館で映画を見るコアなファンたち。
その狭い隙間が、何やら熱狂している、お祭り騒ぎをしている。そんな映画作品が生まれたら、僕のように何を血迷ったか、映画館にふらふらと迷い込む者がまた一人増えるかもしれない。
僕は両手を広げて歓迎するだろう。
「ようこそ映画の蟻地獄へ」と。
映画好きというのは、別にインテリでもなければ、高尚な趣味でもない。
そこらを誤解されてもらっては困るのだ。
立川談志師匠は落語を「人間の業の肯定である」と言い切った。
「人間としてこんなダメなやつがおりました」と愚かしい人間の行為を笑いに変換し、聴衆にただ提出する。それをどう面白がるのか? それは聴衆の自由裁量に任される。
同じように、ハズレ映画も数々あるけれど、それでも映画館へ通うのは
「わかっちゃいるけど、やめられない」からだ。
僕がなぜ映画を映画館で観るのか?
それは、映画ファンとしての「業の肯定」に他ならない。

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天見谷行人

ゲストブロガー

天見谷行人

“映画館は映画と観客がつくる一期一会の「ライブ会場だ!!」”