2016-07-25

クリード チャンプを継ぐ男 このエントリーを含むはてなブックマーク 

2016年1月26日鑑賞

もう「ロッキー映画」とは言わせないぜ!

「ロッキー・ザ・ファイナル」を観た時「シリーズ中の最高傑作ではないか!」と思ったのと同時に「これでロッキーシリーズも見納めだなぁ~」という一抹の寂しさを感じました。
しかし、その作品から8年、ロッキーシリーズは”まだ”終わった訳ではなかったのです。
我らが下町のヒーロー、ロッキー・バルボアは、その魂を引き継ぐ後継者をスクリーンに登場させたのです。
本作「クリード」の主人公は、ボクシングのチャンプを目指す一人の若者、アドニス・ジョンソンです。
実は彼、ある人物のDNAを引き継いでいます。
彼の本当のお父さんは、ロッキーの永遠のライバル。
あのアポロ・クリード、その人でした。

アドニスは少年の日々、すさんだ生活を送っていました。町のゴロツキと喧嘩を繰り返し、警察の留置場にごやっかいになることもしばしば。
ある日”いつものように”留置所生活を送っていた彼に、一人の黒人おばさんが訪ねてきました。名前はメアリー。上品で、教養もありそう。育ちの良さそうな黒人女性です。
「あんた、どうせ民生委員だろ」
アドニスはちょっとハスに構えてメアリーを見ます。
実はメアリー、伝説のボクサー、アポロ・クリードの実の妻だったのです。
メアリーにしてみれば、目の前にいるのは紛れもない、亡き夫の忘れ形見。
他の女性が産んだ子供とはいえ、一人息子に違いないのです。
メアリーは微笑みます。
「あなたを息子として引き取りに来たの」

こうしてアドニスはメアリー・クリードの元で成人を迎えます。一般企業にも就職し、社会人として順風満帆。穏やかな人生を送るかに見えたのですが……。
血は争えないといいますか、この辺りがアポロのDNAを引き継いでいるんでしょうね。実はアドニス、仕事の傍ら、メキシコのボクシングリーグでファイトしてるんですね。
結構いい成績を収めている。
そこで一丁、地元全米のプロリーグへチャレンジしたくなります。自分がナンバーワンになるには、どうしても頼みたいコーチがいます。
他でもない、自分の本当の父親、アポロ・クリードの永遠のライバル。そう、我らがロッキー・バルボア、その人です。

いてもたってもいられず、ロッキーの店に駆けつけるアドニス。
そんな彼を見て、
「アホいうな、おれはもう、ボクシングなんてやらん。見ての通り、老いぼれだ」
ロッキーはなかなか取り合ってくれません。

今ではイタリア料理の居酒屋を営むオヤジさん。
飲食店経営者の姿が、すっかり板についた感じがある、ロッキー。
おなじみの斜めにかぶった中折れ帽子。
だるそうに、くぐもった声でゆっくり語る、かつての栄光のボクサー。
その後ろ姿。背中から醸し出す、哀愁。
シルベスター・スタローン演じる、この初老の人物が、スクリーンで”若いモン”相手に、なだめるように諭し、語る姿を見て、もう涙が出そうになりましたよ。

本作では、ロッキーシリーズでお馴染みの、あのメロディーラインが、後半さりげなく挿入されるなど、ロッキーファンにとっては、まさに「涙モノ」の演出です。
もちろん、リング上での臨場感あふれるボクシングシーン。
そのキャメラワークの見事なこと!!
踊るようで、しかも滑らか。手ブレなんか一切ありません。
まるでこれは、かつての伝説のチャンプ、「モハメド・アリ」の名セリフ
「蝶のように舞い、蜂のように刺す」
そういうキャメラワークを使ってます。
わかってるなぁ~、この監督。
若干29歳のライアン・クーグラー。いい腕してますよ、この監督。
役者のアクションの段取りなど、何回も何回も、緻密に丁寧に確認したんだろうなぁ~、と思います。素晴らしいシーンの連続ですよ。

夢を追う若者の清々しさ、たくまさ。それを見守る老いたボクサー。
これから花咲く蕾と、枯れてゆく人生の対比の鮮やかさ。
そこには、なにか日本的な「もののあはれ、人のあはれ」さえ感じさせてくれます。
若い頃は上り調子、坂の上の輝きを目指して駆け上ってゆく。しかし、やがて人は知るのです。人間、誰しも老いる時が来る。
人生のくだり坂。気をつけないと、あっという間に転げ落ちる。
ちなみに登山での事故は、登りよりも圧倒的に下山時の事故が多いと聞きます。
この人生の下り坂、自分の生き様に、どのような決着、エンディングを見つけるのか? そんなロッキーの姿に、僕のような中年オヤジは、おもわず自分を重ね合わせてしまうのです。
「俺はうまく、くだり坂を下りられるだろうか?」と。
人生の枯れゆく姿を、本作において美しく映像として切り取ってみせた、若き映画作家。
ロッキーはもちろん登場するけれど、本作は「もう、ロッキー映画ではない」のです。
紛れもなくロッキー映画のDNA、バトンを受け取った「次の若き世代」が作り上げた、新たなボクシング映画の秀作の誕生。
スクリーンで、その瞬間に立ち会えたことを嬉しく思います。
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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)
物語 ☆☆☆☆
配役 ☆☆☆☆☆
演出 ☆☆☆☆
美術 ☆☆☆☆
音楽 ☆☆☆☆
総合評価 ☆☆☆☆
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作品データ
監督   ライアン・クーグラー
主演   マイケル・B・ジョーダン、シルベスター・スタローン
製作   2015年 アメリカ
上映時間 133分

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天見谷行人

ゲストブロガー

天見谷行人

“映画館は映画と観客がつくる一期一会の「ライブ会場だ!!」”